第18話 クラリネットの成沢さん

「わー、私、たこ焼き食べたいな! 小西くん半分こしよ?」

 成沢さんはいつも『僕』なのに、『私』というところ、わかっている。その簡単な言葉に小西は目の前で踊っている。


「成沢さん。大きい方にします?」


「あっ、おじさんありがとう? 可愛いからサービス? 小西くん、なっちゃんでいいよ!」

 なっちゃんなんて女子しか呼ばない。


「な、な、なっちゃん。爪楊枝つまようじ一本ですよね。俺もう一本貰ってきます」


「一本でいいよ。それとも小西くんは二つがいい?」

 成沢さんはけして身長の高い方ではない、小西は身長が高いほうだ。下からの上目遣い、それは大ダメージだろう。



 ハフハフとたこ焼きを頬張る二人を木陰から見守っている我々。



「なぁ雅。俺たち必要?」


「仕方ないよ。なっちゃんが私たちに見ていてもらえる条件で祭り行っていいっていうもん。で、さぁ」

 少し機嫌が悪い雅。


「浴衣可愛いよ」


「はっ、なんでわかったの?」

 雅は今まさにそれを問おうとしたのだろう。俺は雅の彼氏だから、ずっと言いたかったけど、二人っきりにならないと嬉しくないだろうと思った。



「私はみんなの前で言って欲しかったな」

 想像通りにはいかないものだ。



 ポケットが震えた。



『恋みくじ大吉。これはいける。俺、大人になる』



 ヤバい、こいつやらかす気だ。



「どしたの? あっ、なっちゃんがいない!」


「小西のやつ間違いを犯すかもしれない」

 二手に分かれて探そうと、境内をウロウロ動いた。林も見たし、暗がりにも行った。


 ラブホ街にあるこの神社は普段はカップルなどの人々がうごめく。などの中には不倫も混ざるのだが、今は関係ない。まさかホテルに、そうなったら手も足も出ない。



 ポケットが震えた。



『なんで成沢さんが男だって言ってくれない』

 何回も言ったんだけどな。





 成沢さんが言うには、恋みくじで大吉を引いた小西は急にふーふーと息を荒げたかと思うと、林に成沢さんを連れ込んだ。



「どうしたの? そんなに興奮して」

 と、成沢さんは笑顔で訊いた。そこで笑顔になるところ、さすが部長を狂わせた男。



「俺、成沢さんのこと好きなんです。俺の女の人になってください」


「でも冷静な場で言われたいな」

 と、言った後すぐにキスをした。舌を入れないやつだ。



「もう俺我慢できません。後で怒られるんで許してください」

 そう言って、着流しを投げ捨てた後、恥ずかしい姿になって、省略。帯を解いて、脱がした後、省略。


 下手なアダルトビデオで勉強した前戯を実践、上半身を弄んだ後に、下に手はうごめき、キスをしながらレースのついた下着を脱がすと、省略。





「それで起立してたのか?」

 夏休みも明け、屋上で飯を食う。



 小西は始業式から四日間連続で休み、周りの生徒や女子から心配された。まぁ俺が休んでも誰も心配はしてくれないけどな。


 学校に来たのはうちのクラスに小西が立ち寄ってわかった。昼休みだったので重い腰をあげてパンを持ち、小西に誘われるがままに屋上に行った。


「聞くな。その話はもう終わりだ」

「おかしいと思ったんだ。カメラの画像を見ても胸は薄いし肩はしっかりしているし、男子トイレにはいるし」

 後悔先に立たずとはこういうことをいうのだろう。



「でも顔は可愛いんだよな。ちくしょう」

「声も、声も可愛いのに、なんで起立してんだよ。おかしいだろ! な!」


「そ、そうだな」

 起立したってことは……、と邪推するのは余計だろうか。部長も平常時を見たわけじゃなかったのだ。偶然か意図的かその時部長が見たのは……。それで半年も悩んだのか。


「俺、次の恋はちゃんと見定めて恋愛するよ」


「お前、もう少し周りを見ろ。お前を好きな女子は山ほどいるぞ」


「そんなわけないだろ」

 この一か月後、文化発表会で三年生は引退する。この一か月よ、平和であってくれ。





「学校公認の女王様佐川様に小汚いケツ叩かれたい」

 平和なはずなかった。




クラリネットの成沢さん 完

イケメン男子小西くんは吹奏楽部で恋をしたい! 続

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