第29話 冬の足音

 十一月の平日最終ラップ最終日、気温は十二月下旬、年末年始ほどのレベルに下がるのだそうだ。

 神那は朝家を出てまず吐く息が白くなるのを見た。ついこの間まで春のようだったのが嘘みたいだ。今日の神那は制服の上に紺のピーコートを着て薄いピンクのマフラーを巻いていた。


 いつもの時刻だ。


 隣家から双子が出てくる。


 今日は双子もコートを着ていた。二人ともダッフルコートだ。片方はライトグレー、もう片方はダークグレーである。


「おはよー!」

「おはよう」

「おはよう」

「双子が違う色の服着るの珍しいね」

「そう? 色違いは結構持ってると思うよ」

「休みの日はね。学校に行く時は同じ学ランじゃん」


 三人並んで歩き出す。住宅街を抜け、田んぼの脇を通り、目指すはいつものバス停だ。


「たまには違う色の服を着ないと周りが発狂するからね」

「僕らは別に分裂したくてしたわけじゃないのにね」


 そして白い息を吐きながら言うのだ。


「神那ちゃんだって困るでしょ?」


 神那は目を丸くして「何が?」と問い掛けた。


「僕らの区別がつかなくて」


 誰かに何か言われたのだろうか。ようやく自分たちの違いを意識し始めたのだろうか。


「別に困ったことはないよ」

「そうだね、神那ちゃんはどっちが太梓でどっちが奈梓でも別に困りはしないもんね」

「そうだけど。ぱっと見はぶっちゃけ私も分かんないけど、二人が別々の人間だっていうことは知ってるよ」


 二人が揃って神那の顔を見た。神那は立ち止まって微笑み、二人の顔を交互に見た。


「明るく元気でいつもハッピーな方が太梓。真面目で穏やかで物静かな方が奈梓。私はちゃーんと分かってるよ」


 二人はしばらく黙って神那を見つめていた。

 彼らの頬が赤いのは、寒いからだろうか。


「……ふーん。そうだったの」

「知らなかったよ」

「何をいまさら! ずっと前からそうだったよ。ずーっと前からね」







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