第17話 クラリネットの成沢さん

 学校の近くにある大型ショッピングモールのフードコートにいた俺と雅は成沢さんを呼び出した。お願いがあります。訊いてください。するとすぐに来てくれた。


 成沢さんが到着して雅はずいぶん欲しがった。

「私はどうなの? 可愛いの?」


 成沢さんには事情をニ十パーしか伝えず、小西という知人が成沢さんのファンということで俺と雅と成沢さんと小西でお祭りに行こうと誘ったわけだ。小西はあくまで知人だ。



「可愛いよ。雅はいつでも」

 ちょっと照れている。可愛い。


「ははは、いつ見ても仲良しさんだね」

 成沢さんは声も高い。これでは勘違いするのも無理はないかもしれない。



「あっ、今なっちゃんの事可愛いと思った」

 成沢夏希。成沢さんの名前だ。小西の目標はなっちゃんと呼ぶことである。

 女子にいてもおかしくない名前、実際今の部長も初めて見たときは女の子だと思い、一年間恋に悩んだというから、案外小西だけが馬鹿ってことはないかもしれない。


「雅が一番可愛いに決まってんだろ」

 雅は欲しがるくせに照れる。可愛いんだよこんちくしょう。


「小路くんそれで、僕は今回どっちの服装で行けばいい?」

 いたずらっぽく成沢さんは尋ねた。この人は全部分かっているのかもしれない。



「もうなっちゃん、分かってるくせに」

 雅が成沢さんをつついた。



「小西くんって僕が女の子って思ってるんでしょ?」

 妖艶ようえんな笑み、これが部長を恋に悩ませたと言われている。完全に成沢さんに踊らせていたのに、なんかの偶然で男子部員だけで銭湯に行きそこで成沢さんの全てを目撃したらしい。

 その後、部長は『俺はホモか。いや、でかかった』とまたもや半年間悩むはめになったらしい。アホである。


「はい、もう完全に」


「僕のこと好きなんでしょ?」

 やはりこの人は全部分かってた。


 もうここで隠すほど、俺は馬鹿ではない。馬鹿なのは小西だけ充分だ。



「裸の写真撮っても?」


「はい」


「男子トイレにいても」


「はい」


「ふーん。面白いね。いいよ夏祭り行ってあげる。これから映画でも行く?」

 その時、見せた成沢さんの薄い笑みは部長を狂わせた相応のものだった。もし雅がいなかったら、小西共々狂っていたかもしれない。雅がジッとこちらを見ているが気づかないふりをしよう。

 雅が不安になるのも仕方ないかな。






 小西が作戦会議をしようと言ってきたので、祭りの準備が進む神社で作戦会議とした。


 それにしても二人とも着流しみたいなので来たから蚊に食われてあちこちかゆいのを薬でごまかしている。



「まずは恋みくじを引こう」

 もう様々を通り越してひどい。そもそもここは恋愛成就の神様でもない、恋愛みくじを置いたら、観光客来るかなのみくじである。しかも日本語しかない。観光に寄与しているのかどうなのか。だいたいまずは露店ろてんからじゃないのかよ。



「その心は?」


「大吉が出るのは間違いないから、茂みでき、キスをする」

 最初のおでかけでキスを狙うなんてげろきも、なんでこいつと友達やってんだろ。いや知人だった。



「馬鹿野郎」


「なにが馬鹿なんだ?」


「最初のデートでキスなんてアダルトビデオかよ」

 ちなみに雅とは一回目のデートでキスをした。


「えっ、初デートでキスしないの?」


「しねぇよ。いやする奴も中にはいるけど」

 雅とはお互い知った仲だったからな。小西は成沢さんを知らないだろう。だからこの突っ込みは合っている。


「初ックスは?」


「しねぇよ」

 これはない。いやする人もいるけど。


「まずは仲良くなるところからだろ」


「ほう。何を話したらいいかな」


「それはその場の雰囲気だよ」

 時間は六時。辺りの的屋も開いてきた。






「いいか物理的接触は無しだ」


「手は繋いでいいのか」

 うーん、手は繋がせてもらえるだろ。あの雰囲気なら。

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