第8話 新入生試験はすぐそこだⅢ
瑠奈が合格できたのは、その驚異の面接満点という成績と、あとは、今年の志願者数がそもそも少なかったから、という理由で決着がついたあと、
「ところで、先輩たちは生徒会役員なんですよね?」
春奈の方から進と亮介に対して質問を投げ掛ける。
「あぁそうだよ。」
進が答える。第一、亮介に聞きたいなら
「先輩たちは」なんて言い方はしないしな。
すると春奈と瑠奈は前もって何かを決めていたのか、アイコンタクトを取る。
「私たちも生徒会役員になりたいです!」
「じゃあ学力試験どうにかしようか」
「うわ~ん、それは無理です~。」
瑠奈のやつ、一瞬で無理と言いましたよ。勉強できない訳じゃないし、少なくとも頭の回転とか発想力とかは良い方なのに・・・。
その証拠に、中学時代に俺が勉強を教えていた頃は学年でも上位の点数だったはず。
「瑠奈は勉強するのが嫌いなんですよ。」
春奈が「ムリー」とテーブルにぐったり倒れている瑠奈に代わって言う。
「あのなぁ、この学校では生徒会役員は立候補者の中から教員と現役の生徒会役員が学力とか学校生活における態度とかを考慮して選抜する。」
進が順を追って生徒会役員の選抜方式を説明し始める。
「もっと厳密には、入学試験の成績、
中学の内申点、再来週の新入生試験、
五月の中間試験、それに加えて日常生活の態度などが加味されて上で、
生徒会役員四人と校長、副校長、教頭先生あたりとで会議があって、選抜されるって訳だ。」
ここまでで、春奈の方は流石それなりに理解できているようだが、
「ホエ?」
瑠奈の方は途中からパンクしていた。
「つまり、何回かの筆記試験の点数と生活態度が大事って訳だよ。」
亮介が優しくまとめてくれる。すると瑠奈も
「ナルナル」
と、一応は理解できたようだな。
「一つ質問してもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。」
よく理解できたようで、春奈が疑問点を指摘してくる。
「もし、立候補者が定員以内の人数だった場合はどうなるのでしょうか?」
良い着眼点だ。流石は春奈と言ったところ。
「その場合でも、会議で不適正と見なされれば普通に落とされて、立候補しなかった人たちからの選抜になる。」
俺もこれに関しては最近知った話だったのだが、何でも副会長がその例で立候補せずに生徒会役員になった人らしい。
「そう。だから、倍率とか関係なく自分が生徒会役員になるに相応しい人間じゃなきゃいけないって訳だ。」
またも、亮介が綺麗にまとめる。
「じゃあ、センパイは何で生徒会役員になったんですか?中学のときは縁もない話でしたよね?」
ここでようやく思考が追いついた瑠奈が俺たちに対する質問をしてくる。
「僕らは立候補する前に今の生徒会長にスカウトされたんだよ。」
亮介が答える。
「スカウト?ですか?」
春奈も疑問に思っているようだが、ここまでの話にないことだから仕方ない。
「厳密には生徒会役員に立候補しないか?って話だったけどな。入学試験と新入生試験で俺ら二人で良い点取ってたから目をつけられたんじゃないか?」
何回かどうして俺らをスカウトしたのか会長に聞いたのだが、まったく答えてくれなかったので、これだけは俺たちも知らない。でも、このスカウトがきっかけで立候補して通ったというのは事実だ。
「では、とにかくまずは試験で良い点を取ることが先決なんですね。」
ここまでの話で一つの答えを見つけ出した春奈。
「そうなるね。特に近いところでは再来週の新入生試験で結果を出すことが大切かな。」
これは、亮介からのアドバイスだ。実際、春奈の場合は入学試験は進と亮介よりも良い結果なのだから、会長にスカウトされる可能性も十分出てくる。
「じゃあ勉強しなきゃね!」
「うわっ!いきなり立つなよ。」
突然、瑠奈がバンッと立ち上がるものだから、周りからの注目を浴びてしまった。
「そんなこと言ってないで勉強しましょう!」
「ちょっ!おまっ!手引っ張んな!」
何を決意したのか、トレーをサンキューボックスに返して帰りの駅へと向かう瑠奈。
「「ニヤニヤ」」
その後ろで、そんな先輩と後輩の姿を温かい目で見守るカップルに、進が気が付くはずもなかった。
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