第2話《恋の報告》

それから三時間かけて俺は自分の心を無理やり平常に戻し、自分の部屋を出て階段を降りる。


「大丈夫?お兄ちゃん。心の整理できた?」


階段を降りたら、文加が心配そうに声をかけてきた。


「あ、ああ……だいぶ落ち着いた……。ごめんな、心配かけてさ」


「良かったー……。それで?何があったの?」


「そ、それはだな……」


俺は、話すべきか迷った。

いや、正確には話すのが恥ずかしかった。

しかし、話さなければ相談することができない。

俺は意を決して話すことを決めた。


「文加、実はな……俺、初恋をしたんだよ」


俺がそう言うと、文加は呆然としていた。


「え……?初恋……?お兄ちゃんが……初恋!?」


「そうだよ!あの娘を見たとき、素直に可愛いと思ったんだよ!」


文加は、そう聞いた途端泣き出した。


「お兄ちゃん……やっと……やっと……好きだと思える人を見つけたんだね……。私……とっても嬉しいよ……。はっ!お赤飯たかなきゃ!!今夜はご馳走だよ!!買い物行ってくる!!」


「お、おい!……って、行っちまった……」


そこまで感動してくれるとは思わなかった。

でも、あそこまで喜んでくれると俺も嬉しくなってくる。


「でもな……赤飯は言いすぎだろーーー!!!」


俺は、心の底から思ったことを大声で叫んだ。


「まぁ……行っちまったから仕方ないけどな。そうだ、シンにも報告するか」


スマホを取り出し、シンに電話をかける。


「もしもし?シンか?」


『おーう、ユウ。どうしたー』


「俺さ……初恋したよ」


『ふーん……。って、え!?マジで!?』


「うお!?いきなり大きな声出すなよ!耳潰れるだろうが!」


『だってお前がだぞ!?アイドルとか全然可愛いと思えなかったお前がだぞ!?』


文加にも同じような反応をされたがそこまで驚くだろうか。

まぁ、俺を思ってくれているのは分かるから嬉しいが。


『で!誰なんだよ、好きになった人って!』


「え?いや、名前は知らないな……」


『は!?なんでだよ!?』


「いや、家の近くの道ですれ違った人でさ……。その人のこと全く知らないんだよ……」


『何やってんだよ!一言ぐらい喋らなきゃだめだろ!』


「そんなことしたらナンパじゃねえか!」


『でも、次いつ会えるかわからねえじゃねえか!』


「う……」


確かにその通りだ。

名前も知らずに顔だけを頼りに探すなんて、無理な話だ。

俺の初恋は、相手に自分の名前を知ってもらうことすらも叶わずに、終わってしまうのだろうか。


『まぁ、家の近くの道ですれ違ったのなら、また会えるかもしれないけどさぁ……』


「だ、だよな!そうだよな!うん、その通りだ!」


『ひ、必死だな……。ま、確率は低くはないだろうな』


「よし!俺、頑張るわ!シン!」


『おう!頑張れよ、ユウ!』


「じゃあ、また明日。浜野高校でな」


『おう。じゃあなー』


そう言って電話を切ると、ちょうど文加が買い物から帰ってきた。

結構な荷物だ。

本当にご馳走を作るつもりらしい。


「おい……何作る気なんだ……?」


「え?まずお赤飯でしょ?それから真鯛でしょ?それからご馳走って言ったから、すき焼きにしようかなって。ほら、好きとすき焼きのすきがかぶってるでしょ?」


「いや、ご馳走すぎだろ!?親父、今日は取引先の人と晩飯食べてくるって言ってただろうが!」


「やっば!そうだった!どうしよ!?絶対余るよ!?」


「はぁ……しょうがない。すき焼きは量を減らせ。鯛は一匹だけ焼いて二人で食えばいいだろ。赤飯は余った分は明日の朝に食べよう。これでいいだろ」


「そうだね!そうしよう!じゃ、晩御飯作るの手伝ってー」


「はいはい……手伝いますよ……。でも……、俺祝われる立場だったんじゃ……?」


「それはそれ、これはこれだよ」


結局、俺と文加は腹いっぱいになるまで食って、リビングに倒れてしまった。


「流石に……食いすぎたな……腹一杯だ……」


「うん……ご馳走にしすぎたね……。ちょっとだけ反省してる……」


「ちょっとだけかよ……!」


「だって……嬉しかったんだもん……。仕方ないじゃん」


「ただいまー」


「あ、お父さん。おかえりー……」


「おかえり、親父……」


このタイミングで親父が帰ってきた。

正直に言えば、もっと早く帰ってきてほしかったが。


「二人してそんなにぐったりしてどうした?変な物でも食ったか?」


「いや…食いすぎた……」


「そうだ!お父さん!お兄ちゃん、やっと初恋したんだって!」


「そうか……良かったな、悠一」


「……え?それだけ?」


「まあ、いつかはすると思ってたからな。それより明日、入学式だろ?さっさと風呂入って明日に備えて寝ろ」


「わかった……風呂上がったらそのまま寝に行く。おやすみ」


「おう。おやすみ」


「おやすみー、お兄ちゃん」


そう言って、俺は風呂に入り、上がったらそのまま自分の部屋に向かった。

部屋に入り、ベットに寝転がる。

親父があまり追求して来なかったのは妙な感じはするが、詳しく知られなくてよかった。

そう思った俺は、安心したのか疲れていたのかは分からないが、そのまま寝てしまった。


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