第22話 冬将軍

 今日は今シーズン一番の寒さになるのだそうだ。最高気温はなんと一四℃である。


 通学のために乗ったバスの通路に三人並んで立つ。


「十二月並みだってさ」


 双子の片割れが言う。


 今日は冷たい雨が降っている。朝はさほど強くなかった雨もこれからどんどん勢いを増していくと言うので、普段は「僕らは天気予報などには屈しない」などと豪語して傘を持ち歩かない双子もさすがに今日は傘を差して現れた。ちなみに二人とも黒い大きな傘で二本ともまったく同じものであると思われる。どっちがどっちを使っても一緒なのである。


 寒さ対策と言えば、双子は本日学生服の下にパーカーを着ていた。学生服の詰襟の後ろからフードがはみ出ている。片方は迷彩柄でもう片方は黒地に白のドット柄だ。どちらがどちらかは分からないが、そこはなぜかお揃いではないらしい。どこにどういう基準があって同じものにしたりしなかったりするのかはよく分からない。


 神那も今日は防寒対策で昨日より重装備をした。ユニクロで買った薄手の臙脂のカーディガンではなく、ハニーズで買ったピンクの分厚いセーターである。

 ゆとりのある作りなのかパーカーを着てもさほどかさばった感じのない学生服とは異なり、神那のブレザーははちきれんばかりに膨らみ前ボタンを留めるのもぎりぎりだ。


 しかし――言ってしまえば、その程度である。


「……暑くない?」


 三人は、バス通学なのである。

 同じ高校に通う学生ですし詰め状態のバスは人いきれで蒸していた。


 そう、閉め切れば寒くないのだ。


 重装備といえども、いつもより少し厚い服を着ただけだ。

 マフラーもなければ手袋もない。


 これが静岡の高校生スタイルである。


「さすがにまだ十二月じゃね……。一月二月はもっと下がるでしょ、最高気温が一〇℃を切るか切らないかくらいからが冬本番でしょ」


 双子の片割れがそう言うと、もう片方が「ていうかさ」と顔をしかめる。


「どちらかというと僕三月が一番寒い気がするなぁ。NHKの天気予報で冬将軍と春ちゃんが戦い始める頃だよ」


 キャラクターの顔を思い浮かべて神那は「ああ」と頷いた。


「気温ってさ、下がっていく時より上がっていく時の方がきついよね。最高気温一四℃じゃさ、こたつ、出そうとは思わないけど、しまおうとも思わないじゃん」


 神那の台詞に、双子が揃って「それ」と言った。


「まあ、今年は特別暖かい気もするけどなぁ。山から通ってる連中が富士山がまだ白くないってよく言ってるよ」


 言われてみればそうかもしれない。富士山など毎日意識して見ていないので気づいていなかったが、初冠雪の便りを聞いたのはいつだったか。その後富士山はまだ青いのか。

 今日は雨なので富士山は見えない。この雲が晴れて次にその顔を見る時には白くなっている、といいのだが。


「いずれにせよ、これから気温が下がっていくんだから、双子、風邪ひかないでね。片方が風邪ひくとすぐもう片方も風邪ひくんだから。三人でインフルエンザなんて今年こそごめんだからね」

「はーい」










 神那が明日以降また気温が上昇して最高気温が二〇℃に達する日々が続くことを知るのは、学校が終わって帰宅して、家族で夕飯を食べながらニュースを見ていた時のことである。


「え、これ、富士山ぜんぜん白くならないじゃん」






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