第21話 イエヤスの魔の手
高名な町医者は、町に戻ってから早速優香の着物を呉服問屋に持って行った。すると、呉服問屋は腰を抜かさんばかりに驚いて、言った。
「あんた、こんな高級な御着物おれの手には負えないよ。多分、この肌触りは絹だよな。この着物は、どこぞの御姫様が着るぐらいの代物だぞ。ここらへんの町でこんな物買って仕立てたい奴なんかいないよ。今度、三河一大きな城下にある呉服問屋に行って売って来るから、それまではこの着物を預からせてもらえまいか?」
お医者様は、何も気にせずに答えた。
「ほー、やっぱりそうか。この着物は素人のワシが見ても良いモノであるのが分かるものなぁ。そうか、おまえさんの店では処分出来ないか。モノが良すぎるのも考え物だなア。まあいい、わかった、代金はいつでもいいから、処分出来たら教えてくれ」
そういうと、町医者は優香の着ていた着物を呉服問屋に預けてから、診療所に戻って行った。
***
新之助の身体が丈夫であっただけでなく、優香による献身的な介護もあって、新之助の足の傷は、日増しに回復していった。
「新之助様、今日もお体を拭きましょうね」
そういって、優香は怪我をした部分の包帯を代えるだけでなく、新之助の体全体も冷たい手ぬぐいで丁寧に拭く。そうやってマッサージを施すことで、それが体に対する刺激となって、代謝能力が高まっていく。
「さあ、新之助様お着物を全て脱いでください」
そういって、新之助を裸にして、体中を拭いていく。足の先から、股間の部分、腰、腹、胸、背中、そして、腕の先まで。
股間の部分を拭くときには、新之助も恥ずかしいのか、少し赤くなってまうが、優香はもっと赤くなってしまう。優香がていねいに股間を拭いていると、新之助の男の部分が刺激を受けて大きくなってしまうからだ。
最初は新之助も大きくならないように我慢していたのだが、優香に優しく拭いてもらうとどうしても我慢出来なくなって大きくなってしまうのだ。今はもう自然に大きくなるに任せる様にしている。新之助にとっては、逆にそれが自然なような気がするからだった。
「男の人のアレって、本当に不思議ですよねえ、義姉さま。普段は赤ちゃんと同じようにちいさくて可愛いのに、どうして、私が触るとあんなに大きくなるのでしょうか?」
優香が、おイチに聞いたことがあるが、適当にはぐらかされた。
そんな幸せな日々が続き、新之助の体力も回復して来た頃だった。そろそろ身体を動かさないと体力も落ちるし、野生の感も鈍っちまうから、少し遠出して狩をして来ようか? と言うことを新之助が言い出した。
しかし、新之助の足の傷はまだ完全になおっている訳ではなかった。
そこで、険しい山の中は無理だが、里から少し離れた場所にある緩やかな峰が連なる森まで行って、そこで兎や子鹿でも捕まえる練習をして来るよ、と言う話だった。
新之助と優香でそういう話が進んでいる頃、三河一大きな城下町では大変なことになっていたのだった……
***
――― 姫様の着物は、着物としてのモノが良すぎる。だから町の小さな呉服屋で扱えるものでは無い。素人は無理でも呉服問屋の主人が見れば、着物の良さが分かるに違いない。そうであれば、絶対にこの城下の中の呉服屋の何処かに姫様のお着物は持ち込まれる筈だ。―――
「ご城下の全ての呉服屋に、イエヤス様の名において御触れを出すのだ。もしも姫様と同じ着物を売りに来たら、直ぐに城に連絡するようにと。お前たち、すぐに手配するんだ!」
優香の父親の首を差し出すことで、イエヤスに仕官することが出来た新之助に手首を砕かれたサムライは、姫様を探すのに躍起になっていた。
それは、イエヤスからの厳命というだけでなく、新之助に対する深い恨みも含まれていたからだ。
「おサムライ様。姫様の物と思われる素晴らしくモノの良い着物を、西町の呉服問屋屋に売りに来た奴がいます。なんでも小さな町の呉服屋で、さる方から処分を頼まれたが自分の町の中では処分出来ないので三河で一番大きなご城下に売りにきたそうででござる」
町回りをしていた部下から、急な連絡が入ったのは、その頃であった。
「よし、すぐに行くからその者を店に留め置いてくれ」
サムライは、その着物を売りに来た小さな町の呉服屋に話を聞くことができた。もちろん本当のことは言えないので、その着物が行方不明になっている自分の親戚の娘のものに似ているということにした。
小さな町の呉服屋は、その偽の話を信じてなんの疑問も持たずに、サムライに着物の持ち主の話をしてくれた。呉服問屋に持ち込まれた着物は、小さな町で開業している町医者が治療費の代わりにもらい受けたという話だった。
翌日には、サムライはその小さな町に出向いた。町医者が呉服屋から着物の代金を受け取る時に、それとなく町医者が治療したのは誰で、何処に住んでいるのかを聞き出した。
町医者は、サムライを特に不信がる事もなく、治療したのは山向こうの隠れ里に住む若者だと話した。そして、その若者を看病する若い女性から、治療代として着物をもらい受けたのだとも話した。
サムライは、確信した。そいつこそ、俺の手首を砕いたあの新之助に違いない。あいつは、結局姫様を連れて里に逃げこんだのだ。どうやって姫様に取り入ったのかは分からないが、結局は姫様を自分の嫁にしてしまったのだと、勝手な妄想を膨らませていた。
サムライは、密かに里の入り口で見張りを行い、優香と新之助が仲良く里の外で馬に乗っているところを見つけた。やはりあの着物は優香姫のものだったのだ。
――― 時は来た。―――
イエヤスには、姫様を見つけたと報告した。そして、姫様は恐ろしく強い戦闘集団にかくまわれていると言って、イエヤスの正規軍1万を借り受ける事に成功した。
後は、決行するだけだ。憎いあいつの里を、イエヤス正規軍1万で囲み、皆殺しにしてやる。そのうえで姫をイエヤスの元に連れ帰れば、俺の地位も安泰だ。
サムライは、これでやっと積年の恨みを晴らせると、心底嬉しそうに笑った。
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