第27話 銀の実
神那はぎょっとした。自室に戻ってきた途端立て続けにLINEが鳴ったからだ。机の上でひっきりなしにスマホの画面が明滅している。止まる気配がない。軽いホラーだ。
スマホの画面を見る。
犯人は双子であった。ほぼ交互に太梓、奈梓、太梓、奈梓と表示されては消えていく。おそらくカーテン越しに神那の部屋に電灯がついたのを確認してからLINEを送り始めたのだろう。今神那が部屋にいてスマホを見ていることを知っていてこういういたずらをするのだ。
放置しておくことに決めた。そのうち満足するに違いない。
今の神那はお風呂上がりだ。暖房のついた部屋では肌の乾燥が気になる。
着ていた下着を脱ぎ、生まれたままの姿になってから床のラグの上に腰を下ろす。
季節柄隠れることも承知で処理した無駄毛のない脚にボディジェルを塗る。自分で自分をケアしている、自分がとても大切なものになったかのように思える大事な時間だ。
スマホが鳴り止む気配はない。
うるさい。
ボディジェルを塗り終わり、ボディミルクも塗り終わるかという頃、カーテンの向こうから、がらっ、という窓が開く音がした。
「神那ちゃんLINE見てよ!」
「いい加減にしなさい!」
すぐ閉まる音がした。寒かった上に怒られたのでしょげたのだろう。
カーテンを閉めてあるので見られることもないのだが、何となく嫌だったので下着を身に着けてからスマホを見た。
神那と双子は三人でグループLINEを形成している。家にいる時は片方にLINEをすればもう片方にも自然と伝わるが、学校では三人クラスが違うのでたまに必要になるのだ。しかしあくまで、たまに、であって、そんなに頻繁には使われない。だからこそ、通知が来るように設定してあるのである――実は、部活仲間のグループLINEやクラスメートのグループLINEは絶対に誰かしら何かしら送っていると分かっているからこそあえて通知を切っていて、意識的に逐次チェックするようにしている。
グループLINEに双子からのメッセージが蓄積されていた。
『かんなちゃん聞いて』
『母さんがありえないんだけど』
『銀杏食べたらめちゃめちゃ怒られた』
『銀杏食べただけで出ていけと言われた』
『ひどくない?』
『毒親だ』
『虐待だよ』
『銀杏だよ』
『たかが銀杏くらいで』
『鍋に入れる予定だったらしいんだけどさ』
『鍋に入れたら埋もれて取れなくなっちゃうし』
『水煮の銀杏ね』
『冷蔵庫にあった水煮の銀杏を食べただけなのに』
『冷蔵庫にあったもの食べただけで怒るとかひどくない?』
「おばさんに謝りなさい、と」
『なんで?』
『僕らの何が悪いの?』
『たかが銀杏で?』
『冷蔵庫に入ってた銀杏を食べただけで頭を下げなければならない?』
『なぜ?』
「銀杏案外高いし、鍋に入れる予定だったんでしょ、と」
『どうせ食べるの僕らなのに』
「おじさんとおばさんも食べるでしょうが」
『かんなちゃんはうちの親の味方するんだ』
神那はパジャマのパーカーを着た。そしてカーテンを退けた。
がらっ、と音を立てて窓を開ける。
寒い。雨が降っている。早く閉めたい。
だがこれは一言言ってやらねばなるまい。
「双子!」
またスマホが鳴った。
『寒くない?』
『僕もう窓開けたくないからLINEで返してよ』
「今すぐ二人でスーパーに行って銀杏の水煮買ってこい! んでもってとっとと鍋食べて歯ぁ磨いて寝なさい! じゃね!」
窓を閉めた。
あとは既読スルーだ。
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