第2話 手紙

 ある夜のことだ。


 窓を叩く音がした。こつん、こつん、という小石がぶつかるような音だ。


 雹でも降ってきたのかと思って、カーテンを開け、窓の外を見た。


 隣の家の窓から双子の片割れがこちらを見ていた。


 彼の手には布団叩きが握られている。赤い、一メートルくらいの棒状の布団叩きだ。布団を叩くための膨らんだ部分は彼が握っていて、棒の先端の部分には輪ゴムで洗濯ばさみがくくりつけられている。そしてその洗濯ばさみに、折りたたんだ紙が挟まれている。


「……何、これ」

「神那ちゃんへのお手紙。相方から手紙の配達を頼まれたので」


 おそらく、この紙を取れ、ということなのだろう。


「いや、なんで窓から? しかも、なんで紙で? なんでLINEではなく?」

「LINEだと個と個のやり取りでしょう? これは僕と相方の総意なんだよ」


 相変わらず訳の分からないことを言う男だ。片方にLINEを送っても常に同期しているのかと思うほど同じくらいのタイミングで情報を把握しているくせによく言う。


 このまま眺めていても何にもならないので、神那は洗濯ばさみに挟まれている紙を手に取った。


 紙はB5サイズのルーズリーフを折りたたんだものだった。しかし彼だか彼らだかは罫線を無視して大きくこんなことを書いていた。


『かんなちゃんへ

いつもありがとう』


「母の日か?」


 神那が言う前に向かいの窓は閉じられていた。ご丁寧にもカーテンまでもが閉められる。


 どうやらこれが双子の総意らしい。


 悪いことではない。神那は普段からわりと感謝されるようなことをしていると思う。自覚があるのはいいことだ。できればもう手を焼かなくても済むように何とかしてほしいが、そういうことを言っても何を言われているのか分からないのがこの双子である。


 今窓から手紙を差し入れたのが太梓か奈梓かは分からないし、手紙を書いたのが太梓か奈梓なのかも分からないが、まあ、隣の双子はそういうものである。




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