第12話 アドバンテージ
駅前…
紅太郎は普段着を着て、スマホと腕時計を
交互に確認しながら、伊月を待つ。
自分から誘ったとはいえ、紅太郎は人生初の
同年代の人とのデートだからだ。
ちなみに、零奈とは色々行ったかとが
あるが、あまり参考にならない。
「遅いな?」
紅太郎がそわそわしていると…
「お待たせ!紅太郎!」
紅太郎の後ろから伊月が現れた。
紅太郎は普段とは違った伊月の私服姿に圧倒された。
綺麗に整えられた髪。ひらりと揺れるロングヘアー。それに合わせて来たラフなシャツ。
ベルト付きのロングスカート。綺麗に彩られている。
「お!来たか。その服似合ってるな」
紅太郎は伊月の機嫌を取るかのように
とりあえず、デートの定番(?)らしき言葉をかける。この言葉なら間違いないっと信じたい。そう信じたい。
「う…うん…ありがとう…」
伊月が少し照れる。
ほらやっぱり!間違いない!
想定通りの結果だなっと紅太郎は心の中で高笑いした。
「紅太郎君?」
伊月が紅太郎の高笑いに気づき、声をかけて来た。心の声が漏れていたらしく、伊月にもろ見られてしまった。紅太郎はこの展開を変えるべく、歩き出した。
「じゃ行こうか」
紅太郎が伊月の手を取り、歩き始めた。
◇デート中盤
紅太郎と伊月は水族館に行った。
紅太郎は事前にネットでデートの
定番スポットTOP10を調べた。
その中でも一位に輝いていた場所が今来ている水族館であった。やはり、薄暗い空間の中だと人間の本能的に距離が縮まるからだろう。紅太郎はディズニーランドが上位に入っていない事に疑問を感じた。あ、やっぱりディズニーランドに行ったカップルは別れるって言われているからね。スマホでデートスポットを調べていたが、それは上辺だけのものであり、紅太郎は伊月と対話し、心をケアするのが目的であった為、紅太郎自身には自分が今デートをしているという自覚は大きく無かった。表情には出さないものの、心は深刻だった。
「わぁ魚キレイにだね!」
伊月は案外楽しそうであった。ガラスのケースに手をつき、無邪気に戯れる子供のようであった。紅太郎は伊月の姿を見て、小さい頃に一緒に遊んだ時の伊月を思い出す。
「ホントだね」
二人は幻想的空間に包まれた。
水族館がデートスポット一位になるのも納得である。て言うかラブホテルの方がカップルで行っている人が多いような……いや、何でもない。
「で、何か私に言うことが?」
紅太郎は伊月に不意打ちされた。
伊月は薄々、紅太郎がこのデートに誘った本当の理由に気がついていた。早く答えろと言わんばかりに、伊月は紅太郎の事を睨む。
「取り敢えず、カフェに行こうか」
視線に負けた紅太郎は場所を移す策をこうじた。二人は水族館の中にあるカフェスペースに移動した。
「いらっしゃいませー」
店員の無料の笑顔を向けられる。
「コヒーお願いします」
「彼と同じものをお願いします」
ガラス越しに水槽の生き物が見える席に着席し、二人は手早く注文を済ませた。
注文を終えると紅太郎が口を開いた。
「伊月、お前の真実を教えてくれ俺はお前が
心配なんだ」
「…………」
伊月はしばらく黙り込んだが、直ぐに
口を開いた。
「実はね。五年前の転校も親の仕事の
関係じゃないの…」
「…え?」
何となく予想をしていたが、本人の口から改めて言われると、驚いてしまう。
「五年前にも実は空間の歪みが
起こったの…」
ここで紅太郎は自身の兄と目の前にいる伊月が、ほぼ同じタイミングで自分の前から居なくなった理由がわかった。
「その時に私は超能力者になった」
やはり。
「その当時の私は力を抑えれず、皆を
巻き込まない為に転校した…」
誠太郎の時とは違う理由。この娘は、自分の周りの人間を傷つけたく無いから去ったのだ。
「でも…ダメだった…」
伊月の顔が崩れる。
伊月の涙腺が崩壊していくのが目の前にはより分かる。目には涙が浮かんだ。
「私の中で、大事なあなたを傷付け
そうになった…」
伊月の握る拳の力が強まる。
「結局私は何も変わってない…」
「伊月……」
紅太郎は伊月が罪悪感を感じてる事が分かった。しかし、紅太郎は伊月に助けられた。自分に責任を感じている彼女を前に向かわせるのが、助けられた人のやる事であろう。
「俺の事を大事に思ってくれてありがとう」
紅太郎は泣く伊月の手に自分の手を載せた。
「俺もお前を信じたい!」
たとえ、力が強大だとしても伊月に助けられた人はたくさんのいる。
「こんな事で俺達の関係は終わらない」
その人は目の前にも。
「ていうか俺がさせない!」
強い意思。
「お前が苦しい時は俺が支えて守るよ!」
伊月は紅太郎の守るという言葉に感激
してしまった。よくあるイケメン主人公みたいな言葉なのに。伊月さん。こんな主人公ぶった奴に騙されてはいけませんよ。
「紅太郎……」
その時だった…
ドカーン!
外で大きさ音と振動が響いた。
「「!?」」
紅太郎と伊月は水族館の外に出ると、
見覚えがある影が見えた。
「あれは…」
伊月が口を開く。
「オルガ…」
紅太郎も口を開く。
すると、オルガは二人に気づいて、
こっちに刃を向けてきた。
「フ!」
オルガが放った刃が伊月に命中した。
ドカーン!
「嘘だろ…」
紅太郎は唖然としていた。
周りが急に静かになった。
「ごめん伊月…」
紅太郎が地面の大穴に向かって言う。
手が震える。
「勝手に死んだ事にしないでよ」
紅太郎の後方で伊月の声が聞こえた。
「何故死んでない…」
狂気に満ちた顔で頭を抱えるオルガ。
「私の復讐の刃がぁ!」
「フッ!<カマエル>!」
伊月が天使の力を解放した。
オルガは以前とは少し違った。
なんと、先日伊月が切った腕から炎が
噴き出していた。腕の部分だけが炎の渦を纏っていた。
それでも構わず、伊月は剣を振るう。
「<カマエル>!
ブラストへレブ!」
「フッ!来たな!」
「コールドフレア!!」
オルガは切られた腕から出てる炎を使い、
先日には見せなかった技を繰り出した。赤い色の氷。今までに無い色のものを見て、伊月は怯んでしまった。
「何!?」
オルガのコールドフレアにより、伊月の剣が
次々と凍っていく。
「復讐を果たす!」
対象が氷で埋まった時、氷が爆発し、対象を粉々に破壊する。
「させるか!」
「<ガブリエル>!」
紅太郎は剣を出し、オルガとの戦闘に
足を踏み込んだ。
オルガも氷の剣を生成し、応戦。
「貴様ごとき愚者が私に勝てる
と思うな!」
「は!」
オルガの一振りで紅太郎は伊月が倒れてる
ところまで吹き飛ばされた。伊月も先日の戦闘の反動が残っており、まともに動けていなかった。
「くっ!」
「紅太郎!」
伊月は吹き飛ばされた紅太郎の手を握った。
その瞬間…
紅太郎と伊月を繋いだ手がひかり、
何か熱いものが身体に入った感覚がした。
繋いだ手から……炎が浮かんで来た。
そっと手を離してみると、炎は紅太郎の持つ<ガブリエル>の剣に伝わり、剣は炎を宿していた。剣を振るうたびに炎の渦が展開する。
「これなら…行けるかもしれない!」
「フハハハ!」
オルガは勝利を確信してるかのような
笑いを浮かべた。まとめて始末するかのように高く手を上げ、再びコールドフレアを放つ姿勢をとった。
「その笑いを絶望に変えてやる!」
紅太郎は伊月から授かった力が宿った剣を振るった。
「<カマエル>!
ブラストへレブ!!!」
「はあぁぁぁ!!」
紅太郎は大剣でオルガの肉体を一振りで
切り裂いた。
「………」
「ぐはぁ!」
オルガは口から大量の血を吐いた。
地面はみるみると赤く侵食されていく。その場には血の生臭さが残る。
「くっ…」
紅太郎は大剣を降ろし、オルガの前で
立ち尽くした。オルガは最後のチカラデ紅太郎に語りかけた。
「私が最初に言った事を覚えているか」
「私はダーク・ウィング四天王…」
「後、3人いるぞ…」
「お前は私の仲間に殺される…」
「私を殺した事を後悔するがいい!」
言い終わると、オルガは両手を高く上げ笑った。
「フハハハハハ!」
オルガはそう言うと、消滅した…
「……こんな戦いが続くのか…」
紅太郎はそんな事を考えながら伊月の前
まで行き、
「立てるか?」
「うん!」
こうして、紅太郎と伊月の波乱万丈な
デートが終了した。
その後、伊月とは正式に仲直りをしました。
第13話につづく
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