第25話 フルートの山城さん

「山ちゃん、ほらせっかく小西くんもいるし、なんか聞いたら?」


「小西、お前あんなに可愛いって言っていたじゃないか、ほら」

 いや顔色悪いって言っていただけだけど。


 学校を出て十分、雅の提案で駅に行ってお茶でも飲もうと誘ってみたが、道中二人は無言を貫いた。



「そ、そうだ。ほら文化発表会の伝説!」


「雅、なんだそれ」


「隆くん知らないの?」

 知っていた。ここはわざと知らないふりや興味ないふりをすることで、ドッキリ的な感じで雅をもっと好きにさせよう大作戦だ。



「ふーん、知らないんだ」

 今、ジトっととした目で見られた気がする。あれ、どこか選択肢間違えたのだろうか。



「あ、あの私知っています」

 山城さんが初めて口を開いた。なんだか声まで透明感があって、消えてしまいそうだ。



「た、か、く、ん?」


「あーはい、すみません」


「小路、何で今謝ったの?」


「あれですよね。文化発表会の後のキャンプファイヤーを見ながら屋上で十分間手を繋ぐことが出来れば、一生一緒に居られるって」

 山城さんはさっきまでのだんまりが嘘だったかのように、すらすらと言葉を紡ぐ。



「そうだよ、そうだよ。山ちゃん勉強しているね。誰かとする算段はつけているのかな」

 山城さんは顔を真っ赤にして俯いた。


 こういう時の雅は二人でいる時もすごくいじわるだ。そこがすごくそそるのだけど。



「小西知っていたか?」


「え、小路知らないの? あんなに有名なのに」

 雅がジトっとした目で見ている。隆英、ここは我慢だ。我慢しろ。



「小西くんは誰かと過ごす予定はあるの?」


「山城さんと過ごしたいなって」



 みなさん思い出してもらいたい。

 元々小西は爽やか系イケメンで女子からもそこそこに人気があるスクールカースト最上位の人間だ。

 周りからなぜ小路が勉強を教えてもらったり、一緒に歩いていたりするのか、とても不思議がられている。

 小西が弱みを握られて脅されている説が濃厚だ。

 確かに弱みは握っているけど。

 


 小西は今まで遠距離射程恋愛をしていたせいで、空気感を掴めず、上手く行かなかった。

 ところがオーボエの佐川とクラリネットの成沢さんは論外としても、パーカッションの谷原さんやサックス水口さんと話した時は自分から積極的に話しかけた。

 元々コミュニケーション能力は高い人間である。

 あぁ、そうそう。佐川さんの一件は俺に誘われて無理やりさせられたことになった。

 どんどん俺の人間偏差値が落ちていく。



「山城さん。僕と過ごしませんか?」

 小西の天然たらし発動。山城さん顔色がすごくよくなった。



「わ、わたし、すみません」

 山城さんはたまらず逃げ出した。雅が千円札を置いて後を追った。



「俺、なんかまずかったか?」


「まずくないけど、その積極性を分けて欲しいくらいだ」


「ん?」

 天然たらし、こいつはこういうことを涼しい顔をしてやっけのける。


 だからモテて、ファンクラブが出来る。小西のだらしないところをみてきて、忘れてしまいがちだが、普段のこいつはこんな感じだ。

 


 そこから山城さんと小西が会う事は無かった。小西はそれでも真面目に部活が終わる時間まで待った。しんぼう強いほうだったが、日に日に待つことも減っていった。







 文化発表会当日。

 演奏も終わり、みんなは舞台袖で涙に暮れている。


 この後は《青春は叫びだ》という文化発表会実行委員会が主になってやっている企画だ。つまり我々吹奏楽部の演奏は前座なわけだ。


 演奏後にその前座の意味を知ることになった。

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