第10話 パーカッションの谷原さん


「マジで谷原さん?」

「やめとけって」

「だってあの人腐女子だぞ」


「始まってすぐにオチが出てくるなんて、面白くならないぞ」


「お前もメタ発言やめろ」


 夏休み真っ盛り、吹奏楽部の大会は地区大会落ち。8月前には夏休みに突入した。本来は練習があったはずなのだが、「心の傷を癒そう」という運動めいたものが起こり、顧問が仕方なくお盆を含む三週間の休みをくれた。


 さて夏休み。

 家で漫画を読んでいたかったが、テスト毎に他人のノート頼りだった俺は要領がよくないので、補習というわけだ。お盆までの二週間。



「おい小路。お前、そんなことでは留年すっぞ」

 と、教師が言ったジョークに誰も笑うことが出来ない補習だった。

「お前ら余裕持って勉強しような。楽しく楽しく」

 懲りない教師の言葉に空気が冷めた。




「谷原さんはやめておけ」


「腐女子という壁くらい俺は簡単に越えられる。俺、かっこいい」


 理想で頭がおかしくなっている小西に俺は今、勉強を教えてもらっている。

 教師の心無いジョークに教室で補習終わりに呆然としていると、小西が教室に入ってきた。なぜ俺の居場所が分かったかと訊くと。


「心の友だから」

 と、よく分からないことを言われたこわいけど、悔しいが勉強はわかりやすい。




「水口さんは?」

 聞くまでもないがこれも習慣。


「もう面接から始まる恋なんて信用しない」

 面接から始まるのはレアケースだろうと思う。





「ねぇ、隆英くん?」

 最近ご無沙汰だったので、ショッピングモールにデートで行くことになった。集合時、雅がなんだか怒っているように感じた。


「な、なに?」


「水口さん、口止め、高橋」

 あぁ、高橋に口止めなんか頼まないで、雅に言うとけば良かった。


「ちなみに高橋に情報をもらった交換条件は……」

 おずおずと尋ねてみたが、雅の機嫌は直るわけない。


「それを君が知る必要ある?」

 冷たくかたくなな声だった。


「いえ、ないです」


「私のおっぱい揉んでもらった」


「えっ、マジで?!」

 高橋あいつ許すまじ、今度会ったら殺そう。


「嘘」

「ビビった?」

 ホッとしたが、高橋ならおっぱいで、どの男子がどの女子に想いを寄せているとかをペラペラ話し、もう吹奏楽部がえらいことになること間違いない。この件を高橋が雅にリークしたことについては高橋には小路裁判所で死刑が確定している。


「ごめんなさい」


「なんでも報告しろとは言わないけど、女の子の話は私を通してください」

「重、すぎる、かな?」

 そんな重さも雅が好きな理由だ。


「大好きだよ」

 デートは大成功だった。





「俺が谷原さんのことを考えている間、小路は彼女の家で仲直りックスかよ。あーあ、世知辛いよなー」


「……」

 なんでわかっている。こいつのたまに見せる鋭さは他に生かせないものか。


「げっ、マジかよ。あー、俺小路の友達辞めようかな。はぁ」

 そのわざとらしい、はぁ、はなんだ。


「谷原さんの攻め方はふたつだ」


「話流しただろ」

 流れてくれることはあきらめていない、あと一押しだ。


「ひとつはもう男として惚れさす」


「乗った」

 ほら、流れた。


「もうひとつはって聞けよ」

 聞かない小西に次の矢を発射。

「そうだな。ダブルデートをしましょう」






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