第6話 当日券

 神那は小中高校とずっと双子の世話係を続けているが、他に友達がいなかったわけではない。


 中学時代の親友から入ったヘルプコールに、血の気が引くのを感じた。


「ねえ、双子」


 放課後の廊下、また二人で謎の会話をして神那を待っていた双子に声を掛ける。


「明後日の日曜日、ヒマ?」


 双子が顔を見合わせた。


「ヒマかな? 僕らより神那ちゃんの方が僕らのスケジュールに詳しいからね」

「知ってた。ヒマだよね。分かるよヒマでしょ」

「うそ、用事なくもない。僕らにしては珍しく神那ちゃんに秘密の予定を入れていた」

「なんと!」


 双子が同時に通学カバンとして使っているリュックサックに手を突っ込んだ。黒い揃いの折り畳み式の財布を取り出す。

 二人とも、お札入れの部分から、白い四角いチケットが出てきた。


 神那は真っ青になった。


「それは……まさか……」

「西高の吹奏楽部のコンサート……」

「神那ちゃんの友達が出るから、チケット、買ってあげなきゃ、と思って……」

「神那ちゃんもどうせ行くだろうから、三人で行こうかな、って……」

「なんで前売り券買っちゃうの……!」


 双子が同じ方向に首を傾げた。


「チケットの売れ行きが悪いって……だから双子に当日券買ってもらって二人分席を埋めようかと思ってたんだけど……持ってるんだねチケット……!」

「おお……」

「なんか……」

「たまの親切が裏目に出た……」

「ごめん……」


 この後、神那と双子は共通ではない友人たちを片っ端から当たって日曜日の予定を聞き出して回るはめになる。






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