第26話 センパイ何してるんですか?

日曜日


学生や社会人の多くが休日となるこの日は、当然ショッピングモールや遊園地、観光地は賑わうし、街のレストランだって繁盛する日である。


自分が休みなら、当然同じ学校に通う生徒が休みなのは不思議ではなく、そして近所のショッピングモールのカフェなんかでは、鉢合わせしても文句も言えない。


「センパイ、その人、誰ですか・・・。」


そして、鉢合わせたのがよく見知った後輩で、母親でもない大人の女性と一緒にいる俺を見たら、当然の反応なのである。


「はっ、まさか!○○活っ!?」

「違うわ!」



────────────────────



「はぁ、スカウト、ですか。」

「はい。私、東京サンダースの櫻田 麻里と言います。」


なぜか何とかフラッペとやらを奢らされた上で俺たちの席に座った瑠奈と三人の状態になっている。


「あぁ、確か中学の頃から、」

「そう、中学の時から俺をつけ回していた人だよ。」


中学時代同じ部活にいたのだし瑠奈も知っていて当然の人なのだし、多分見たことくらいあると思うのだが、まぁ突然のことだったから取り乱したのだろう。


よかった。変な誤解をされるところだった。


「つけ回すとは失礼ね。私は昔から君の背中を追い続けていただけよ?」


「物理的に追ってきてるんでストーカーですね。」


「ちょっ!通報はダメ!」


俺がスマホを取り出すと全力で制止する麻里さん。普段は若いお姉さん的な人だし、瑠奈や春奈とはまた違った美人なのだが、こういうときは俺の方が上に立てる。


「で?なんでも高校でセンパイをつけ回しているんですか?」


バスケはもう関係ないですね?と言いたいのだろうが、瑠奈はそれ以外にも思うところがあるのか、麻里さんを異常に警戒しているし、何故か俺に近い。


「もちろん天才の復活を待っているからよ。」


「その気になればプロチームへの入団どころかNBAへの挑戦も可能よ。」


この人の場合、それを本気で言っていて、そして本当にそれを可能にできるから怖いのだが。


「でも、センパイはもうバスケはしないって。」


「あぁ。俺はバスケをする気はないよ。」


瑠奈は俺を心配するしてくれている。俺がバスケをしたいのか、それともしたくないのか、それを計りかねている所なのだろう。


「えぇ。君が何故バスケをしないのかは理解しているつもりよ。これでも、誰よりも君を見てきたのだからね。」


麻里さんはコーヒーを一口飲んでから、それでも、と続けて


「君が充分に力を出せる環境があるわ。監督もコーチも選手も意識が高いし、相応の実力がある。そして君にはその中でスターになる力があり資格がある。」


「センパイに、どうしてそこまで拘るんですか?」


瑠奈は抵抗するように問うが、麻里さんは即


「彼が天才だからよ。」


「進くんは他とは比べてはならない天才なの。中学時代から彼の側にいたあなたが一番わかっているでしょう?」


「・・・それは。」


「彼は日本のバスケットを世界に通用するものにできるかもしれないの。だからこそ、彼にはバスケをもう一度してほしい。」


「───。」


麻里さんの紳士的な姿勢で、そして正論を言われたら、瑠奈も引き下がるしかない。瑠奈が一番わかっていることなのだ。進の才能のことは。


「・・・。まぁ、ありがたい話ですけど、何度も言うように僕はバスケはしません。」


「そう。じゃあ、また今度ね。」


「今度が来ないでほしいですけどね。」


「そうね。その前に君が戻ってきてくれると私も楽だわ。」


「行こう瑠奈。」

「あ、はい。」



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「センパイは、どうなんですか?」


あれから少し買い物でもしようかと思ったが、瑠奈が俯いたままで元気がないので帰ることにして、一旦公園の自販機で買ったジュースを飲んでいた。


「どうって?」


「バスケ、したいですか?」


瑠奈はまだ元気なく俯いている。


「言ったろ、もうしないって。」


「・・・それって、」

「別にバスケがつまらないから辞めただけだ。それに怪我もちょっとあったしな。」


瑠奈は自分のせいとか、中学時代の監督のせいとか言いたいのだろうが、言わせる前に言葉で塞ぐ。


「センパイは、今の生活が楽しいんですか?満足、してますか?」


「そうだな。瑠奈と春奈ちゃんとって来てからは結構忙しくて充実してるよ。」


「いいから、今日のことは忘れろ。別にお前が気にすることじゃない。」


そうして頭を撫でても顔色は良くならない。無理もないというか、瑠奈も困っているのだろう。


俺と同じで、


バスケをしたい、もう一度だけ、限界まで自分の力を試したい、そしてそんな俺を見たいという気持ちがあれば、


もう二度と理不尽な思いをしたくない。あんな思いをするなら、スポーツなんかしたくない、そう思う気持ちもある。


麻里さんはそれを聞いているのだ。君の本心はどっちか?


彼女は強制はしない。問いかけるだけだ。だからこその意地悪さというのもあるのだが、たかが高校生には難しすぎる質問だ。


沈む夕日が今日はやけに重たく見えた。

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センパイ!センパイ! MASAMUNE @masamune-sanada

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