第3話 嬉しいのか、恥ずかしいのか?

 優香と一緒に家を出て、お弁当を交換して道を歩き始めた。と、優香が俺の顔をジーっと見た後で、イキナリ俺の前に顔を突き出して来た!


 オッ、コレはもしかして行って来ますのチューか? 俺が少しどぎまぎしていると。


「はい、ほっぺたに着いてたお弁当ー」

 っと言いながら、彼女は俺のほっぺたに付いていた朝ご飯のご飯粒を取って、してやったりという顔をしながら俺に見せた。

 そして間髪を入れずに、パクッと自分の口に放り込んだ。


「……、え、ほえぇー!」

 何が起こったのか? 一瞬俺の頭は理解できなかった。が、次の瞬間俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「それ俺のご飯粒だから」

 俺は、変な声を出して少し恥ずかしい気持ちもそこそこに、優香に意見する。

「普通は俺の口に押し込むんじゃ無いのか?」


「何言ってんのよ、お米には神様がいるのよ。しかも、一粒に7人も」

 優香は、突然真面目な顔になって、俺に反論を仕掛けて来る。


「そんな大事なお米なんだから、見つけたら直ぐに口に運ぶでしょ? 新之助君の口の中に入ってたら流石に無理かもだけど、ホッペに着いてたんだから誰のものでも無いのよ。ウフフ」


 まあ、優香の言うことにも一理あるかなぁ? お米の神様は大事なものなア、と思いつつ。何か言いくるめられた様な気もするが……。


 でもさ、それって回りから見るとアツアツ・カップルがやる仕草じゃないか? そう反論しようと思ったが、それが反論になっていない事に気が付いて、あわてて口の中で飲み込んだ。


***


 優香と俺は同じ高校に通っている。

 俺らの通っている高校は結構有名校なので、生徒は県の内外から来るため殆どの生徒は電車のもより駅からバスに乗って来る。


 でも、俺らは自宅の関係から学校を挟んで反対側のバスに乗って学校に向かう事になる。しかも俺らの乗り降りするバス停は、バスの始発停留所なので自宅から高校まで2人だけのバス通学で大体は座って行くことが出来る。


 そうなると、毎回バスの一番奥の席に2人で座ることになる。

 今日は、ほっぺたの弁当事件で少しバス停に着くのが遅くなりそうだったので、二人ともバス停直前までラスト100メートルダッシュの形になってしまった。


「ハア、ハア! ハア、ハア! 何とかバスに乗れたぜ!」

 俺と優香は、バス停の前まで全力で走って来たおかげで肩で息をしている状態だった。バスはお行儀よく入り口のトビラを開けたまま、俺達が来るのを待っていた。


「大体、このバス停使ってるのは俺たちだけなんだから、もう少し大目に見て欲しいよな! この間なんか余裕かまして歩いてたら、目の前でバスの扉閉められたもんなあ!」

 俺は優香に愚痴をこぼしながらバスに乗り込む。


「お早うございます、運転手さん! 今日もお仕事ご苦労様です! チョット来るのが遅くなりましたが、バスに乗せて下さって有り難う御座います。今日も、安全運転よろしくお願いします」

 優香はバスの運転手に向かって、明るい声であいさつし、ていねいにお辞儀をしながら乗り込む。バスの運転手は少し嬉しそうにしながら軽く手を挙げて返答する。


「あー、それ、私がクラブ活動で早出した時の話ね? あの時は朝から機嫌が悪かったけど、それはそういう理由だったのね。まあ、バスの運転手さんにも色々理由があったのよきっと」

 俺と優香は、バスの奥の方に向かいながら運転手に聞こえないように小さな声でバスに乗り遅れた時の話をする。


「だって、遅くなった新之助君にも悪いところが有った訳でしょ? 必至になって走って来たら、運転手さんも待ってくれたわよ。始発の停留所だから発車時刻を守らないとダメだ、って運転手さんのプレッシャー大変だと思うもの。ウフフ」


「うーん。優香に言われると言い返せないなあ。お前はどんな時も前向きだもんなあ」

 そう言いながら、いつもの様に一番後ろの席に二人で座り込む。

 全力で走ったので、椅子に座ってから額に薄っすらと汗が出てきた。


「新之助君、チョットだけ恥ずかしいことするから窓の外を見てて!」


 俺はいつも窓側に座るから、外を見るということは優香の姿が見えないということだ。おれは優香に言われるままに、窓の外を見る。すると……


 突然耳慣れない音が聞こえて来た。


 バフ、バフ、バフ!

 バフ、バフ、バフ!


「えー! 優香何してんの?」


「決まってるじゃない! 暑いからスカートの裾をあおって風を起こしてるの。女子高生は皆んな普通にやってる事でしょう?」


そう言いながら、優香の方からは相変わらず不思議な音が聞こえ続ける。


「大丈夫、バスに乗ってるのは私達だけだし。でも、恥ずかしいからこっちを見ないでね。今日は勝負パンツじゃないから絶対に新之助君に見られたくないの。女の子の気持ちは察するものよ?」


 オイオイ、そこまでハッキリ言われたら男としては見たくなるじゃないか! でも、見るなと言われたら見るわけに行かないしー!

 バスの窓ガラスには優香がスカートを大胆にヒラヒラさせている姿しか映ってなくて、位置の関係で優香のパンツは一瞬たりとも見えないし!


 うわぁー!

 こういうのを生殺しって言うんだよー。

 見たいという欲望に耐えられるか俺!

 コンチキショウー!


 俺がモンモンとしている気配を優香は感じたようだ。


「ウーン……、どうしてもパンツ見たい時には言ってね? 女子高生のパンツを覗き見したら犯罪だから無断でしちゃだめだよ。そんな事でお隣さんを犯罪者にする訳には行かないから。新之助君のお母様にも恨まれちゃうし。その時には、私もちゃんと勝負パンツ履いて来るから! それと一番大事な事だけど、ちゃんとお母様に許可をもらってね。『俺、我慢出来なくて犯罪者になりそうだから、お隣の優香ちゃんにパンツを見せてもらうけど、良いかな母さん?』そしたら、見せてあげるから!」


 ガラス窓に写ってる優香の顔がチョットだけ上気して赤らんでいるのは、さっき走ったからなのか、今の発言のせいなのか? それは俺には分からない……


「ふぅー。やっと汗も引いて落ち着いて来たから、こっちを向いても良いわよ」


優香は俺にそう言ってから、スカートを使って風を起こす事をやめた。


「ごめんなさいね、悪い思いをさせてしまって。今度から団扇を鞄に入れておくから。確かに、これから段々と暑くなるので、扇ぐ道具は必需品かもね。我ながら良いところに気が付いたかも。ウフフ」


 イヤイヤ、団扇なんか無い方が、毎日嬉しい行為が観られるので、俺にとっては幸せなんですけど。そんな事、気が付かないで欲しいんですが……。

 と心の奥で叫ぶ!


 グオンー。


 発車時刻になって、バスは俺達が心の準備をする前に急に走り出した。


「キャアー」

 ガタン!


 バスが急発進した拍子に、さっきまでスカートを煽るために中途半端な座り方をしてた彼女がバランスを崩して俺の膝と胸の間に仰向けに倒れ込んで来た。


 お! これって、もしかしたら男の夢であるお姫様抱っこ状態じゃん!


 俺の視線の先には、仰向けに丸まって俺のひざ上にちょこんと乗っている彼女がいる。彼女の制服の胸もとの隙間からはブラウスとその下に着けているブラジャーの一部がチラリと見えた(気がした)。


「あー、ごめんなさい。新之助君、痛くなかった? 私も最近ご飯が美味しくて食べ過ぎ気味で体重計に乗るのが怖いの。あ、そうか、痛くなかったじゃなくて重くなかったか? だよね、この場合の聞き方は……」


 アレ?

 クンクン、クンクン?


「少し走っちゃったから、新之助君もチョット汗臭くなったみたいね?」

 優香は、お姫様だっこの状態から俺の胸に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。


「もしかして、私も汗臭いのかな? 新之助君、私の匂いを嗅いでくれるかしら?」


 え?

 このシチュエーションって男子高校生と女子高校生がお互いの匂いを嗅ぐところなのか?


 やっと落ち着きかけた俺の心臓は、またMAX値まで跳ね上がって行きそうになった。


 俺の眼下に彼女の鼻があるという事は、愛らしい唇も俺の目の前にあるという事だ!

 これだけ近いと、優香の朝シャンした髪の毛の匂いとほんの少し汗ばんだ体の匂いが、俺の鼻腔を刺激してくる。


 彼女の匂いが臭い筈ないじゃ無いか!

 匂いも含めて全部オッケーだよ!


「イ、イヤ! 大丈夫だと思う! 全然汗臭くなんか無いよ!」


 ヤバイヤバイ、ヤバイヤバイ!

 もう俺は爆発寸前だ!

 こんな会話してる場合じゃ無い!


 俺は膝と胸の間に入り込んでいる彼女を抱きしめようとしている両腕を、最後の理性を絞り出して無理やり上に挙げた。


 もう、優香勘弁してくれ!

 ここがバスの中じゃあ無かったら、本当に俺の最後のタガが外れちゃう!


「ふぅーッ、よいしょっと」


 まるで俺の感情の限界点が見えるかのように、最後のタイミングで優香は俺の胸元から起き上がった。それから何事も無かったかの様に隣の席に座り直した。


「本当にごめんなさい。今日は、チョット私変なのかもね? 普段なら、殿方の匂いを嗅ぐなんて行儀の悪い事は絶対しない筈なんだけど? やはり暑くなって来たからかしらね? 」


優香はニコリと笑ってから、俺の耳元でささやいた。


「でも、私はあなたの匂い嫌いじゃ無いわよ」


 ふぅー! 危なかった。

 後1〜2秒彼女が起き上がるのが遅かったら、本当にヤバかったかも。

 若い男女の匂いの嗅ぎ合いなんて、本当にやばいよね。


 朝からコレで、今日一日俺の体力は持つんだろうか?

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