第25話 初霜

「はい始まりました十一月最終ラップ」


 三人並んで歩く通学路、バス停までの徒歩五分の道のりで、双子の片割れがそんなことを言い出した。

 神那はふと笑って空を見上げた。

 雲がうっすら残るものの、その雲の狭間からは蒼い空が覗いていた。


「今日も、暑くなりそうだね」


 双子の「それな」と言う声が重なった。


「十一月最終週ですが、ご覧ください」


 双子の片割れが道路の右、春から夏にかけては田んぼとして使われている土地を指差す。刈入れの後に残った稲の株が葉を伸ばしているので、ぱっと見た雰囲気が牧草地帯だ。むしろ稲を刈ったばかりの九月の方が寒々しかった。青々と茂る雑草の楽園は小春日和を通り越して双子から学ランを剥ぐこの陽気にふさわしい。


「霜月とは……?」


 早朝小雨がぱらついたためか遠くの空には雲がかかっていて富士山は見えない。山頂は寒いに違いないので今日こそ白くなっているかもしれないが、今の三人に確認するすべはない。


「地球は温暖化している……?」

「いや、冷静に考えよう。そもそも霜っていつ何度で降りるもの? 僕らが子供の頃踏んで歩いた霜柱はいったい何月何日のものであったか思い出してみよう」

「いや、いやあ、一月二月だった気がするなぁ……三学期だよ三学期……」


 双子が神那を挟んで会話をする。いつものことである。

 神那もふと思いついたことを口にして間に割り込む。


「霜月、って単語があんまりぴんと来ないね。そもそも霜っていう単語が身近じゃないからかな」


 二人が揃って手を振った。


「NHKの天気予報見るとよく聞くよ。遅霜予報ってやつ」


 神那は眉間にしわを寄せた。


「それって三月四月では? 茶葉が凍るという話では……?」


 神那のそんな台詞を聞いた双子の片割れが「ほらー!」と大声を出した。


「やっぱり秋より春のが絶対寒いって!」

「というか秋ってなに? 秋の概念とは? 紅葉イズいつ? 伊豆は燃えているか」

「パリみたいに言うんじゃない」


 そうこうしているうちにあっと言う間にバス停についた。ここから沼津駅まで東海バス、沼津駅から学校までは富士急バスだ。二本のバスを乗り継いで通学するくらいなら自転車通学をして体を鍛えろとは双子の片割れのクラスメートの言だが、暑い日も寒い日も片道一時間ほど自転車を漕ぐ覚悟は双子にも神那にもない。


「でも双子、気をつけてね。天気予報だと明日からは寒くなるってさ。本当は今日から雨で寒くなる予報だったんだけど、明日から、明日こそ、十二月並みの寒さになるって言うからさ」

「信じない。僕は信じないぞ。お天気キャスターごときに騙されてなるものか」

「十二月並みって言っても上旬と下旬があるじゃない? 上旬はそんなに寒くないじゃない? 去年の十二月頭の僕コート着てた?」

「つべこべ言うんじゃない。いいから明日はちゃんと厚い方のニットカーデかパーカー着てきなさいよ。本当に寒くなったらどうするの。暖かかったら脱げばいいんだからさ」

「はーい、神那ちゃんがそう言うなら」



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