第4話《通学路での談笑》

内房線のホームに着き、電車を待っている。

入学式の集合時間に間に合うためにはあと四十分ほどで学校に着かなければならないが、この様子だと余裕で間に合いそうだ。


「ふぅ……急がなくても良さそうだな……」


「そうだなぁ……。さて、ユウ君?」


「な、なんだよ……?」


シンが意味ありげに聞いてくる。

俺の予想が当たっていれば、シンが聞いてくる内容は俺の初恋の話だろう。

だがついさっき、初恋のことは自分だけで頑張ろうと決めたばかりなので、シンに話すべきかどうか迷った。


「ほら、昨日の話だよ。お前の初恋。俺も出来る限り協力してやるからさ」


「……ありがとな、シン。でも、この恋は自分だけで頑張るって決めたんだ。だからさ、気持ちだけありがたくもらっとくよ」


「……そうか……。頑張れよ。でも、何かあったらいつでも相談に乗ってやるからな、ユウ」


「ああ。その時はよろしく頼むぜ、シン」


「おう!任せとけ!」


シンは元気よく答えてくれた。

俺は素晴らしい親友を得たものだと強く思った。


「ん?電車来てんじゃねえか!乗ろうぜ!」


真剣に話し込んでいたので、電車が来ていたことに俺もシンも気づかなかった。

俺達は慌ててその電車に乗り込んだ。


「あ、危なかった……。危うく乗り過ごすところだった」


「ギリギリだったな……。ま、乗れてよかった」


この電車に乗れなければ入学式の集合時間にギリギリで着いてしまうところだった。

やはり初日なので、少し早めに着いておきたい。

この電車なら、余裕をもって浜野高校に着くことができる。


「そういえばさ、俺とユウって小一の頃からずっと一緒のクラスだったよな〜」


「誠に遺憾だが、その通りだな。それがどうしたんだ?」


「遺憾って酷くね?いやさ、高校でも同じクラスになりそうだな〜って思っただけだよ」


「冗談はやめてくれよ。高校では流石に違うクラスになるだろ、流石に」


確かに、シンとは小学校に入学してから中学校を卒業するまでずっと同じクラスだ。

本当に腐れ縁だが、流石に十年間も一緒のクラスになるのは確率的にかなり低いはずだ。

俺としては同じクラスでも構わないのだが、十年間も一緒のクラスと言うのは……


「なんだよ〜、俺と同じクラスになるの嫌なのか?」


「いや、別に嫌じゃないけどさ……。十年間も一緒のクラスって言うのに軽く恐怖を感じただけだよ……」


「そ、それは確かに……。っていうか思ったんだが、九年間一緒のクラスっていうのも相当だよな」


「それな……」


車掌のノイズ混じりのアナウンスが流れ、電車が走行速度を緩め、停止した。


「お、もうちょっとで着くぞ」


シンにそう言われたので今着いた駅の駅名を見てみると、もう浜野駅の一つ前の駅である、蘇我駅そがえきだった。


「あと三分ぐらいだな。降りる準備しとけよ、ユウ」


「分かってるよ、シン」


ふと、周りを見てみると同じ制服を着た人がちらほらいる。

上級生なのか同級生なのかは分からないが、同じ学校の生徒がいるということは、この時間の電車に乗って正解だったのだろう。

その同じ学校の生徒たちが立ち始めた。

浜野駅に着いたのだ。


「俺らも降りるぞー。早くしろよー」


「分かってるって」


電車を降りて、浜野駅に降りる。


「着いたな〜。ここから高校まで十分ぐらいだったな」


「確かそうだったな。入学式までまだ時間あるけど、少し急いだほうが良いかもな。行こうぜ」


「そうだな」


俺達は改札を出て、浜野高校に向かって歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る