第12話 並行

 校門からバス停までの三分もない距離を三人並んで歩く。

 配置はいつもと同じだ。右に双子のどちらか、左に双子のどちらか、そして真ん中に神那である。もしかしたら左右もどちらがどちらか定位置が決まっているのかもしれないが神那は把握していない。どちらも同じ顔で同じことを喋るからである。


 今宵は綺麗な満月だ。少し黄色く小さい満月は何となく可愛らしい。

 それにしても、月がはっきり見えるほど空気は冴えてきた。そろそろカーディガンだけでは寒い。だがまだ十一月だと冬物のコートは早いだろう。さて、いかにすべきか。


「空気が冷たいねえ」


 何気なくそう呟いた。


 双子が立ち止まった。


 二人が急に動きを止めたので、何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと慌てた。急いで左右を交互に見る。


 二人はしばらく無言で横を向いて――つまり神那を見ていた。


「……えっ、なに?」


 次の時だ。


 片方が突然学生服を脱ぎ出した。金のボタン五つを外し、黒い学ランを脱いで右腕に引っ掛けた。そして、中に着ているシンプルな紺のカーディガンに手を伸ばした。


「ちょっと、何してるの?」


 はっとしてもう片方を見ると、そちら側もやはり学生服を脱いでいた。学ランを腕に引っ掛けて紺のカーディガンの大きな木目のボタンを外し始めていた。


 困惑しているうちに、二人は揃いのカーディガンを脱ぎ終わった。


 そして、二人とも、それを神那のブレザーの肩に引っ掛けた。


 双子は何事もなかったかのように白く薄いワイシャツの上に学ランを着直した。


「……えっ? どういうこと?」

「寒いって言うから」

「あったかい恰好した方がいいよ」

「僕ら別に寒くないから」


 双子なりに気を使ってくれたらしい。


 双子が並んで歩き出す。背中が三歩分遠くなる。


 神那は感動した。

 双子は神那の空気が冷たいという台詞から温かくなるものを欲しているのではないかと推測したのである。

 あの双子が、なんと、空気を読み、ハイコンテクストな状況を感じ取って、行動を起こした。

 実のところ神那はひとの衣服を奪ってまで温まることなど望んでいなかったが、それはそれ、これはこれである。双子も成長しているわけである。喜び以外の何物でもない。


 ところで、神那は一言もお前らのカーディガンをよこせなどとは言っていないわけで、二人もまったく打ち合わせずに同時に脱ぎ出したのだが、いったい二人は何をどうして示し合わせて脱ぐことにしたのだろう。謎多き双子だ。


 いずれにしても双子の厚意をむげにするわけにはいかない。

 神那も一度ブレザーを脱ぐと、自分の臙脂色のカーディガンの上に紺色のカーディガンを二枚着た。

 温かい。双子の体温だ。

 あまりにももこもこと膨らんでしまったのでブレザーが着られなくなってしまったが、仕方がない。


「待ってよ!」


 今日も三人並んで自宅を目指す。





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