第20話 オーボエの佐川さん
「で、佐川なのか……」
雅は小西の劣情にげんなり。
「佐川さんに何を求めるか、これ」
B5の紙に大きく、『お友達から』って書いてある。
「お友達になれるのは私たちだけで他は豚で、カスなんだけどね」
「DMに返事が欲しいんだって」
「そりゃ無理だよ。佐川ちゃん、今田辺君に全力愛を傾けているもん」
吹奏楽部ストーカー小西も分かっていそうなものだが、佐川さんは同じパートの田辺さんにぞっこんだ。
「ねぇねぇ、たーくん。何か欲しいものある?」
たーくん、田辺さんはお世辞にもイケメンとはいえない。ただ包容力や一人一人のペースに合わせてくれる。教え方が丁寧なところに人気がある。そこに佐川さんはいち早く惚れた。
「さーちゃん。早く練習しようよ」
もちろん佐川さんのSMプレイにも寛容で、『そんなところもさーちゃんの魅力だよ』と、なんと包み込んでしまう。
「でも次の休みはデートでー、誕生日だしー」
「小路君、早く引っ張ってってー。この人がジェル化する前に」
田辺さんはそう言って佐川さんの腕をこちらに寄越した。
「はーい、佐川さん行きますよ~」
「やだもん、たーくんといるもん。小路もそういうなら雅から離れなさいよ」
「小路君から話したいことあるらしいから、さーちゃんよろしくね」
「たーくんが言うなら分かった」
そう言い田辺さんと別れた佐川さんの後ろをついて歩くと、美術室から美術部部長の矢沼さんが顔を出した。
「佐川さんこんにちは」
「あぁん? 豚風情が言葉口走ってんじゃねぇよ。ブヒブヒって鳴いてろ」
「ブヒブヒ」
「豚は四つん這いになるものだろ?」
「ブヒブヒ」
「お前今、スカートの中見ただろ」
「みてないです」
「日本語」
「ブヒブヒブヒ」
「はは、何言ってんのかわかんねぇや。一生そこで鳴いてろ」
これが通常運転だ。
さっきのたーくんがおかしかったのだ。いつも練習前に色んな部活を覗いてはさっきの様に調教を行っている。
「ブヒブヒ」
「お前よくわかってんじゃねぇか。褒美だ。俺の靴下やるよ」
「ブヒブヒブヒ?」
「お前いつも俺の上履きを白い液体でべとべとにしてるくせに」
「それはしてないし、靴下ももらえるというならもr」
「日本語」
「ぶひぶひぶひふひ!」
「クソが、靴下は取り上げだ」
後ろからブヒブヒが聞こえ続けた。
あの人野球部のキャプテンなのだが大丈夫なのか、うちの高校。
「あーあ、小路。俺の靴下いる?」
「いらないです」
「そうだよな。たーくんにやるか」
「田辺さんにもそういうプレイを?」
「馬鹿、たーくんは、ふつーのやつだよ」
佐川さんは顔を赤らめてぶつぶつと恥ずかしそうにつぶやいた。
「ふつう?」
「ええいどうでもいい。お前も私に用事があるんだろ」
「はい、実は……」
今回の件に至った説明もしたくないことを言葉に連ねた。現国ノートを思えば仕方ない。
「そう言えば、なんかそういう奴いたな。IDにkonishiって入ってる奴。キモ過ぎて見たまま放置してるんだよな。ほれ」
画面を見せてもらったのだが、キモ過ぎた。
ユーザー名。
『佐川さんに罵倒されたい豚』
DM
『佐川さん、この豚めに、ムチを入れてください。ぶひ』
「俺は最初から従順な奴はいらないんだわ。反抗的なのを従順にしていく過程が好きなんだわ」
「田辺さんは反抗的だったんですか?」
「馬鹿、たーくんは、ふつーだよ」
あれ、この人なんだかいじりがいがあるぞ。
「俺の話は終わりだ。ほら散れ散れ」
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