第2話 憂鬱な1日の始まり
隣に住んでる女子高生。
名前は
顔だけでなく、頭も良いしスポーツも抜群で、更に
そんな女の子の唯一の欠点は、いつも俺の事に(母親以上に)ちょっかいを出してくる事だ。
今朝も、俺が朝のニュース番組を見ながら朝ごはんの卵焼きをユックリと頬張っている時に、いつもの元気な声が俺の家の玄関から聞こえて来た。
まだ学校に行くには時間は早いのだ。もう一度言う、学校に行くには十分に間に合う時間なんだ。
だけど、大体この時間を見計らって俺の家にやって来る。
母親は学校の始業時間なんか知らないから、一緒に登校するために俺を迎えに来てくれるんだと思ってる。
でも、実は俺の横で俺が朝ごはんを幸せそうに食べてるのを見たいんだそうだ。
一度優香に、「そんなに早く俺ん家に来ても、学校に行く時間は余裕じゃんか! なんでそんなに早く俺の家に来るんだよ?」って聞いた事があるんだ。
そしたら、彼女はこれ以上ないくらいニコニコした顔をしながら、
「新之助くんの朝ごはん食べてる所って、凄く絵になるじゃない! なんか、ご飯をこんなに美味しく食べてくれる人がいるなんて、ご飯の身になったら幸せだろうなあって思えるの」
って言ってくるんだぜ。
一体ぜんたい、どこの国の人の話だい? 毎日毎日ご飯が食べられないなんて有り得ないじゃんか? そもそも、ご飯の身の上なんか考えたこともないぜ、ほんと。
でも、まあ正直母親の作ってくれる朝ごはんは、俺の大好物の卵焼きひとつ取っても俺の嗜好を全面的に肯定してくれる味付けなんだ。だから、『朝ご飯を食べている時はきっと幸せそうな顔をしている』、という部分を否定するつもりは無いけどな。
ただし、その横顔を見るためだけに、ワザワザ俺が朝ごはんを食べているタイミングに来なくても良いだろう? とは思うんだよ。
まあ、俺みたいなモテない男子高校生に興味を持ってくれて、朝ごはんを食べている所を見に来るなんて、余程の物好きだよな。
優香は俺の幼馴染だ。だけど、ここだけの話、実は俺も優香の事は幼馴染以上の感情を抱いている。
小さい時はいつもそばに居るケンカ仲間の1人だったけど、今は1人の女性として意識しているのは確かだ。
まあ、だからこそ朝早く我が家に来て俺の朝ごはんを食べる姿を見られても、照れ臭いのはあるけど、正直なところ悪い気持ちはしない。
ぶっちゃけ既に慣れちゃって、日常生活の一部になってるんだけどね。
「おばさーん、それじゃあ上がらせてもらうわね! 新之助君を急がせなくちゃあね」
「優香ちゃん、有難うね。私は忙しくて手が離せないから、勝手に上がって食堂にいる新之助を急かしてやってね」
母親は働いているので、俺が飯を食っている間に自分の外出準備をしているんだ。
「全く新之助ったら、いつまで優香ちゃんに世話を焼かせるのかしらねえ。
困った息子だこと……」
お、優香が上がってくるな! それじゃあ俺も朝飯を食うスピードを調整して優香にあまり恥ずかしい姿を晒さないようにしないとな。
「おはようございます!」
彼女は部屋に入ると同時に、明るくて透き通った大きな声であいさつをしてくる。この声を聞くだけで俺のクラスの何人の男子が倒れるんだろうなア、それぐらい可愛い声なんだ。
だけど俺はそんなことにかまってられない。広げたままの新聞紙を綺麗に畳んで、羽織っただけでボタンも留めていないシャツの裾を整えて、慌ててボタンを留める。
「新之助君、今日もご飯を美味しそうに食べているかな?」
優香は嬉しそうに俺の食べているおかずチェックを始める。
「あ! 今日は卵焼きとタコさんウインナー以外に、お浸しも付いているんだね」
「ああ、コレは昨日母親が作ってくれた夕飯の残り物さ。結構イケる味だぜ、ご飯のお供に会うんだよね」
「えー、そうなんだ。私も一口もらって良いかな?」
優香は両手を後ろに組んだ状態で、こちらに向かって上目遣いでおねだりポーズをとる。美人に上目遣いでおねだりされて断れる人類なんか、絶対にいないだろう? 俺は黙って頷くしかない。
「うーん、手づかみって言うのも悪いから、新之助君、君のそのお箸をチョットだけ貸してくれないかしら?」
と言ったと同時に、俺が今使っていた箸を取り上げてお浸しをひとつまみチョイと取り上げて自分の口に運んで行った。
「あ!、お!、うーん。コレは絶品ね。今度新之助君のお母様にレシピを教えてもらおうっと」
可愛い口をモグモグさせて味覚を確認しながら自分の記憶を確認するかのように、大きくてキュートな目が忙しく動く。
「はい新之助君、お箸有難う。チョット口つけちゃったけど、まあ良いわよね? 男の子はそんな事気にしないよね?」
その時間は、本当にあっという間の出来事だった。
え? コレって、間接キッス、ってヤツかい?
と、そんな事も御構い無しに、こんどは俺がさっきまで飲んでいた味噌汁を一口さり気なく飲んでから……
「うーん、この味噌汁も絶品よね。出汁は昆布とカツヲを2体1の比率で合わせたものかしら? 昆布は利尻産の結構良い出来のものね」
俺が、あまりの事に口をあんぐりしていると。
「あ、ゴメンね。あまりに良い匂いだから、お味噌汁も少しだけ頂いちゃいましたっ、てへ」
彼女は、俺の顔を覗き込んでお茶目に笑う。
おーい、俺。
朝からこんな幸せで良いのか?
コレは夢じゃ無いよな!
「いて!」
おう、夢じゃない。
ほっぺたをつねったら痛いじゃん!
どうしよう?
優香が口を付けた味噌汁のお椀の淵の場所。
アソコの位置を俺は一生忘れないで生きていけるぞ!
「どうしたの新之助君? 何、朝から頬っぺたをつねっているの? まだ寝ぼけてたりしてるの? ご飯食べ終わったら、サッサと学校に行くんだからね。早く朝ごはん食べちゃって下さいね」
優香の声で、夢心地の状態から一瞬に素の現実に引き戻された感じだ。
「お、おう。分かったよ、チョット待っててくれ。直ぐに残りのオカズとご飯をかっ込んで、最後に味噌汁を飲み干すからよ」
味噌汁と言った時、一瞬俺の顔が赤くなったのを優香は気付いただろうか?
チョットドキドキしながら、優香の顔をチラリと見ながら、俺は朝飯を食べるスピードを上げた。
「ご馳走様でしたー」
手のシワとシワを合わせて、食後のあいさつをしたら、口の周りをティシュで吹く。
お茶碗とお皿を両手に持って、台所の流しに置いて来ると、優香は俺のカバン一式を持って玄関で待っていた。
「流石、新之助君ね。お母様によく鍛えられてるわ。自分で食べた食器は自分で片付ける。たとえ男子であっても、やるべき事はキチンとやる、人として大事な事よね。キュンとしちゃったわ私。ウフフ」
えー、そこでキュンとされてもなあ。
まあ褒められて悪い気はしないけどなあ。朝は忙しい母親の為に、自分で出来る事をやっているだけなんだけどなあ。
まあそれはそれとして、
「じゃあ行くか優香」
「ハイ、新之助君、私もお供しますね! ウフフ」
「お母さん、言って来るねー!」
「新之助、行ってらっしゃい〜!」
母親からの声が聞こえて来た。
「優香ちゃんも気を付けてね〜! 新之助を頼んだわね!」
母親の優香に対する信頼度を表すような発言が続けて飛んでくる。
俺と優香が家を出ると、優香は自分のカバンからおそろいの弁当箱をとり
だす。
「あれ、優香、何でお前弁当2個も持ってるんだ?」
「え? 決まってるじゃない。新之助君用のお弁当よ。お母様のお弁当は早弁しちゃってね。まあ、お昼に二つ食べる勇気? 胃袋? があるなら別だけど」
「え?マジ!」
優香、俺のための弁当まで作ってくれたの?
うわー嬉しいなあ。
「勘違いしないでね、新之助君。私はあなたのためだけに作ったのでは無いのよ。コレは、私とあなたの2人のために作ったのよ」
そう言いながら、大きめの方の弁当箱を俺に差し出す。
「新之助君、君は分からないと思うけど、一人分のおかずって作るの大変なの。だからと言って普通に作ると二人分になっちゃうの。それで新之助君の分まで作っちゃえ! という事なのよ」
少し言い訳の様に聞こえるけど、優香が俺のために弁当を作ってくれたと思うと素直に嬉しかった。
「お弁当箱とお箸は、私とお揃いなの。先週のお休みにペアのお弁当箱を探しにワザワザ都心の専門店に行って来たのよ」
嬉しそうに言いながら、俺に渡した弁当と自分の弁当を並べて見せる。
「コレ、結構選ぶの大変だったのだからね。あまり小ぶりでも無く、可愛すぎない、少し落ち着きのある、それでいて男物と女物のペアになっているお弁当箱なんて普通は無いんだからね! 感謝してね?」
優香は心持ち胸を張って、ニコリとする。
「後、中身は割とヘルシーにしてあるから、お母様のお弁当を早弁しても、ちゃんとお昼に食べきれる量だからね。だって、新之助君が食べ過ぎて太ってしまったら、私も困るから」
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