第4話 恋しい
部活が終わって校門に向かうと、双子の片割れがスマホをいじりながら待っていた。いつもは二人揃って待っているというのに今日は一人とは、珍しい。
ぱっと見ではどちらか分からなかったので、神那は適当に「お待たせ!」と声を掛けた。
片割れが顔を上げる。
「今日一人?」
「たずトイレ行った」
どうやらここにいるのは奈梓の方だったようだ。
奈梓を奈梓と認識して二人きりになるのはいつくらいぶりであろう。
神那には太梓と奈梓の区別がつかない。
見た目はまるっきり一緒だ。どうやら本人たちはわざと同じ美容院に行って同じ髪形を注文しているらしい。制服の時は言わずもがな、私服の時も似通った趣味をしている。
声のトーンもまったく同じで、口調もほぼ同じだ。二人とも一人称は僕だ。
性格も、微妙に違うが、二人の仲がとても良いので特別に配慮して別扱いする必要はなかった。むしろ――
「修学旅行、やだなぁ」
奈梓が言う。
「なんで? 楽しみじゃない? 広島。おいしいものがいっぱい」
「僕とたず、夜のホテル別々なんだよね」
「クラスが別々だからね」
「夜たずと一緒に寝ないとか無理」
「あんた中学の修学旅行でも同じこと言ってなかった?」
眉間にしわを寄せた神那を見て、奈梓が溜息をつく。
「神那ちゃんには分からないんだよ。僕らは生まれる前からずっと一緒に寝てたんだよ? 相方と別々に暮らすのがどれほど不安なことか神那ちゃんには一生理解できないんだ」
「あんたたちを十年以上見てるんでだいたい分からなくもないけど……いわゆる胎内記憶っていうのがあるんだよね」
「ないよ」
「ないんかい」
ちなみに中学の修学旅行はどうしたのかというと、双方クラスメートに頼み込み教師に見つからないよう密かに部屋を交換して同じ部屋で寝泊まりした。神那も一生忘れないだろう。そこまでして一緒にいたいのかと呆れ返ったのだ。
しかし二人の間に個性がないのもまた二人の個性であると言えるだろう。
神那は寛大な心で二人の関係を潰さぬよう配慮してきた。二人の間には神那の目には見えない太く強いつながりがあるのだ。第三者である神那が断ち切ってはいけない。
「今日は別行動なの偉いね。たずのトイレついていかなかったんだね」
「二人ともいなくなったら神那ちゃんとすれ違っちゃうじゃん。神那ちゃん一人で待たせるわけにはいかないし」
「成長したねぇ! 偉い! 偉いよ、なず! たずも!」
「そうでしょう、そうでしょう」
奈梓はにこりともせず頷いて制服のポケットにスマホをしまう。褒められることを当たり前だと思っているのだ。
それからほどなくしてのことだった。
「神那ちゃーん、なずー」
校舎の方から太梓が駆け寄ってきた。
「何の話してた?」
「修学旅行の話」
「たずは修学旅行、どう? 大丈夫そう?」
神那はてっきり太梓も奈梓と別室なのが寂しいと言い出すかと思っていた。
「楽しみだね、呉の大和ミュージアム。大和はロマン。僕は武蔵の方が好きだけど」
「……まあ、なずに比べてたずはそういうところあるね」
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