イケメン男子小西くんは吹奏楽部で恋をしたい!

ハナビシトモエ

第1話 コントラバスの三原さん

「あー、三原さん。今日も可愛いな。コントラバスを優雅に弾く姿、たまんねーな」


「……」


「んだよ、お前。こっちをジトっととした目で見て、なんか悪いかよ」


「いやね。昼飯の途中で冷たい屋上に連れ出されてね。同じ部活の先輩の個人練をのぞき見して何が楽しいかと思えば、何? 本当にああいうタイプが好きなの?」

 流石に12月の屋上はよく冷える。教室では何だと言われ、大人しくついてきたのが間違いだった。


「馬鹿、ちげーよ。なんていうか気になる人? 的な。お前も人の恋バナ聞くなら、せめてジャムパンを置けよ」



 何も違わねーじゃないか。


 ニヤニヤしながら気持ち悪いことを呟いて、俺が言えば女子からキモイだの死ねだの、集中砲火を浴びるようなこと。


 そりゃあ、お前みたいな爽やか系イケメンの小西だったら、どんな女でもイチコロだろうよ。


 でもジャムパンは譲らねえ、話だけ真剣に聞いてたら昼休み終わっちまう。



 この小西と知り合ったのは夏休みが終わり、随分涼しくなり文化発表会の余韻を残した十一月のある昼である。


 小西が二年生最果ての10組に来て、入り口にいる女子にぼそっと呟いた瞬間、女子の身体から力が抜けたそうだ。伝聞調なのはその時まったく別のことをしていた。まぁ、窓の外を見ていたとだけ言っておこうか。



「君が小路くんか?」


 席の横に立った男が一言一言言葉を紡ぐ度に教室には黄色い悲鳴が飛び交う。

「用がある時は自分から」


「失礼。俺は5組の小西だ。吹奏楽部の小路くんにお願いがあって来た」




「始まりは俺の教室から見えた音楽室の風景なんだ。たくさんの魅力的な女性に囲まれながら練習している君がうらやましくてね」


「そんなことなら吹奏楽部に入ればいい。他にも同級生に頼めばいいだろ」


「ダメだ。そんな安易に求めてはいけない。だからこそ君に協力して欲しい。それに男子は君だけだ」

 入ったから安易にもらえるものであると思っている小西の脳内に脱帽。

 女子人気を手に入れ、吹奏楽部女子に恋い焦がれ、女子人気を手に入れた小西をやっつけてやりたいと思うのは致し方ない。


 教室から出て行った彼の後ろ姿を見て、強く思った。


 今回はそういう話だ。




「ところで小西。女に求める三つの要素ってなんだ?」

 場所は昼休みの屋上に戻る。


「きれいだったらそれでよし」


「いや、それは潔くて感動するけど、あるだろう? 三つくらい」


「顔、体のバランス、性格」


「すぐに出て来た潔さをまず褒めるべきか。そのうち優先順位が高い順に並べたらどうなる?」


「性格、だいぶ離れて身体と顔が同じくらい。やっぱ性格の良い女の子と一緒にいたい」


「ほう、性格の良い悪いはどうやって見分ける」


「やっぱ女の子の友達が多いとか、後輩に優しいとか、汚い言葉は使わないとか」


「それは身体と顔より重要か?」


「もちろんだ。性格は深いところを通ってるから、顔がタイプじゃなくても体がタイプじゃなくても性格があればカバー出来る」


「よし分かった。お前に三原先輩の素晴らしさをすり込んでやろう」


「俺はもう三原先輩の虜だぜ。それになんだ小路、俺が吹奏楽部に仮入部でもするのか?」


「するどいな。でも違う。この録音機を使って三原先輩の声を吹き込む」


「ばっか、お前それ盗撮」


「外部で使用しないし、お前が聞いたら即削除するから」

 腑に落ちない様子の小西はむにゃむにゃと口の中で混ぜていたが、三原さんの声が一時的にでも手に入ることを想像したのかにやけ顔のままフリーズした。



 ただそれも始業のチャイムが終了させた。




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