第2話 大好きな先輩Ⅱ

「えー、それでは新入生諸君、本校の生徒としての自覚を持ち─────。」


入学式だけでなく、どうして式典というものはこうも長々とつまらない話が続くのだろうか。すでに新入生たちの間ではクラス発表のことで頭が一杯である。


この学校は入学式を受験番号順に席に座らせて行い、式の後にクラス発表の掲示板まで順次案内されるという方式をとっているらしい。


「それでは、クラスを確認した後、各教室で待機していてください。」

というアナウンスがあり、前方の列から生徒会という腕章をつけた生徒に先導されて、どこかへ移動していく。


「瑠奈、瑠奈!」

「はっ!なになに?」


いつの間にか後ろの方にいた春奈が隣まで来ていた。


「いたよ!あそこ!あの二人!」


そう言って春奈が指差した先には同じく生徒会という腕章をつけている男子生徒が二人。


「あっ!」


その二人は春奈と瑠奈もよく知った先輩だった。

「進センパイ。」

「二人とも生徒会に入ってたんだね。」


できることなら今すぐ駆け寄って挨拶したいけれど、生憎、遠いし、そんなことができる雰囲気の場ではなかった。


「あ、」

そうこうしているうちに、二人は他の生徒を先導しながら行ってしまった。


────────────────────


新入生たちは正門近くと昇降口近くの二ヶ所に掲示されているクラス表を眺めながら一喜一憂していた。


「あっ!あった!」

瑠奈と春奈は二人で正門側の掲示板でお互いの名前を探していた。

「ほんとだ!」


一年一組の欄に

一之瀬 春奈

軽井沢 瑠奈


と二人の名前が書いてあった。

「よかったー。同じクラスだね。」

「うん!よろしくね!」


両手を握りあってピョンピョン飛ぶ姿は可愛らしい。


「あっ!」


すると、春奈が突然なにかを見つけて手を解いて駆け出してしまう。


「ちょっ、春奈!?」

しかし、その理由はすぐにわかった。

「亮くん!」

「ん?」

そりゃ、最愛の人がすぐそこに居ればそうなるよねぇ。

「お!久しぶり春奈。」

「久しぶり!」


春奈は少し頬を赤らめながらも満面の笑みだ。


「ちゃんと入学できたんだ。」

「うん!」


褒めて!と言わんばかりに亮介に急接近する春奈のせいで、瑠奈は話に入る隙がなくなっていた。


そう、ここまで触れていなかったが、この二人は付き合っている。それも去年の夏くらいから。


「おめでとう。」


亮介に撫でられている春奈は、ご主人様に甘える子犬かな?


「瑠奈ちゃんも、入学おめでとう。」

完全にかやの外だった私にも、ちゃんと気付いてくれた。


「ありがとうございます、あの──」

「進なら、多分もうすぐ来るよ。」

「あ、ありがとうございます。」


亮介は瑠奈の考えを見通して先に答えた。

そんな会話の中、相変わらず亮介先輩にベタベタな春奈は私からしても少し引くレベル。


(そんなに会ってなかったっけ?)


少なくとも、合格発表があった日に二人は会っていたはず、なんて考えていたら、


「あ、進いたよ!」


亮介先輩が指差した先に進がいた。まだ私たちには気付いていない。びっくりさせようと、こっそり忍び寄ろうとして、もう少しのところで、


「すいませーん!せんぱーい」

「どうしたの?」


同じ一年の女子生徒三人が進に話しかけてしまった。


「えーっと、教室がわからなくて~」

「何組?」

「二組です。」


しかも、明らかにこいつら迷ってない。進センパイが格好いいからって、適当に理由をつけて話しかけてるだけじゃん!


「そっか、二組はこっちだよ。」

「ありがとうございまーす!」


しかし、お人好しの進センパイはそのまま女子生徒たちと一年の校舎の方へ行ってしまった。


「ムーーーーーー。」


「ありゃりゃ、進のやつ、可愛い後輩を置いて他の女にうつつを抜かすとわ。」

「ねぇ瑠奈、進先輩にこの学校に進学すること伝えたの?」

「・・・いや、驚かせようと思って、伝えてない。」


「「はぁー」」


亮介と春奈は盛大なため息をつく。だって、春奈が合格発表日に伝えたように、普通言うでしょ。


「だってー!言えなかったの!センパイと同じ高校に行きます!なんて恥ずかしくて!」


そんな二人に対して瑠奈は全力で言い訳の言葉を紡ぐ。


「でも、このままじゃ、進先輩には認知されないままだよ?」

「・・・それは嫌。」

「進のやつモテるから、あぁやって他の女の子に落とされるかもよ?」

「嫌です!」


「「はぁー」」


「わかった。放課後教室で待ってて。俺が手助けしてあげよう。」

「亮介先輩!」

「任せとけ!」

亮介はそう言いながら、どうやって進を一年の教室に引きずり込むか考えるのであった。

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