第23話 オーボエの佐川さん

「小路君!」


「あっ田辺さん」

 群衆の中から救世主が現れた。いや、俺は現れたと思った。佐川さんも同じ様で、安心したという顔をしている。



「山本さんから聞いたよ。ひどいねこれ」

 当の小西は早く早くと迫っている。



「とりあえずこれをどうにかしないとね。そうだ君」

 小西はもう自我さえ失ったように、ケツにハリセンをと求めている。多分、小西もこんな騒ぎになるなんてと、かなりビビッているのだ。



「小西君だっけ? 豚は目隠ししてこその豚なんじゃないの? これあげるから、頭に巻いて?」

 ふーふーと興奮気味だった小西はちらりと佐川さんに向き、期待を込めた目で俺を見、素直に従った。



「じゃぁ、僕がやるから、一応このくそがって、小路君言ってあげて?」

 小声で田辺さんが囁いた。


「え、僕でいいんですか?」


「うん、君でいい。さーちゃんは戻っていいよ」

 佐川さんは逃げて行った。雅が優しく背中を叩いている。



「さぁ行くよ。それっ」


「このクソブタ!」

 ばちん。


「てめぇなんて、ブタの風上にもおけねぇ」

 ばちん。


「汚い尻をミミズばれだらけにしてやんよ」

 ばちん。



「ありがとうございます。お尻今日から洗いません」



 拍手喝采である。当然、同学年の女子も見ているが、大きな拍手に包まれた。


 佐川さんは部室に戻り、楽器と譜面台は撤収された。念のために佐川さんは早退、他の豚たちも空気を読んで何も言わなかったらしい。


 教室には真ん中で転がっている汚物と雅から責任者として居残りを命じられた俺はその辺の椅子にまたがり、小説を読んでいた。もぞもぞと動き出したゴミを足蹴にし、自らの不遇を呪った。


「小西、もういいぞ」


「あれ? 佐川さんは?」


「もう帰ったよ」


「あぁそうか。俺のズボンどこだ?」

 足下に転がっている布きれを足ですくってなげてやった。


「はい」


「ありがとな」

 小西はすっきりとした顔つきだ。欲求を達せられ、睡眠も取れてさぞかし満足だろう。


「今日で絶交な」


「なんで!」


「お尻は洗えよ」


「お尻?」



 絶交なので完です



 追伸。

 文化発表会でキャンプファイヤーを一緒に見たカップルは未来永劫みらいえいごうえにしが繋がったままという伝説があるそうですが、小西の恋人探しに文化発表会にまで俺は付き合えません。

 小路。

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