第7話 トランペットの松井さん
「で、結局、英語の課題は見せれないな」
「ちっ、でもそっちも収穫あったんだろ」
「そうなんだよ、まさか偶然図書室に行ったら、たまたま松井さんがいてさ。もうびっくりだよ」
「俺が言ってやったからだろ。ほら早く英語の課題見せろ」
「えー、だって八割は俺の力だし」
松井さんの条件は三つ。
・部活を続けること。
・雅と付き合い続けること。
・小西を図書室に自然に連れていくこと。
この三つさえ、守れば確かに『色々』教えてもらった。
柔軟体操の効果的な方法と適切なマウスピースの選び方、現代の楽しい小説や詩、英語の正しい勉強法……etc.
偶然、あの時松井さんが妖艶にみえた理由はどうも風邪を引いていたらしく、雅と一緒に八百八で買った桃とサービスでつけてくれた八房のブドウを持ってお見舞いに行った。
雅なりにやり過ぎたと思っていたらしく、松井さんの家で和解した。きっとあの雰囲気の要因は風邪だけではないと思うが、それは触れるべきではないに違いない。
因みに胸に指を押し付けたり、それを顎まですぅーっと持って行ったり、顔を胸に押し付けたのは、
『これぞ的確 言いにくいことをズバッと言う
という書籍を参考にしたとか。この事実を松井さんから雅に漏らした瞬間、僕は雅にグーで殴られた。
本を読むのはいいけれど、読む本をこれからは選んでもらおう。これはお見舞いでの談だが。
「今度からは、
『よく分かるシリーズ8《異性との付き合い方ABC》』を使うね」
そう言い放った松井さんから雅は本を取り上げて、『ABC』の意味を小さな声で話し、雅がその本を俺に投げた。痛かった。
小西も松井さんからラインを教えてもらい、これで平和にコトが進むと思っていた春先のある日、またまた小西に屋上へ呼び出された。
長袖のカッターシャツ一枚で過ごすには少し寒い。新たな季節を迎えようとするこの二月末に、なぜ俺は男と飯を食わねばならんのだ。
「いや、さ。確かに松井さんとはラインを交換した。一緒に勉強したり、好きな本を紹介し合ったり、デートも何回かした」
小西は理想のお付き合いを松井さんとしていた。
松井さんが好意を持っていなくて、仲のいい後輩の友達くらいにしか思っていないことを一瞬は頭をよぎった。
「でも、違うんだ。やっぱり恋人には無くてはならないことがある」
「なんだ? 愛か?」
先回りして答えを言ってしまった。
なんて小西に酷なことをしたんだ俺は、でも小西は予想の斜め上を叩き出した。
「ラッキースケベだよ」
「……は?」
「分かんねーかな。こう風がフワッと吹いてスカートがめくれたり、間違ってパイタッチをしたり、偶然着替えているところに遭遇したり、下着が透けていたり。だからさ、松井さんとの関係を継続したまま他の人を狙おうと思う。そしたら松井さんも嫉妬して、もっとサービスを……」
引いた。もうかなり引いた。A4のコピー紙よりも薄っぺらい小西の劣情が気持ち悪かった。
その気持ちに松井さんはきっと気づいている。
「だからさ、小路。今度はサックスの山本さんを狙おうと思う。あの人、おっぱい大きいし、抜けているとこあるし、俺の言うこと聞いてくれそうだし、でもやっぱり年上は好きなんだよな」
キレた。
「謝れ」
「ん?」
「雅と俺に謝れ!」
こうキレているのに小西はのんきなもんだ。
「え? 山本さんって小路の彼女? まさかな。え? ホント? ごめん、マジごめん」
この後、小西は平身低頭、俺に謝った。
雅にも謝ってもらった。雅に事情説明をしてる最中にとてもひどい目で小西を見た。
小西が喜んでいたとすれば、友達関係を見直そうと思う。
もう金輪際、女の子を紹介しないこと、全てを松井さんに言う事を条件に知人程度の付き合いはしている。
「小路! 実は相談があるんだ」
「死ね」
「ひどっ」
トランペットの松井さん 完
イケメン男子小西くんは吹奏楽部で恋をしたい! 続
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます