第5話  爆撃

「攻撃って……」

紅太郎が浩一の言葉を再度、聞き直すかのように口を開いた。

「あんなのを放置しといたら

 危ないだろ」

「昨日だって全国で数百人の死者が

 出たんだぞ」

確かに正当な理由だ。

人的被害を与えた昨日のダーク・ドラゴンの渋谷襲撃。論理的に考えて、政府がこれに黙っているわけがない。

そして、浩一は腕を組んで言う。

「議会でも過半数の賛成で我々軍に

 攻撃命令が出た」

「しかし、問題なのが、敵をどうやって

  おとすかだ」

浩一が悩んだ顔をしていると…

一人の軍人が立ち上がって意見を言った。

マクラスキー大佐だった。


「ここは爆撃をしましょう」

「下手に火炎放射器や毒ガスを

 使用して、近隣に被害が出ては

 大変ですし」

「君が言うと心強いね」

浩一は司令官として部下に労いの言葉をかけた。

「光栄です」



彼が爆撃を勧める理由は他でもない。

彼の祖父はかのミッドウェー海戦にて、

アメリカ海軍のSBD爆撃機を率いて、日本の空母の赤城、加賀に爆弾を落し、大勝に導いたからだ。

今でも彼はこの事を誇りに思っている。


日本人として、そんな人が日本の軍に

居ることに少々劣等感があるがな。


「よし!総員配置に着け!」

「これより、爆撃の準備をする!」

「了解!!」

浩一の一声で機関員が一斉に動く。


「地下格納庫から機体を15機」

「滑走路に配備!」

「爆弾運送完了!」

「誘導ミサイル通常弾!搭載に

 入ります!」

「滑走路整備完了!」

「走行可能です」

基地内にこのような声が響く。紅太郎たちは巨大なモニターがある作戦司令室からその様子を見ていたが、廊下からは忙しい足音がドア越しに聞こえてくる。

 

「よし、搭乗員!機体に乗れ!」

「第1次攻撃隊!発進!」


浩一の掛け声と共に15機の爆弾機が数分の

間に目的地に向かって飛び立った。






それから数分後……

「本部から隊長機へ

 攻撃目標地点 座標3,8,13……」

「攻撃隊 頼んだぞ…」

浩一が指を組んでいる。




しかし、その願いは叶わなかった…


「目標地点到着。降度を下げ、

 攻撃体制に入ります」

「ん?なんだあれは?」

一人の兵隊が上空にあるものをとらえた。

「人影…?」

航空隊の搭乗員が妙な人影に疑問を抱いた。


その瞬間、人影から強力な冷気が放たれた。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

スピーカー越しに兵隊の悲鳴が聞こえて、基地内に響く。

「どうした!?何があった?」

「攻撃隊より、本部へ

 3,4,6,8,9,10,11,13,14号機が

 やられ………」

通信が途絶えた。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

再び悲鳴が響く。


本部では兵士の恐怖に怯えた声だけを残し、

沈黙が走った。

「機体、全機レーダーから消失」

「全滅です……」

「………………」

浩一の額に汗が吹き出る。

また、紅太郎もこの事態に漠然としていた。

「嘘だろ…」


その時、紅太郎の頭に少女の言葉が横切った。

[(回想)

「この世界を…ダーク・ウィングから

 守って!」]


「こんな奴らと戦うのかっ…」


一方、浩一は数分、表情を見せなかったが、

顔を上げて、

「我々、人類は未知の生物を

 甘く見ていたようだな」

  

「第2次攻撃中止!」

「体制を立て直せ!」

そう言うと、浩一は部屋から出ていった。

ほぼ同時に紅太郎も部屋を出た。


本部の施設の中にある少し広い空間で

少し休もうと思い、そこへ向かうと、

その近くに見覚えのある懐かしい顔の

人間がいた。


「兄さん……!?」




         第6話につづく

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