第24話 フルートの山城さん

「バカな」


「ホントなのよね」



 部活終わりに雅が人気のないところに誘ったかと思えば、期待したこととは全く違うこと聞かされた。



「なに? 学校の中なのにエロい期待してた?」


「別に」

 ちょっと声が震えたのは気のせいだと思いたい。いつかべろちゅーを迫ってきた女が言うセリフでも無い気もした。






 あぁ、小西おめでとう。






「ん? 吹奏楽部の先輩で俺を好きな人がいるだと! フィーバーじゃん」

 フィーバーだな。


 この一年間、様々な女性を想ってきた。だがその時々の事情により、長続きしなかったり、小西に問題があったり、向こうに問題があったりした。

 


 そんな小西を好きな先輩が現れた。



「で? 誰?」

 小西、興奮気味である。


「フルートの山城さん」


「で、誰」

 小西、不審気味である。



 小西がそう訊くのも無理ないかもしれない。吹奏楽部の中でも山城さんは存在感が薄い人だ。


 幸薄を略して、さっちーと呼ばれていることは本人をいらつかせているが、誰もそんなこと気づいていない。


 なぜなら存在感が薄いから、怒りにも気づけないのだ。それは吹奏楽部の問題なので、ここでは置いておくとする。

 

 容姿は並み以上。これは小西が今までに好きになった人物たちが容姿を優れ過ぎたことからの評価であるので、本当にこの人は可愛い。


 その幸薄さが可愛いというより、美人であることを強調づけている。しかし目立つことはない。



「と、お前が言うと思って、宣材写真を持ってきた」

 山城さんが小西のどんなところをみて、好意を持ったかは知らないが、好きになったのは山城さんなので、こういう写真も積極的に協力してくれる。



「う、わ。美人。えっ、ほんとにこんな人が俺のこと好きなの?」


「本当なんだよ」


「いや嬉しいんだけど」


「だけど」


「ちょっと顔色悪過ぎね?」

 山城さんは深窓の令嬢っぽいが顔色は悪い。普段は化粧をして、毎日学校に来ているからこんなふうじゃないのだが、雅が持っていた集合写真がこれしかなかったから仕方ない。



 ならば、直接小西に部室に来てもらって、確かめればいいのではないかという提案を雅にしてみたが、



「山城が壊れるからダメ」

 そういうなら仕方がない。


「山城さんってどんな人?」

 鼻息荒い小西はかなり気持ち悪かった。いや気持ち悪い。


 ただまぁ、小西に紹介して山城さんに紹介しないのもなんだかなので、二人を出合わせたいのだが、生憎今は文化発表会の練習で忙しい、休日土日返上で練習に励みまくっている。


 時間がない。三年生と演奏できる最後の機会なんだと張り切っている同期も多数いる。俺としては多分文化発表会終わっても雅は会ってくれると思っている。



「受験までちゃんと勉強するから、遠距離だね」

 と言われでもしたら、死んでしまう。これだけが懸案事項で恐れていることだ。



「今日は早く部活が終わるから、一緒に帰ろう」

 昼休み屋上で小西に提案した。


 小西はゴールデンバナナミックスケーキパンというやたら長い名前でやたら質量的にも長いパンをむしゃむしゃと食べているところだったが、慌てず咀嚼しパンから口を離した。



「いつまで待てばいいんだ?」

 今日は顧問が職員会議諸々である。顧問は個人練習でもしとけと言い放ったらしいが、今の部長が、



「お願いですから練習の全休符をください」

 と言い、



「そんなくだらないギャグを言うほど疲れているのなら、一日休みにしましょう」

 と、慈悲のお言葉をいただけた。当の部長氏は、



「こっちが音楽用語で投げたのだから、音楽用語で返せ」

 と、意味の分からないことを言っていたらしいが、その部長氏は昼前に体調不良で帰宅した。熱だそうだ。



 部長氏が熱に浮かされながら一生懸命に取った部活休みそれを山城さんと小西の為に使おうじゃないか。


 小西にはとりあえず放課後まで待てと、言い渡し放課後を待った。

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