第8話 天狼星

 十一月の日が落ちるのは早く午後六時を過ぎると辺りは完全に夜になっていて真っ暗だ。


 神那の右隣を歩いていた片割れが、突然「あ!」と言って立ち止まった。


 右隣を見る。

 片割れが空を見上げている。


「見て。オリオン座」


 彼の目線の先を見ると、確かに特徴的な三連の星が並んでいる。

 快晴の秋の夜、辺りには大きな建物のない住宅街の上は綺麗な星空になっていて、神那は自分が空を見ていなかったことを後悔したし、空を見上げる感性をもった双子――のどちらか――がほんの少しだけうらやましくなった。


「懐かしいね」


 彼が笑みを見せる。表情の変化に乏しい彼にしては珍しい上機嫌だ。


「小学校五年生の冬休みだったかな? 三人でオリオン座の観察をするって言ってさ、僕の家のベランダでずっと角度を測って」


 神那の左隣にいたもう片方が「あったなあ、そんなこと」と頷く。


「星のことも理科の授業でたくさんやったのに僕が思い出せるのはオリオン座だけだなんて悲しいな」


 右隣にいた片方が「もうちょっと思い出せるでしょ」となじった。


「ほら、たとえば、オリオン座の左下、おっきな白い星が――えーっと――何だったかな、名前を習った気がするんだけど」

「あんたも思い出せないんじゃん」


 二人がひときわ明るく輝く白い星を指差す。


「デネブ」

「そんなださい名前じゃなかった気がする。もっとなんか漫画のキャラに出てきそうな――」

「アルタイル」

「まあ、そんな感じだけどたぶん違う」

「ベガ」

「夏の大三角」


 見かねた神那が「シリウス」と言うと、双子が揃って「あー」と声を上げた。


「思い出せた。すっきりぽん」

「思い出したのはあんたたちじゃなくて私なんだけどね」






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