第16話 クラリネットの成沢さん

「成沢さんのどこがいいんだよ。これまでとどこが違うんだ?」

 小西はふんすと鼻を広げた。

「よくぞ聞いてくれた」

 実は心の底から聞きたくない、でも聞いて来いって雅が言うにゃん。



「今までの相手はいつも屋上とか教室の窓から憧れるパターンだったろ?」

 確かにそうだ。


「ところが今回は俺が和式トイレでゲームボーイを落とした」


「待てまだゲームボーイでプレイしているのか」

 時代はもうプレステ4とかスイッチだぞ。むしろソフトは何だ? ポケモンか?


「成沢さんとプレイって淫靡いんびな響きだな」

 妄想広がり警報けいほう発令。


「それでなんだ」

 そういう警報は突っ込まないことが一番だ。


「成沢さんがトイレに入ってきたんだ」

 小西の息が荒くなってきた。興奮することか? 普通。


「おかしいだろ。小西からすれば女なのに男の便所に入るとか」

 小西からすればに注目、テストに出るぞ。聞いているやつがいるとすれば、そいつはまともじゃない。今すぐ目の前から消えてくれ。


「あぁ俺も何かの間違いかと思ったさ。個室の扉をあけたら天使が立っていた」

 なんだ、こいつ現実逃避しているのか。


 小西は成沢さんが男だって気づいているのか? 小西が例えホモでも俺に劣情を向けない限りは知人でいてやる。

 まぁその異性に対する気持ち悪い劣情をなんとかしてくれたらな。同性でもだ。



「女子トイレって並ぶじゃんか? だから恥を忍んで男子便所の個室に入ろうとしたところを俺が見つけちまったんだ。その上、成沢さんの魅力も見つけちまったんだ」

 やっぱ取り消し気づいていない馬鹿だこいつ。並ぶじゃんか、じゃねぇっつうの。


「魅力って」

 もう正直聞きたくないが、ノートとか宿題を思えば仕方ない。



「恥ずかしがる赤面な成沢さん。ゲットだぜ。あぁその時俺はポケモンをしていたんだが、セーブする前に落としちゃって、まぁ三秒ルールでセーフだったけど」

 アウトだよ! そもそも成沢さんは赤面しないし、しているとすれば運動後か小西の妄想だよ。




「今回小路に頼みたいのはデートだよ!」

 女装男子とはいえ、男子なのでデートではなく、遊びに行くのだが、当の本人がデートというなら仕方ない。



「どこに行きたいんだよ。それによるぞ」


「夏と言えば、だろ?」

「浴衣! 女子と言えば浴衣だろ?」

 薄っぺらい劣情かと思いたかったが、残念ながら俺も浴衣が見たかった。





「というわけで、成沢さん厄介ですが僕と祭りに行きませんか?」

 夏休みで大会が終わっても我が部の顧問の熱は冷めない。とは言え夏季講習で抜けるやつもいるので、ほぼほぼ休みの様な部活だ。


 俺に夏季講習? はんっ、小西のノートがあれば恐ろしいものはない。


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