第19話 オーボエの佐川さん

 確かに。確かに、佐川さんが好きな豚は多い。

 


 佐川さんにしばかれてニヤついてる部員とか、ドン引きされてハァハァしている奴はいる。


 しかし、しかし小西はそんな風に堕ちていると想像したくなかった。最初を思い出して欲しい。


 小西は爽やかイケメンで女子にモテモテのナイスガイだった。コントラバスパートの何某さんの真実を知った時は苦しそうに顔を歪めて愕然としていたじゃないか。たくさんの恋愛経験を重ね、先日はとうとう男相手に過ちを犯しかけた。



 そんな小西がなぜクソ豚やろうと罵られたいのだ。




「最近さ思うんだ。吹奏楽部の人たちってマウント取らせてくれないじゃん?」

 マウント取りたいならば、他のクラスの「小西君カッコいい信者」ならいくらでも取らせてくれそうなもんだ。



「でもそこがいいってことに気づいたんだ」

 そこに劣情を催されても、もう先輩方卒部だし。



「そこがいい?」


「やっぱり今までの人って、マウントを取ろうとして失敗してしまった感があるのな」


「ほう」

 言われてみればそうかもしれない。

 小西の押せ押せムードに付き合ってみたけど押しすぎて別れたパターンや押せ押せムードから面接を行った人やら、そのパターンか。



「だから俺はもう押さない。これからは守りに転じる」


「でも佐川さん気になるんだろ?」


「だからTwitterフォローした」


「え、行動が早い」


「DM送った」


「すごいマジだな」


「マジなんだよ。ふふ」


「返事は?」


「既読はついてんだけど、忙しいのかな?」

「ここで小路に頼みたいのが、佐川さんを少し、すこーしだけ急かして欲しい」


「押さないんじゃなかったのかよ」


「俺は直接手を下さない。押すのは君の仕事だ」


「なんだよ。いつもと同じじゃないか。面倒ごとは俺に押し付けて、自分はのうのうと返事を待つだけかよ」


「数学の課題」


「分かったよー。仕方ないよな、やってやんよ。正直気は進まないな」


「現国ノート」


「喜んでさせていただきます」

 今、買収された? って声が聞こえた気がする。するだけだ。

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