第9話 東京氷結
「伊月……」
「紅太郎君…」
忘れもしない、小学生の頃に母親が
病気で入院した時、励まして、一緒に遊んだ仲だ。しかし、五年前に伊月は両親の仕事の都合で地方へ引っ越してしまったのだ。
「あの………ん?」
あの時と変わってないかな〜って思った瞬間に、視線が30度程下がった。なんだろうあのデカい爆弾…しかも2つ。5年の成長の証を感じられるなぁー。なるほど。これが万有引力の法則か。流石です乳トン先生。
「じゃあ授業を始めようか」
紅太郎は伊月に詳しい事情を聞こうとしたが、先生の声に遮られて言えなかった。
にしてもおっぱい大きくなったなあいつ。
無論、胸の急成長とは別で。
仕方ないので紅太郎は昼休みに伊月を学校の
屋上に呼び出した。
◇昼休み…
「伊月…何故この学校に?」
紅太郎は愛の告白とかをする訳でもないのに、転校してきたばっかりの女の子を屋上に呼び出した。とんでも無いスケベだなぁ。
「単純に親の都合よ」
「昔からバカだと思っていたけど、
五年前から変わってないわねぇ」
伊月は顔を知っている相手と知ると、初手から紅太郎を罵倒した。何故ですかね。視線がバレたのかな?それならしょうがない。
「はい?」
いきなりバカだと言われた。いきなりステーキでもこんなに唐突では無いぞ。
「さすが毛蟹並みの脳みそね」
おいおい訂正しろ。毛蟹は美味いんだぞ。
特に足がだけど。
「お前こそ五年前に比べたら、少し
太ったんじゃねぇか?」
主に胸部。
尻に関しては安産型だ。
「なっ何っふっ太ったですって!」
おっと図星のようだ。
伊月はそれを大声で否定しようとしたが、あたふたして言葉が出てこないようだ。
屋上に妙な空気が流れる。当たり前だけど。
「あなた無神経過ぎるわよ!」
(それを言ったら、みんな無神経だよ。
世の中は残酷なんだよ。ほら伊月。その体で俺を養ってくれ。俺は働きたく無いんよ。)と、紅太郎は心で思った。実際に口にしたら絶対に刺されると確信していたからだ。
その直後!
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了のチャイムが鳴った。
ナイスタイミング!
午後の授業中、紅太郎はやはり少し言い過ぎたと思い、後悔していた。
(いくらムカついたとはいえ、何で
あんな事を言ってしまったのだう………)
主に胸の事。
先日の兄・誠太郎の事もあったという
のもある。バカ呼ばわりされて多少苛ついたが、コンプレックスを刺激しすぎてしまったと紅太郎は反省した。
紅太郎は、放課後に伊月に謝ろうと思った。
胸の事を。
◇その日の放課後…
紅太郎は伊月に話しかけようとしたが、
伊月はすでに学校を去ったあとだった。
昔もそうだった。喧嘩した翌日
その時、
「コーターローォォ!!!」
「ぐはぁ!!」
花香がタックルしてきた。
(お前は痛いんだよ。胸が大きくないから!)
仕方なく、いつも通り後方からタックルして来た花香と一緒に帰る事にした。
悪質タックルはダメだよ。
良い子は真似しないでね。
「それで伊月ちゃんと話せたの?」
こいつエスパーなの。それとも、花科事典?
花香の目は紅太郎の惚けた顔を簡単に見透かすような目で紅太郎を見てきた。紅太郎は肉食動物に睨まれている草食動物のような気分だった。
「話そうと思ったら、もう教室から
居なくなっていた」
事実だからね。お願い信じて。
紅太郎は懇願する目で花香を見る。どうやらそれは伝わったみたいだ。
「折角また会えたのに…」
「私も少しお話ししたかったなぁ」
一応、花香も伊月とは5年前に会っている。
紅太郎が母の死から立ち直れたのは花香と伊月のお蔭だと言っても過言ではない。
でも・・・その言葉は今の紅太郎には正直にきつかった。
紅太郎の心の中で大雨が降る。
「人間って難しいなぁー」
実際に人間以上に怖い生き物は居ないと思う。紅太郎は誤魔化す為に作り笑いをしたが、またしても花香にはお見通しだった。これって紅太郎が所持している道具とかバレてしまったら、対戦だと不利だね。
「いや、あんたの発酵食品の
味噌頭の方が難しいわ」
最近、自分が煽られる事が多いと紅太郎は
思っていた。だいたい、味噌頭って何だし。頭を割ってお湯を入れたら、お味噌汁とか出来るの?お味噌汁を作っていいのは可愛い嫁だけと決まっているんだからね!
二人でいつも通りの道を歩いていると、
道の真ん中で突っ立っている人がいた。
道のど真ん中に直立している人がいる。
いつ、車にひかれてもおかしく無い位置に
「あの…危ないですよ…」
「フッ…危ないのは君達だよ…」
「え?」
コイツ、脳みそメンテナンスした方がいいんじゃないの?と思った矢先・・・
て言うか酷いな。
そう言い終えると、人影から氷の刃が飛んできた。
「いきなり何すんだよ!!」
「だから言っただろ。危ないって」
なるほどなるほど。よーく理解した。
「私はオルガ。」
「ダーク・ウィング四天王の一人だ」
オルガは遠くから見ると人に見えるが、
よく見ると背中に氷の柱が刺っていて、
明らかに人では無かった。
「ダーク・ウィング…」
周りに自分たち以外に超能力者はいなかった。紅太郎と花香はお互いの目を見た。
「私達がやるしかないんだったよね…」
「そのようだな…」
紅太郎と花香は息を合わせて力を解放した。
「<ガブリエル>!!」
紅太郎の剣、花香の細剣が氷と反射して光った。氷と剣が太陽の光で光る。
「<ガブリエル>貫殺衝撃波!」
「<ガブリエル>ロックテイン!」
ドカーン!
二人はオルガにむかって技を放ち、
命中した…………と
思った。
不発だった。
慌てた紅太郎と花香は再び剣を構えた。
「<ガブリエル>の力か…」
「まだ甘いな」
紅太郎の衝撃波も花香の連撃もオルガの
目の前で氷漬けにされてしまった。
花香は必死に氷から剣を抜いて、紅太郎の居る位置まで後退した。
「さぁ私のターンだ!」
「神殺槍・フリーズ」
オルガの手から長い氷の槍が出現し、二人に
向かって投げつけた。
「ぐはっ…」
「うっ…」
槍は二人に命中し、大きな傷が出来た。
傷が大き過ぎて自動回復が遅い。
立ち上がろうとした瞬間、オルガが次の技を放った
「絶対零度!」
オルガがそう叫ぶと、周りのビルや人達が次々と次々と…
凍っていく。
また、二人の足元も凍りついて身動きが
とれなくなった。
「くそっ!」
絶望的状況。
身動きは封じられ、剣に手が届かない。
「さぁこれで終わりだ!」
オルガが薄ら笑いを浮かべる。
「空間破壊・フリーズ
ボルトォォォーー!! 」
オルガが手を高くあげた瞬間に空間に歪みが発生し、更にその先から大きな氷の固まりが出現した。
付近では警報が鳴っている…
「お前たちもこれで終わりだ」
「周りのやつらも沢山死ぬ!」
絶体絶命とはこんな状況の時に使うのだろうか。
「くそっこんなところで!」
紅太郎と花香、最大のピンチである。
しかしその時だった
「ぐはっ……」
オルガの後方から巨大な火炎球が飛んでき、
更に空間の歪みもおさまった。ふと顔を上げると、周りの温度が上昇している事に気づく。
「何だと…」
オルガは不意にそんな言葉を零した。
「知ってた?空間破壊は同じくらいの
衝撃を与えると
消滅させる事が出来るのよ」
その火炎球を放った者が言う。人間…いやまるでその姿は…
「あれは…」
鬼のようだった。
「伊月…なのか…」
第10話につづく
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