第15話 くだらない思い出

中学生のときのことだ。進も亮介も春奈も瑠奈も、市立の中学校に通っていた。

進はバスケ部で、亮介はサッカー部だった。瑠奈はバスケ部のマネージャーで、春奈はサッカー部のマネージャーだった。


進も亮介も、それぞれがエースとして活躍し、県内でも有名な選手だった。しかし、進は三年生になったときからチームの試合には出場しなくなったのだ。


「センパイ今日も来ないんですか?」

瑠奈は昇降口で帰ろうとしていた進を呼び止めていた。


「俺が行ってもやることないから。」

その進に笑顔はない。それは瑠奈も同じだった。


「別に部活に行かないだけで、お前のことは待ってるから安心しろ。今日も適当にサッカー部にでも混ぜてもらうよ。」


進がいるバスケ部は去年、進が二年生エースとして活躍したこともあり県大会で優勝という優秀な成績を納めていた。


しかし、三年生になったあと春の大会に続いて、練習試合ですら進がスターティングメンバーに入ったことはなかった。


「・・・やっぱり、私も帰ります。」

瑠奈は少し考えてから言った。


「バーカ。ちゃんとマネージャーしてこい。」

瑠奈がサボるなんてことをする子じゃないことは進が一番よく知っている。それでも、そんな瑠奈でも我慢ならないのが、今のバスケ部なのだ。


“愚かな顧問の悪手“


進が三年生になったとき、部活の顧問が変わった。その顧問と進は考え方が合わず対立し、その結果、進は敗戦処理以外での試合には出場しなくなった。


新聞などではこれを酷評しているが、顧問はまったく気にせず。


それでも進が県選抜に選ばれたのは、校長の尽力があったからだ。だから進は普段は亮介のいるサッカー部などで体を動かし、土日には選抜の練習に参加するようにしていた。


進を慕ってくれている瑠奈は、その現状に我慢できずに何回か顧問に直談判したらしいが、相手にもされなかったらしい。


それでもマネージャーを辞めないのは、瑠奈が責任感のある人間だからだ。それでも最近は瑠奈も我慢の限界まできているようで、進も心配している。



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“まさかの初戦敗退“

“天才出番なし“


これが進の最後の大会の結果である。力を出せずに力のあるものが負ける苦しみを嫌と言うほど味わった。


泣くことすらできない虚無感の中で、進はバスケをやめた。



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「いやっ!やめてっ!」

「はぁ?いっつも生意気言いやがって!ちょっと体に教えてやるよ!」


これは夏、進が引退してからすぐの出来事である。体育館倉庫で瑠奈が顧問に押さえつけられ、服に手をかけられていた。


「いや、やめて、おねがい」

「やめるわけねぇだろ!?大好きなセンパイもいなくなったしなぁ!」

「っ!許さない!センパイの人生めちゃくちゃにして!」


誰もいない、暗い暗い倉庫で大人の男に勝てるわけのない力で押さえつけられながらも、瑠奈の目は憎い顧問を捉えていた。


「っ!?その目がうぜぇんだよ!」

「きゃぁあ!」


服を無理矢理破られ、もう諦めかけたとき


「瑠奈っ!」


バン!


「っ!」

「!?」


「ってめぇ、もう許さねぇ。瑠奈に手を出したてめぇだけは許さねぇ!」


「うるせぇー!じゃまなんだよキサマぁ!」


瑠奈も見たことのない、本気でキレている進が顧問を殴り飛ばし、蹴りを入れ、顔面を踏みつける。


「グハっ、ぐ、ぐそやおうがぁ」


一瞬にしてこれまでの勢いがなくなり、顔を血だらけにして、フラフラになった顧問


「マジで許さねぇ、俺だけならいいが、瑠奈を傷つけたことだけは許せねぇんだ!」


進が無我夢中で体操部の鉄棒を手にしたとき、瑠奈が飛び出した。


「センパイだめ!」

「っ!?」

「それ以上はダメ!センパイが悪者になっちゃう!」

「───、あぁ。そうだな。ごめん。」


自分に抱きつく瑠奈の顔を見て、ようやく進が落ち着きを取り戻した頃、


「なんだ!なんの騒ぎだ!?」

「もう下校時刻を過ぎているぞ!」


騒ぎを聞き付けた教師陣が現場を目の当たりにして、当然のごとく警察沙汰となった。



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