第12話 パーカッションの谷原さん

 ハリドリを降りると顔が真っ青な小西とニコニコしている谷原さん。


「小西、お前ああゆうの苦手なの?」

 トイレ休憩とかこつけて、自販機の前で男子二人集合。


「実は隠してたんだけど、ジェットコースターはすげえ無理」


「じゃあなんでユニバの時、反対しなかったんだよ」


「ユニバは小路の提案じゃなかったし、こういうとこ行ったの何年も前だったから大丈夫って思ってさ」

 小西はこんなに気を使えるやつだったんだと感心すると同時にこれから小西にとって地獄が始まる予感に恐怖で震えた。



 案の定、小西にとっては地獄いや想い人を一緒にいるからそう地獄でもないのか。ジェットコースター系のアトラクションではなく、火が出たり水が出たりショー形式だったりのアトラクションに誘導しようとしても、谷原さんは我先にと絶叫系アトラクションに我々を引きずりこんだ。


 俺と雅は最高に楽しかったが、時間が経つにつれてボロボロになっていく小西を見るのは正直辛かった。


「あれ? 小西くん。大丈夫?」

 園内を駆けずり回ること三時間、谷原さんが小西の異変に気付いたのはおやつタイムで小西が何も食べようとしないその時だった。

 

 小西はよく頑張った方だと思う。ハリドリでもいっぱいいっぱいだったのに、数々の絶叫系をさも楽し気に乗り終えて谷原さんと手も繋いで、時には自ら手を引いて絶叫系へ。


 俺なら到底真似できないような所業だった。ただ絶叫系は確実に小西の身体を蝕んだ。


「気持ち悪い時はアイスクリームが一番だよ。気づかなくてごめんね」

 そう言って谷原さんは適量をとって、アイスクリームを小西の口へと運んだ。お得な経験をしているのに当の本人の顔色は真っ青。


 この状況で俺と雅はすごく迷っていたことをお分かりいただけただろうか。


 これが普通に友達なら帰ることをおススメするまたは一緒に帰ろうと切り上げるが、小西は馬鹿だけど今は谷原さんと過ごしたがっているとも思えた。馬鹿だけど今は。


 なんとか小西の真意を聞き出そうとトイレに連れて行こうと、小西とその場を離れた。


 さっそく個室に入り、小西は自分の中に留めておいたものを吐き出し始めた。こんなことならもう少し早く連れて来るべきだった。



「小西、どうする」


「なにが」

 吐き出し終えた小西は余裕を少し取り戻したよういたが、人のいないトイレで俺は小西に問うた。


「正直、ここまで体調が悪いとは思わなくて悪かった」


「いや俺も早く言わなかったから」

 個室の中から聞こえる声はいつもと違って頼りない。


「お前、今回は本気なんだな」


「俺はいつだって本気だぜ」

 いつも本気かどうか分からない言葉に俺は少し安堵した。

「でも谷原さんにはすごく気を遣わせてしまったよな」


「そうかもな」


「いいよ。俺は帰る」

 小西から出た言葉に俺は驚いた。まさかそこまで体調が悪いなんて思わなかった。ますます小西に申し訳なかった。だが違った。

「谷原さんにこれ以上迷惑かけられない」

 小西も人を慮る《おもんぱかる》ことができるとは。


「ごめんな、小西」


「いいよ。俺たちは谷原さんに言わせると心友なんだろ」



 谷原さんと雅に事情を話したら、今日はいっぱい遊んだしね。ということになり、解散となった。

 終始小西は谷原さんに申し訳ないと頭を下げていた。小西が心配だった俺は小西を自宅まで送り届けた。

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