第24話  courage







勇気のある者よ…希望に満ちた者よ…

その剣を振るい、立ち向かえ…

己の意志のままに…











「花香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


紅太郎のいた場所から花香を連れてバクラが遠のいていく。それもかなりの速さで。


「さぁ来るんだコウタロウ君」


「コータロー来ちゃダメ!」


空中から花香が必死に叫ぶ。

童話に出てきそうなシチュエーションみたいな状況だ。

そして紅太郎は空に向かって叫ぶ


「そんな事できるかよ」


「絶対にお前を助けるからな!」


だが、空中と地上では空中の方が地上から見て明らかに相対速度が早い。それでも紅太郎は必死にバクラに連れられている花香を追った。


「コウタロウ君。君、自分の事はイイノ?」


「!?」


不意に視界がボヤけた。

そして身体が重くなる。

上から圧力をかけられるように紅太郎は地面に倒れた。


「コータロー!!」


花香が叫ぶがその声はどんどん遠くなる。


「クソ!さっきのダブルバーサークベルセルクの反動か……」


四肢が言う事を聞かなくなる。

今にも気絶しそうだ。


「まだだ…<ガブリエル>!電撃弾!」


紅太郎は何とか残された体力で腰につけていた小型のハンドガンを取り出した。そして、手から電流を送り、銃弾に込めた。


「届けぇぇぇー!」


紅太郎が放った弾丸は瓦礫と化したビルの隙間を通り抜け、空中に浮遊しているバクラに到達したが、


「甘いんだよぉぉぉ!コウタロウくぅん!」


邪霊の渦にかき消された。


「クソったれが花香を……か…え………せ」


そして

紅太郎の目の前が真っ暗になった………











◇◇◇



「お兄ちゃん!」


「紅太郎!」


視界に光が戻ってくる。

自分を呼ぶ2つの声で紅太郎は目を覚ました。その正体は零奈と伊月だった。


「零奈………伊月………」


「良かった…お兄ちゃん生きてた…」


零奈は安堵するように胸に手をあてた。普段では外にいるときは毒舌だが、このような緊急時は家に居る時の素が出てしまっている。

横にいた伊月も紅太郎の無事を確認すると照れるように明後日の方向を見ていた。


「二人とも心配してくれたありがとう」


「そりゃ私はお兄ちゃんの妹様だからね」


零奈は胸を張って言う。


「私は別に心配してないし!」


伊月は紅太郎から目をそらす。


「ただ…倒れたから…困ると言うか…//」


チラチラと紅太郎を見る。


「お前王道を行き過ぎ。」


「何がよ!」


「これ以降は企業秘密です。」


伊月が紅太郎に迫って問い詰めるも、紅太郎は小馬鹿に笑ってふざけている。ここでは

伊月のツンデレの事は本人には言わない方が吉だろう。きっと神様もそう言うに違いない。うん。そうだろう。因みに神を信じていないけど。


だが、

      



      、、

そこに零奈がある方向を見て話が変わった


「花香さん…」


「!?」


紅太郎の目が大きく開く。自分がここで気絶する前の記憶。周囲の瓦礫を見るたびに蘇る記憶。自分がいかに無力だったかを思い知らされる記憶。無力でも出来る事はあったのに、それさえも成し遂げられなかった事の記憶。紅太郎は肩を落とした。


「あ…あぁ………」


「俺は…………俺は…………」


「花香を救えなかった……」


「何も出来なかった……」


紅太郎が地面を見ていると水滴が落ちてきた。いや、正確には自分が落とした。

目の涙腺が刺激されて涙が落ちる。自分の情けなさに。いつしか花香と皇居の裏で誓った言葉を思い出す。


(この力はあまりにも強大で、使い方を誤れば恐怖を及ぼす。さらに正しい用途で使っても自分に何かしらの代償が出ることも明確。それでも1つでも多くの命を救えるなら、少しでも多くの人類の可能性を切り開けるならば俺はお前……花香と共にこの剣を振るおうと思う。)


その約束がある1人の敵によって……いや自分が注意を怠ったせいで繋がってしまった結果である。


「俺は………あの約束を…守れなかった…」


「で、でもあの時のお兄ちゃんはダブルバーサークベルセルクを使った後でまともに動ける状態じゃなかったし」


零奈が必死に紅太郎を慰めるも


「でも…救えなかったのは事実だ……」


紅太郎は俯いたまま動かなかった。絶望した紅太郎の顔にはさっきダブルバーサークベルセルクを放った時のような光は失われていた。何かを守ると言う事は何かを犠牲にすると言う事…。本当に理不尽だ。


「あぁぁぁ─────────もうっ!」


「何いじけてんのこのヘタレ!」


「ちょ…ちょっと伊月さん!?」


痺れをきらした伊月が顔をうつむせにしていじけている紅太郎に叫んだ。


「そんなに花香の事が大事なら私の時みたいに格好良く助け…」


ボ!

伊月が赤面した。


「何を言わせんのよ!このバカ!ボケナス!

 紅太郎!」


紅太郎は何もしていないのに伊月が紅太郎の悪口を言い始めた。


「だから伊月さん少女漫画の読み過ぎです」


「後、紅太郎は悪口じゃないです」


零奈が光の速さで突っ込む。


「とにかくそんなに大事なら今すぐにでも追いかけ…………」


そう伊月が言いかけた直後だった。

ほぼ感情を一時的とは言えど失っている紅太郎以外の2人はだから人影に気付いた。


「誰!?」


すると数人の人が瓦礫の影から出てきた。


「!?」


その人達は常人ではないと見て分かった。

全身に浮き出た血管。明らかに長い爪。狂気に満ちた顔。血走った目。そして現れた人全員が何かしらの凶器を持っていた。

ある人は巨大な斧。ある人はナイフ。そして背後には霊の跡が残っていた。何となく分かってしまった。きっとバクラの差し金だろう。いや、そうに違いない。 


邪霊人形。バクラが周囲の人間に取り付けた悪魔の操り仕掛けである。取り憑かれたら最後。その生物は死ぬまでバクラの言う事を聞く。だから取り憑かれた彼らに説得はもちろんの事情けもかけられない。かけたら死を意味するような恐ろしい人形。



「これを突破しないと先に進めない

 感じかな」


「どうやらそのようだね零奈ちゃん」


「任せてもいいですか伊月さん」


「オッケー。紅太郎と花香を頼んだよ」


「100%了解!」


零奈は氷で浮遊物体を作り、それに紅太郎を乗せて走り出した。それと同時に伊月は目の前にいる邪霊人形を威嚇した。


「固定技術!鬼神!」


伊月は自分から膨大な力が湧き出てくる事を感じた。それを大剣に込めて邪霊人形に向ける。邪霊人形が少し後退した。


「来いよ!意思無き人形ども!」


炎が放たれて、周囲に爆発音が響いた。





◇◇◇


「固定技術!正義!」


零奈は固定技術を起動してバクラの追跡を行う。この固定技術<オリジナル>を使えば魔族や闇のオーラーを放ったものが反応する。バクラはダーク・ウィングの四天王の1人なのでその反応は強く示す。つまり、索敵に特化したスキルであった。

だが、自分の元に紅太郎達が来ることはバクラは想定内……いやむしろ望んでいるだろう。だから花香を攫うような真似をしたのだろう。零奈はそう確信していた。

でも…


「お兄ちゃん…」


<ザドキエル>の氷の上で未だに紅太郎は俯いている。これだと突入したとしても戦力が無い。自分の氷の技でも限界がある。

そして、遂に見つけた。反応が強く出る場所へ。それは闇に包まれたお城のような建物だった。


「ここか……」


見る限りだとかなりの高さがある。恐らくこの最上階にバクラと囚われた花香がいるのだろうと、零奈は予想した。さて、どう突入しようかと考えていると1人の男が目の前に現れた。どうやらこの闇の城の門番みたいな役割のように受け取れた。


「あれ敗北者のコウタロウ君じゃないか」


男はそう喋った。喋り方に明らかに癖がある。そして全身の血管が浮き出ている。顔も凶器に満ちている。邪霊人形だ。喋り方からしてバクラが裏にいるのだろう。


「1人の女の子も守れずに何が正義のために立ち上がる剣士だよ。笑わせんな。自分はサテライトバーサークを倒して満足かもしれないけど、他人を犠牲にしているんだよ。それって最低だよね。結局、君は自分では何も出来ない愚かな生き物と言う結論に至ってしまうんだよね。残念だなぁーコウタロウ君」


「っ…」


拳が震える。


「つーかさぁ。今この時点でも妹ちゃんの力がないと辿り着けてないじゃん。また他人の力を利用しているんじゃん。そんな他力本願な戦い方で私に勝てる訳がないじゃないか。いやー君が勝てない理由がよくわかるよー」


紅太郎の手も震える。

だが零奈の手も震えている


「これ以上適当な事を言わないで!

 <ザドキエル>!マテリアル……」


     ダーン!


大きな銃声が響く。

零奈はあっけに取られた顔をする。

さっきまで口を開いていた男が倒れる。

頭に穴を開け、そこから血が流れている。

そして、その血は地面に広がった。

銃口から煙が出ている。

氷の上に乗った紅太郎が放った。

目の前の男を一撃で殺した。


「うるせぇよ…少し黙れよ…」


紅太郎は静かにそう呟いた。





      25話につづく


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