第23話 温かい飲みもの
友人たちとのカラオケパーティで散財をして危うく今月分の小遣いの予算を使い切りかけた神那は、夜の外食を断念して夕方早い時刻に帰宅した。
おりしも双子は近所の犬の散歩をするボランティアに従事していた。神那が自宅の玄関先に立ったちょうどその時に二頭の巨大なコリーを連れた双子が現れたのである。
「神那ちゃん!」
「神那ちゃん、神那ちゃん!」
「おかえり神那ちゃん!」
「神那ちゃんが帰ってきた!」
神那は家の鍵を持ったまま振り向いた。
「ただいま。どうしたの? テンション高いね」
「犬の散歩のお礼にってチョコ貰った!」
「神那ちゃんチョコ食べよう!」
首を傾げる。
「散歩に行く前に貰ったの? 今歩きながら食べればよかったのに」
「それがさ、見て」
双子が両方とも自分のパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
二人とも、ポケットから板チョコを取り出した。一枚がそこそこの大きさのある、文字どおり板の、古き良きスタイルのミルクチョコレートである。
「これ一人一枚歩きながら食べるってなかなか勇気いらない?」
「いるわ。かじったら砕け散るし割ったらポケットの中でぼろぼろするわ」
「おばちゃんいつもお菓子作りとか料理の隠し味としてとかで冷蔵庫にこういう板チョコ常備してるらしくてさ」
「そうだよね、ふつーそれをそのまま食べるってことないよね今時」
「でも犬の散歩偉いからあげるって言われて思わずうっかり受け取っちゃった」
立ち止まった双子に付き従い、二頭のコリーもおとなしく足元に座って舌を出している。
「三等分しよう。僕ら優しいから神那ちゃんにもあげるよ」
「ありがとう。でも本当に優しい子は自分から優しいって自己申告しないと思うの、そこんとこ覚えておいてね」
しかし板チョコを奇数の人数で均等に分けるのはなかなか大変そうだ。パズルでもする気なのだろうか。双子はそういう機転は利くので何らかのうまい方法も思いつきそうだし、さすがの神那も十七歳でありチョコの欠片の大きさが違うというだけの理由で怒りはしないが――
「あ、そうだ」
ひらめいた。
「犬たち返してきたらうちにおいでよ。チョコ、三人で分けよう」
双子が素直に「はーい」と返事をした。
というわけで、十数分後の神那の家のキッチンである。
神那はまず、小さな鍋を取り出した。
次に、冷蔵庫から牛乳を取り出した。
そして、牛乳を鍋に入れ、火にかけた。
双子がじっと神那のすることを見つめている。
双子の持ってきた板チョコ二枚を割り砕く。鍋の中の牛乳に入れる。
焦げつかないよう、噴き出さないよう、慎重に掻き混ぜる。
牛乳とチョコの甘い香りが溶け合う。
牛乳が完全にココア色になったのを確認してから、火を止めた。
ホットチョコレートの完成だ。
マグカップを三つ用意する。三つに均等にホットチョコレートを注ぐ。
「はい、どうぞ」
マグカップを手に取る。
右手のカップを片割れに、左手のカップをもう片割れに渡した。
双子の顔にぱっと笑顔が広がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます