第11話 伊月の真実
「は!」
紅太郎は目を覚ました。
「おはよう…お兄ちゃん…」
見渡すと、そこは紅太郎の部屋だった。
紅太郎はさっきまで部屋のベットで寝ていた
らしい。
「お兄ちゃん、帰る途中で気絶していた
らしいですよ」
紅太郎は自身の頭の中にあった記憶を呼び覚ます。学校帰り……
「確か…帰る途中にダーク・ウィングに……
遇して…そして…」
紅太郎の記憶からあの時の出来事が蘇る。その場に居た2人の女性の名を思い出す。
「そうだ!伊月!花香!」
紅太郎はベットから起き上がろうとしたが、腹の傷が痛み上手く動けなかった。腹部の痛みが全身に伝わり、指先まで痺れた。
「まだ起きちゃダメ!」
零奈に止められた。零奈の手が紅太郎の両肩をつかみ、再び紅太郎をベットに寝かせる。
何かエロい。
「後、あの二人なら大丈夫です」
零奈が両手を握って言う。
「救助隊の人の話によると、あの二人は
意識は正常で無事に自力で家に
帰ったみたい」
あれ程大きな闘争がありながらも、あの二人は自力で家に帰ったらしい。紅太郎以上に体力あるなあの二人。もう主人公失格なんじゃね。
「そうか…」
「無事で良かった……」
紅太郎は安堵した。
しかし、紅太郎はある事に気づいてしまった。
「ということは倒れたのは俺だけ?」
「そうだよ」
紅太郎の頬が一瞬で紅蓮の色に染まる。
「弱っちー兄を持って零奈はほんっと
苦労しますよ」
「うっ…」
返す言葉が無かった。
実 際 に そ う だ か ら で あ る。
「で…でも……」
零奈は目線を紅太郎から逸らす。
「ん?」
紅太郎は不意の口ごもった零奈に首を傾げる。
「あまり無茶しないでよね…」
「その…心配するから……」
零奈も先程の紅太郎と同様に頬を紅に染めた。紅太郎はそんな零奈を見て、可愛いなぁと思いながらも真剣な顔を作り、零奈の目を見て言った。
「心がけます…」
紅太郎は零奈をそっと抱こうとした。
シスコンが極まっている。
その時、
ピーンポーン
玄関のインターホンが鳴った。
紅太郎はベットから立ち、階段を降りて、
玄関のドアを開けた。ベットから立ち上がる時に激痛が走ったが、今の零奈を外の人に見せる訳には行かなかったので、痛みを我慢して、腹を抑えながら出た。
「……あ…………花香…」
そこには、見慣れた女性が立っていた。
そこには、花香が立っていた。
「反応が遅いわね」
「目のピントが合ってないん
じゃない?」
「今から眼科を予約したら?」
確かに最近、視力が落ちてきている。花香の言うことは強ち間違ってない。
「それを言うために来たのかよ…」
でも何か…うん…ね?……
「ま、それは置いといて…」
またまた都合が悪いと〜
「いや、置いとけねぇよ!」
結局、紅太郎は花香のスルースキルには
勝てなく、本題を聞くことにした。
「コータロー。伊月ちゃんに
会いに行って」
うーん?何で?
「あの後、深刻な顔をしてたわ」
「私にすら何も話してくれなかったもの」
そもそも花香と伊月って仲良かったっけ?
5年前にも二人は会っていたけど、そんなに仲良くしていた記憶が無い。それはそうと伊月の気持ちも分からなくもない。そりゃあんだけの事があったら、誰だってそうなるとは思うがな。
「でも会うってどうやって?」
紅太郎は素朴な疑問を投げた。
「はい」
紅太郎は花香から一枚の紙切れを貰った。
「うちの学校のホームページから伊月ちゃん
の住所を見つけてメモしておいたわ」
何この人。ストーカーレベル高いぞ。
「これを頼りに行って」
普通そんな事をしますかねぇ。
「仕事が早いこと…」
紅太郎は花香の異常な行動に呆れつつも、その意見に同意する事にした。
紅太郎は数分で出掛ける支度をし、出発しようとした。靴を履き、踵を押し込むと自身の背中に人肌を感じた。とても小さい手。
玄関の前で零奈に止められた。
「あの…お兄ちゃん……」
零奈が少し震えている。
「どした?」
紅太郎は頭を零奈に合わせる。
「気を付けて…」
紅太郎の袖を掴んで零奈が言う。
紅太郎は優しく微笑んだ。
「了ー解!」
紅太郎と花香は家を出て伊月の
家に向かった。何か家を出る直前にシスコンめ!と叫ばれたような気がした。うん気のせいだよね。そうだよね。そう信じたい。
伊月の家はそれほど遠くは無く、徒歩で行ける範囲だった。道を曲がった先に巨大な日陰を作っている高層ビルが見えてきた。
「でけぇ…」
思わず紅太郎は声を漏らしてしまった。
伊月の家は都内にある大きなマンションだった。花香に案内されて伊月のマンションの前まで来た。
「じゃあ私は帰るから」
「え?何で?」
衝撃の一言。
まさかの丸投げ。
「伊月ちゃんは今、コータローに
会いたいんだよ」
紅太郎はこの言葉を半分くらいしか理解
出来なかったが、無言でうなずいた。何となく返事をしないと殺される気がした。
「じゃ頑張ってね」
そう言うと花香は来た道を通り、
去って行った。待って!私を置いてかないで!
あなたが居ないと私は!
うん。普通に気持ち悪い。
紅太郎は、メモに書いてあった伊月の
部屋番号を入力し、伊月にインターホン越しで声をかけた。
「え……紅太郎君……」
インターホン越しから弱々しい声が聞こえてくる。
「急に来てすまぬ…」
「あがっていいか?」
インターホン越しで沈黙が走る。
「………………どうぞ……」
今の間が何だったのか紅太郎は
凄く気になった。紅太郎はエレベーターを乗り、伊月の部屋の前まで行くと、
伊月がドアを開けて待っていた。
「どうぞ…」
「お邪魔します…」
部屋に入り、紅太郎はソファーに腰かけた。
その向かいに伊月が座った。
「んで?何の用?」
面談の体制で伊月が向かいの紅太郎を真剣さ眼差しで見つめた。
「その…先日のこと…やっぱり
ちゃんと話そうと思って…」
再び沈黙が走る。
「………………」
「分かったわよ…」
伊月は言い逃れ出来ないと悟ると、真実を話始めた。
「こないだは本当にごめん…」
伊月は涙潤んだ顔で紅太郎に言った。
「いいって、俺もこうして無事なんだし」
紅太郎は伊月の申し訳無さそうな顔を見て、
伊月も無事だと言う事を褒めた。
「何より、お前が無事で良かった」
「私もあなた達と同じ超能力者なの…」
まぁあれだけのモノを見せられたら、今更何を!って思う。
「天使は…<カマエル>…」
カマエル…炎を司る天使と聞いた事がある。
さらには天界の裁判を行う者とも聞いた事がある。
「でも、強力な力だから、たまに意識を
乗っ取られるの……」
うつむいて伊月が言う。
伊月の言葉が先日の紅太郎の記憶とマッチした。
「それで…あの時…」
紅太郎は他にも伊月に何かあると感じた。
コイツが五年前に急に居なくなったのは恐らくこの力のせいだろう。これはちゃんと聞き出した方がいいと紅太郎は感じた。そこで紅太郎は伊月に一つの提案をした。
「なぁ伊月」
「ん?」
「明日、二人で出掛けないか?」
「……………………え?」
第12話につづく
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