第20話《言うか、言わないか》

「……ただいま……」


「おかえりー。お兄ちゃん……ってどうしたの!?顔死んでるよ!?」


「ああ……ちょっと色々あってな……一人にさせてくれ……」


「う、うん……分かった……また晩ごはんできたら呼ぶね……?」


「おう……頼むわ……」


自分の部屋に入ってベットに倒れ込む。

絶対に怒ってるだろうな……二人とも……

嫌われたくはなかったけど、あんな恥ずかしいことは言いたくなかった……

俺は、どうすればいいんだ……?

恥を受け入れて、口に出せばいいのか……?

それとも、たとえ嫌われてしまったとしても、自分の尊厳を守るべきなのか……?

……駄目だ……分からない……

こんなこと、誰にも話せないし……


「はぁ……俺は本当に駄目だな……」


「お兄ちゃん。大丈夫?」


「ふ、文加!?どうした?」


ドアの向こう側に文加がいるようだ。

今の話聞かれてたのか……?

だとしたら相当恥ずかしい!


「ううん。お兄ちゃんが今日死んだ顔してたから、なにか嫌なことでもあったのかなぁって。前にも言ったと思うけど、私でよければ相談乗るよ?」


「文加……!」


俺はなんていい妹を持ったんだ……!

でも、直接相談できないし……

遠回しに聞いてみるか……


「あ、あのさ、文加。もし、大切な人にめっちゃ恥ずかしいことを言わないと嫌われるとすると、関係を保てる保証はないのに勇気を出して言い出すか、我慢して言い出さず嫌われちゃうか、どっちを選ぶ?」


「ええっと、何言ってんのかちょっと分かんないんだけど……。でも、そうだなぁ……私だったら絶対に言うね」


「な、なんでだ?メッチャクチャ恥ずかしいんだぞ?」


「そんなことどうでもいいよ。大切な人に嫌われてしまうぐらいなら」


「っ!!」


そうか……確かにそうだ……

妹の言う通り、恥ずかしいとか関係ないのかもしれない。

俺は、渡部と渡部さんに嫌われたくない。

もっと仲良くなりたい。

俺の素直な気持ちを伝えて、その結果そっぽを向かれてしまったとしても、それなら仕方がないと思える。

また、一から頑張ればいい。

そうだ……その通りだ!


「ありがとな、文加」


「う、うん……全然大丈夫だけど……なんでそんなこと聞いたの?」


「えっ!?そ、それは……その……」


なんて答えればいい!?

本当のこと言うわけにもいかないし……

どうする……どうする!


「お兄ちゃん?」


「そっ、それはだな、小説の題材にしようと思ってな!ほら、俺男だからさ。女の子にも意見が聞きたいなって思ってたんだ!」


く、苦しいか……?

小説なんてこれっぽっちも書いてないけど……


「へー……お兄ちゃん小説とか書いてたんだ……」


と、通った!

よし!このまま押し通す!


「ま、まぁな。そういえば、絶対言うとか言ってたけど、大切な人いるのか?やけに語感が強かったからさ」


「え!?い、いないよ!何言ってんの!ほら、解決したなら晩ごはんの支度手伝ってよ!」


「はいはい」


文加のやつ、いつの間にこんなに大人になっちゃったんだろう。

俺は、よおし、とベッドから跳ね起き、階段を降りていった妹を追いかけるべく腕まくりをした。

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