第13話 パーカッションの谷原さん
さて問題は次の日。部活である。
もしかしたら小西の爽やかイケメンにやられて、結末は一切爽やかではなかったが、谷原さんは恋する乙女になってしまったのかと思いながら部室の前に来たわけだ。
「隆英」
雅に手を引っ張られ物陰に連れ込まれた。
「雅、どうしたの?」
「小西くん、大丈夫?」
「今日、学校は休んでたけど」
雅は額に手を当てた。そしてため息。
「どうしたの。雅」
「いやね。手紙を預かっていてね」
「誰に?」
「隆くんと小西くんに」
手紙とはまた古風な。
「それでそれを小西に渡すのか」
「内容はほぼ一緒らしいから、まずは隆くん読んでよ」
「え? 大丈夫なの?」
「わかんない」
「中読んだ?」
「谷原がさわりだけ説明してくれた」
雅のこの表情を見て、嫌な予感はしたが、読まないことには話が進まない。
封がされていない可愛い封筒に可愛い便箋。
小さく可愛い丸文字に黒い文字が多数。
小路くん。
昨日はありがとう。そしてごめんなさい。
小路くんが大切にしている男の子をあんな風にしちゃって、小路くんは小西くんが他の人にあんなに弱みを見せているところをみるなんてことはさぞイライラしたでしょう。ひょっとして少し興奮しちゃった?
私は昨日の小西くんと小路くんの関係性を見て、当初の想定とは違い、自分の推察は間違いだったなあと思い至りました。
小西君優勢かと思ったけど、実は裏では小路くんが攻めだったわけですね。
小西君の腰にさりげに回した力強い腕、力強く小西君をリードする腕、きっと私が小西君を連れまわしている時も悔しさで歯切しりもしたことでしょう。興奮もした? 自分の手中に収めている子が取られちゃうと興奮しちゃう子もいるからね。おかしくないよ。
トイレから中々出て来なかったね。トイレから出て来た二人は満足げでした。何をしていたのかは聞かないです。おかげで捗りました。
男の子同士でのことは何ら恥ずかしいことではありません。
何かあったら、私に相談してくださいね。
たにはら
追伸、山本とは仮面お付き合いなのかな?
「これ、何?」
今きっと俺の顔がひきつっていることだろう。なぜなら雅もひきつっていたからだ。
「うわ、ドン引き」
「日本語でお願いしたい」
「てか、これ小西にも同じって……」
見たいという誘惑を何とか断ち切った。
「小西くんに渡す?」
「やっぱ谷原さんには悪いけど、腐女子は無理だわ。最初から分かっていたけどな」
結局、小西には手紙を渡した。病み上がりだった小西の顔が可愛い便箋を見た瞬間に華やいだが、内容を見て、
「日本語で書いてない」
と、顔色が途端に悪くなった。
それと同じ感想を俺も持ったのだ、小西。
それで腐女子はダメだ、である。
そんなもんは最初から分かっていたことではなかろうか。
「でも、俺の魅力で男女の関係性を歩みたいと思ってくれるかもしれないって思ったんだけど、げろ吐くのは色んな意味で不味かった」
自戒の念を垂れているだけ進化である。
「まぁ、あとひと月で先輩方も卒業だ。これでキリがいいだろう」
「なんのキリだ?」
「もう夢を見るのはやめて、吹奏楽部以外にも目を向けようぜ。お前にはきっといい人が現れる。吹奏楽部以外で」
「考えとく」
夏休みが明けぬうちに「クラリネットの成沢さんがいい」というのはこの後一週間のことだ。もう盆も終わった。
パーカッションの谷原さん 完
イケメン男子小西くんは吹奏楽部で恋をしたい! 続
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