第七話「種の門と風雲児」

 闘技場での闘技試合の翌日、その夜、カイザンたちは旅人が多く利用するという宿に泊まっている。

 この宿はあくまで旅人用ではなく、旅人が多く利用するだけのこと。内装や外装はもろもろが獣種の仕様である。

 獣毛絨毯、獣毛布団、獣毛の袴に、獣人のスタッフ。獣臭に溢れた洗剤なんてのもあった。一応、ブランド品らしい。どこブランドだよと実際にツッコんだ。

 とにかく、やたらと獣。種族にとって自種の自尊心は最も大事であると聞いていたが、これは異常じゃないか?


・・・俺なんて、トイレで鹿のツノが刺さったからね。どこに刺さったとかの質問は受け付けないけど。


「じゃあ、あの闘技試合で勝利した利益について問う質問には、答えて下さるんですか?」


 未だにヒリヒリする肛門をおさえ.........患部を押さえて優しく椅子に座るカイザンに、パートナーが落胆気味に質問を投げる。

 時刻は太陽の傾きから考えて午後九時時頃、既に食事ともに入浴を済ませた二人は今、公衆スペースで談話中とでも言ったところか。

 アミネスは現在、カイザンがボコボコにされるのではなく、したことに不満を覚えている。加えて、


「種族名に自分が最強種族であることまで大公開した世紀の大航海でしたが、それなりの成果というものはあったのですかね。それとも、大後悔で?」


 アミネスの発音だから理解できるものの、普通なら表記されなきゃどの[だいこうかい]だか分からない。

 それはともかく、その質問に対する答えは正当な理由を持つ。


「観客席から観てただろ、俺の完璧な勝利を。思ったんだけど、恐怖の象徴とこ思われた方が、逆に警戒して何もしてこないんじゃって思って」

「三発ほど入れてましたけど。あの戦い方で恐怖の象徴にりどれもちゃんと当たってませんでしたし」

「...獣の生命力は偉大なんだよ」


・・・だってさ、人を真正面から殴ったこととかないもん。傍観者からめっちょ煽られたよ。


 アミネスの的確な攻めに、カイザンが横になって仰向けのまま言い訳をする。もちろん、床にではない。

 公衆スペースは会議用としても使える広さで、カイザンたちはその中でも一際大きなソファでくつろいでいるのだ。

 訂正、贅沢に真ん中で一人独占座りをしているのはカイザンで、アミネスは座らずに立っている。

 さっきからずっとだ。さすがに疑問に思う。


「ってか、なんで座らないんだよ。あれか、誰が座ったかも分からないような物には触れたくない的な潔癖?それとも.......あっ、スカートだから?」

「変態発言です」

「パートナーをそんな風に罵るなよ」


・・・紳士的に尋ねたつもりだぜ。


 と反論しつつも、ちゃんと席をずれる。いつまでもパートナーを立たせる訳にはいかない。...遅れた紳士さ。

 二つ隣の椅子へ移動、今度こそアミネスも座ってくれた。


「で、成果は?象徴にはなれたんですか?」

「言い方が強いよ。....成果って言えば、象徴は徐々に進めていくとして、それ以外に成果はあるだろ。今まさにこの状況だろうよ」


・・・なんてたって、ここは獣領の最高級の宿屋で、俺たちが泊まっているのは最高の一室だからな。最上階だぞ、三階建ての。


 カイザンが闘技場に行った理由は、ただの金儲けだ。象徴とやらは、アミネスに聞かれるのを見越してテキトーに考えただけ。だから問い詰められるととても浅い。

 参加だけでも金が貰えるうえ、勝利すれば大金。さらに、カイザンは初戦の勝利以降、観客から金を賭けられるようになって、たった数回の出場で簡単に大金を儲けられた訳だ。何せ、ずっと勝っているから。しかし、魔力量は限られ、一日二試合までが限界。

 金は有り余ってることだし、この際、豪奢な衣服でも買ってやろうかとも思っている。帝王の異名を受け入れてみようかとも。

カイザンが着ている服は、女神領にあった男向けの服。ずっと着てきたから、そろそろ飽きてきたこともあるし。替え時には丁度いい。


「そういやさあ、アミネスの着ている服ってのは、いつも同じだよな」

「変態ですか?」


 相変わらず端的、かつ直球。

 決め付けから疑問系にされたのがとても不思議でならない。アミネスこそ、帝王のパートナーとしての才能が染み付いていないか?


「今の質問は違うだろ。パートナーへの純粋な興味?単純に知りたいみたいなさあ」

「ぱーとなー関係なしですよ。...この服は、毎朝私が特殊能力で造っているんです。鉄とかの高密度品は造れませんが、繊維系は魔力消費がごく僅かなので」


 アミネスが女神領でよく造っていたタライは、鉄とかまた違った素材らしい。まあ、純鉄だったら首が折れてるけど。

 驚くべきは、造っているのが繊維ではなく、服そのものだということ。


・・・そういうことなら、今度...。


「俺にも造ってくれとか言わないでくださいね」


心の声の途中で、前もって依頼を断られた。


「......ですよね。....もう夜も深いし、寝るか」


普段なら夜更かしするカイザンでも、闘技試合が何度もあればさすがに疲れる。魔力は底を尽きかけている状態。

それに対し、アミネスは一言。


「変態」

「何でだよ。いよいよ端的に収めやがったな」


 椅子から立ち上がって全力で怒る。アミネスはとっさに両耳を塞いでセーフ。

 お互い、普通に眠気が吹っ飛んだ。もう、こうなったら今日は寝かせない気分で話をしてやる。服も造ってもらえないし。


・・・話したいこと、聞きたいこと。あったっけ?...あー。


「気になる単語を思い出した。闘技場で実況が言ってた、門の開放って何だ?」


 他種族同士の闘技試合のため、門の開放の防止で特別ルールが毎回課せられていた。ずっと気になっていたけど、ことごとく聞くチャンスを失っていたから。これが良い機会だ。


「詳しくは、[不本意の領域]です。全ての種族が共通して内に秘める門であり、一言で言うなれば、種族の限界を超えた領域ですね」

「なんか、スゴそうだな」


 簡単な内容説明であるが、何となく分かる。

 だって、種族を超えた力とか、そんなの。


・・・主人公だけが許された的な。


 自分の立場を知っているから、優越感で勝ち誇った気分のカイザン。アミネスがその感情を打ち砕く。...ただ、事実を述べるだけ。


「私の説明聞いてましたか?全種族が開放できるんですよ。それに、種族ごとに開放条件や性能は異なりますし、他種族からの介入が必須条件。例外なしに無意識の暴走状態に陥るんですよ」

「はっ?誰でもなれるうえに暴走とか最悪じゃんか」


 やっと主人公としての圧倒的な才能を発揮できると思っていたのに!これもまた違う。いつになったら自分だけの力を見つけられるのか。


・・・もう、大器晩成でいいや。


 そうだ、主人公は後から強くなるものだ。焦ることはない。...最初から最強の能力を持っていたら、それこそなろう系ではないか。

 ...実はカイザン、いつもはあぁ言ってはいるが、心では特殊能力だけでは無理だと思っている。

もし、相手が魔法を使える状態で先制をされればお終い、そもそも一対一の決闘がどれどけあるか。そんなにないだろ。

 暗い気持ちになって顔を下げていたカイザン、客観的には落ち込んだという表現が正しい。

 違って今での改心をして顔を上げた時、アミネスは何故かため息を吐いていた。


・・・最近、ため息吐き過ぎじゃない?幸せが逃げるって言っただろうに。


「だとしたら逃げているのはカイザンさんのですって。見つかった才能は、厄神ですね」

「さっ、門の話に戻ろうか。で、どうしてため息吐いてる?」


 発言が前半の時点でアミネスが後半に何を言うのか予想できたので、食い気味に話題を転換。聞かなかったことに。やく、まではしっかりと聞こえた。

 この行動にもアミネスはため息を吐いている。

 吐き終わると、カイザンから聞かれたため息の理由を話す。


「あのですね。門の開放は確かに誰でも可能ですよ。でも、自ら開こうとする人なんて今の時代には居ませんよ。さっきも言いましたが、開放には他種族からの介入が必須条件。例えば、獣種の場合の開放の開放条件は、生命力の著しい低下や命損失に近しい傷を負った時です。その傷とは、他種族からの攻撃。つまりは戦争以外にないですよ。...それに、暴走中にも魔力は無意識上の任意で消費されます。ですので、閉じた頃には魔力が尽きて死んでいたりもしばしばのこと」


・・・怖いこと聞いたな。


 早々の結論は、やめておこう。説明を聞いた限りでは印象が最悪だ。

 諸刃の剣とは少し違うようだし、使わないのがベスト。カイザンたちには、まだ早いってことで。


「何より俺は、YDKだからな」

「わいでぃーけー?」


・・・アルファベットも言えないのか。クリエイトとかより言い易いぞ。


 噛む寸前くらいに言いにくそうなアミネス。

 興味的に問う少女に対し、カイザンのくだらなさが現実を叩きつける。


「やらなくてもいい事は、どうでもよく感じる、頃合い」

「ならそう言ってくださいよ。面倒ですね」

「正論ごもっともだよ。.....はぁーあ、もう寝よう。夜更かしはお肌の大敵だぞ」


 まだ雑談でも続けようかと思ったが、漏れ出たあくびに任せて体の指示に従う。

 アミネスにもそれとなく睡眠を促して、流れ解散とする。


「そうですね」


 同意したアミネスは、カイザンより先に椅子から立ち上がり、踵を返して自分の部屋に歩いていく。そこで立ち止まり、「あっ」とこぼして振り返った。


「カイザンさん、他種族からの介入というの、一つだけ例外がありました」

「例外?」


 まだ椅子から立ち上がっていなかったカイザンは、空いた椅子を占領して端的に内容を聞き返す。

 すると、アミネスは珍しく声音を変えてそれを話した。


「'二重血'の者たちは、門の開放条件がとても安易であり、自種からの攻撃ですら開いてしまいますから」


 '二重血'、それは他種族同士から生まれた両のウィルスを合わせ持つハーフの種族。

 ......獣領にもまた、その者は存在しているのだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 それから、三日が経った。


 カイザンは毎日のように闘技場へと足を運んだ。その度の勝利、相応なる大金取得。

 稼いだお金でウハウハになれるのも良い気分だろうけど、帝王を見るアミネスの目が怖いからほどほどにしている。

 そのため、貯蓄額はとんでもないことになっている。

 これではいつ強盗に遭うか分からないと警戒はしていたが、よく考えたら宿にはカイザンたち以外は居なかった。当然だ。帝王が住み着いているのだから。

 既に、恐怖の象徴なのかもしれない。


 獣領には闘技場を中心として最強種族の噂が再び流れ、今では闘技場の観覧は大盛況。カイザーに挑戦する者も増えている。


ーーーーーー故に、彼らが動き出すのも仕方のないことだ。


 それは、獣領の北に位置する王城。種王と領主の住むそこは、領地と種族の中枢部だ。

 場面は、その王城のすぐ横。隣接された大きな建造物、獣領の最高守衛団[五神最将]の本部であり、たくさんの衛兵が行き交う詰め所、ここもまた一つの中枢部。

 そこで、


「失礼いたします。ルギリアス殿、何日か前に門番から連絡のあった二人組の件なのですが。一方の少年が闘技場内で自らを例の最強種族だと名乗り、連戦連勝を重ねているそうです」


 会議室とも思える大きな部屋で、領内報告を済ます衛兵。

 そこに居るのは、ルギリアスと呼ばれた男。この男こそ、[五神最将]の現リーダーである。


「話は聞いている。十四年前の厄災を繰り返さぬためにも、早急に対処するべきところだが......、リュファイス領主から手を出すなとの命令が下っている。今は警戒体制のままでいい。下手に動けば、どうなるなか分からんぞ」

「リュファイス領主が、.....そうですか。では、数名での広範囲監視を続けます」

「それでいい。だが、あまり特殊能力を使い過ぎるな。奴の種族が分からない以上、どう利用されるか分からないからか」


 ルギリアスの忠告と、部屋を出る際の礼儀として頭を下げ、衛兵は部屋を出た。

 扉を閉める際に音が鳴らなかったことから、衛兵の几帳面さが分かる。

 という訳ではなく、入れ違いで誰かが入ってきたのだ。入る際に扉を全開にして一切閉めようとしないことから、礼儀の無さが丸わかり。


「リーダー、どこか行くの?」


 そう問いながら近付いて来るのは、獣種の少女。名を、ウィバーナ・フェリオル。

 瞳の色は赤く、大きく見開いている。橙色の髪は、肩まで届く程度の長さで、頭から大きな猫耳が立っている。本来の人の耳には、獣種とは思えない、まさかの近代的な装飾品を装備している。

 何気ない個々の動作にも笑顔が振りまかれていて、周囲を明るくさせる性格が第一印象となり得る。元気そうに尻尾を愛想良く振る、ザ・獣耳っ子。

 服装は動きやすさ重視のために露出が多く、そこから分かる華奢な身体であるが、獣種としての力量はとても高い。そう、彼女もまた、[五神最将]の現団員の一人だ。

 部屋の奥に立つルギリアスに軽快な足取りで近付くと、無愛想な顔を覗き込む。


「ウィバーナ。明日、王城の本会議室に来い。リュファイス領主からの招集だ」


 重い声音で坦々と語るルギリアスに、ウィバーナは不満そうにしながら、内容に注目する。


「リュファイスから?」


 首を傾げて、聞き返す。

 無言の同意を受け、ぽかーんと口を開けて何かを考え始める。それがしばらく続いたので、場面は次へと移る。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 獣領で迎える何度目かの朝だ。新しい朝と言える。

 死なずに転生できたのもそうだが、旅という新しい門出を今更ながら祝う気分で窓越しに外を見つめる今日この頃。........なんと、今日は雨だ。

 とはいえ、異世界に来て以来、雨が降るのも相当珍しい光景。ある意味で、これも新しい...。


「うん、女神領と変わらんな」


 朝は朝だ。どこから見ても同じ朝、語る気がせん。むしろ、何を語れるだろうか。日本から俳人を連れてきたとして、誰も読めないはずだ。...もちろん、金は賭けないぞ。


「独りの状況で、わざわざ感情を口に出す必要ありますか?」

「無言で窓の外を眺めていいのは、観光バスに独りで乗った時専用だよ」


 アミネスからの突然な物言いにも、朝を感じさせない素早い返し。

 ちなみに、カイザンが物心ついてから初めて窓の外をじっと眺めたのは、徹夜勉強中に一度だけ瞼を閉じてみたら受験当日の朝で、時計よりまず先に差す陽光に目を剥いたあの日。

 アミネスの質問に対して冷静に返したものの、よく考えてみると、


「俺の部屋。なんで入ったんだよ」


・・・寝起きだからだけど、俺も落ちたもんだな。


 疑問よりも先に口が出るなんて。withアミネス生活でそこら辺が無意識に培われてしまったらしい。

 将来を心配してため息を吐くぱーとなーを他所に、アミネスは質問に答えるべく肩提げカバンから何かを取り出す。


「今朝の新聞に、面白いことが書かれていました。ぱーとなーの私が慈悲深くも見せてあげようと思っただけです」

「また、謎の印刷物。....面白いって、アミネスが俺に笑顔を見せてくれるレベルで?」


 自慢じゃ、本当に自慢じゃないけど、からかわれてきた意地ってものが芽生え始めている。

 カイザンをからかう時ぐらいしか笑顔を見せてくれないアミネス、笑われることがあっても笑わせたことがない訳だし、どっかの記者ごときが笑わせるなんて対抗心が溢れる。


・・・何やら、たぎってきたもんですな。


 ただの嫉妬。燃え上がるカイザンの様子に気付いて。アミネスにもまた、からかってきた意地がある。


「そうですね。そこまで面白くはないので、見せないでいいですね」

「いやぁー、負けでいいから見せてー」


 新聞片手にカイザンの心を揺さぶって見事に落としたアミネスは、悪戯な笑みの後にそれを手渡して、勝手にベッドの上に座った。勝者敗者の関係は既に成立している。人の部屋の家具だというのに。

 平然とした態度は、心を読んだのを誤魔化すために違いない。よく考えたら、前にもあったように心以上の何かを読まれた。

 言い返さないのは背中が痒いくらい耐え難いが、面倒だから我慢する。両方とも。女神領で暇を耐えたのだから、耐久力はある方だ。自称。

 渡された新聞を開き、ふむふむと呟きながら流れ目で読み進める。てっきり巻物系かと思ったら、普通に日本的な新聞だった。印刷技術が余計に気になる。そして文字通り、端から端まで目を通し、無言で閉じた。


「うん、読めないね」


 あっさりと諦めて、新聞と、読むのを簡単に投げ出す。それをアミネスがしっかりとキャッチした。


「時間の無駄でしたね。子供でも読み易いと大人気の新聞なんですけど。子ども・大人・お年寄り・カイザンさんと、年齢層を分けましょう」

「俺一人でどれだけの高齢化率になんだよ、それ」


・・・文字の読み書きに、年齢層とか関係ないだろ。


「だったら、早く文字を覚えてくださいよ。文字に関して、私ばかりが働かされるのは御免です。ぱーとなーとして頑張ってください」

「聞き飽きたから、早く読んでくれよ。パートナーとして頑張ってください」

「んぅ....」


 何か言いたそうな顔をするも、話を進めるために我慢。頰を少し膨らます感じが久しぶりに微笑ましいと思う。二歳離れているだけだけど。


「では、読みますね。...速報です。先日、カイザンさんが旅に出た翌日、西の大陸に属する巨人領がまるごと消えて無くなってしまったそうです」

「・・・・・ドゆコトですかい?」


 巨人領、つまりは巨人種の領地。妖精種や巨人種にはもともと興味があったから、一度アミネスに聞いたことがある。確か、高位の種族と言っていた。


・・・このご時世に、絶滅なんてあり得るのか?


 考えつく可能性は、獣領に来てから何度も悪行を聞く悪魔種。彼らなら戦争だってやり兼ねない。でも、その噂のなかのどれにも、領地一つを陥落させたなんてのはない。

 そもそも、表現に気になる。消滅とは何だ?絶滅ではなく、領地の消滅。


・・・んー、分からん。


「ってなると思ってましたよ。勝手に考察を広げないでください。気になってほしい点はそこじゃないので」

「分かったよ」


・・・黙りまーす。


心を読んで宣言を聞き入れたアミネスは、満足そうに本文を読み進めていく。


「....昨日のことです。巨人領へと向かった商業人が、地図に従って着いた先に、地面が円形に抉られたような何もない土地を発見した。第一発見者となったその方は、非戦闘種族の夢鏡種だそうで、現状では容疑種ゼロとのこと。目撃情報通り、西領地連合会は巨人領の全て、滞在していた人々、あまつさえ周囲の地形すらも呑み込むように消えていたのを確認したらしいです」


・・・さっきからニュースみたく言うな。


 そっちも気になるけど、カイザンは腐っても領主。どこかの領地ご消えたなんて、他人事とはあまりにもかけ離れている緊急事態。情報は新鮮な内に仕入れとかないと。


「消されていたってのは、言い方的には事件なんだな」

「自然現象でないことは明らかです。放たれたのは、おそらく[侵食]の特性を持つ闇属性魔力による魔法。巨人種には適性がありませんし、事故というには悪意が深いです。考えられる可能性はおおよそ二つ、強力な闇属性魔力を操る未確認の新生種族の出現。または、[四大鬼]の内の残り三体のいずれかが目覚めたか」


 新聞を見ずに言っていることから、アミネス自身の見解。コメンテーターのようだ。拍手を贈る。

 まだ続くご様子。最初の質問から随分と広がるものだ。


「魔法は同時に放てば、範囲や威力は増大します。しかし、巨人領を襲撃したのご複数人であれば、普通に考えて占領が目的のはずです。あまりかんがえたくありませんが」

「つまりは、目的は巨人種をただ消滅させたいが為で、襲撃者はごく少数。または.....たった一人が、行った暇潰しみたいなもんってことだ」


 本当に、あまり考えたくない可能性の一つだ。

 こんな序盤でこんなこと、絶対に後々でなんか厄介なことになるじゃん。と、不快に感じる度に三連続でため息を吐いた。


「暇潰し。言い方は悪いですが、意味はそうなるでしょうね。悪意を持った単なる遊び、事故としても作為的。そう考えた西領地連合会は、一部で光衛団を疑う動きがあるとかないとか」


・・・さっきもあったけど、俺の知らない異世界常識単語には説明を入れろ。


 [光衛団]とやらが何どかは知らないけど、強そうな名前だからいずれ聞こうと思う。お楽しみはとっておこう。

 単に最初に好きなものを食べると後が最悪だからという理由。カイザンの人生は、軽薄と言ってよい。


「で、興味深いってのは認めるけど、この話の何が面白いんだよ」


 これが面白いとか、アミネスのツボを疑う。


「まあ、ここまでが面白くないのは認めますよ。..実は、さっきまで読んだ新聞は昨晩に出された[不眠]というタイトルで、カイザンさんをからか....もとい、驚かそうと?思いまして」


・・・夜に新聞って、タイトルから目的がハッキリしてるな。てか、途中の間と疑問系はなんだ。


 一ヶ月間、本当にアミネスはぶれない意志を貫いている。体調悪い時とか分かりやすそうだ。

 カバンから新たに新聞を出したアミネス、内容は短く、端的にまとめられている文字数だ。故に、アミネスと軽く端的にまとめる。


「これが、今朝に出された早朝新聞で、巨人領襲撃の犯人がカイザンさんにされてますね」

「・・・・・・・・・・えっ?」


 スムーズな語り口調のアミネスより、当然ながらカイザンの間の方が長い。あまりに長いので、理解を待たずにアミネスは続ける。


「では、ご静聴を。一ヶ月前、突如として女神領に現れて最強種族を倒した新なる最強種族カイザー。まさかまさかの、女神領だけでは飽き足らず、巨人領までをその手に」

「待て待て待て待て待て待て待て待て待てぃっ!!」


 予めご静聴と言ったアミネスの言いつけと、即座に取り上げた新聞を躊躇なく破り去った。

 パラパラになったそれを見て、アミネスはまあ仕方がないの顔になってため息の後、危ない予感のする笑顔を作る。


「新聞の方はこれまでです。こんなことを書かれてしまえば、獣領でのカイザンさんの立場がとても危険なものになる程度なので、気にせずに次に行きましょう」

「いや、行けないよ。怖くて何処にも行けないよっ!!」


 アミネスの冷静さと辛辣さが垣間見えた瞬間、堪らずカイザンは恥ずかしめもなく叫んだ。



後書き



カイザンとアミネス パターン3


「この世界、というか女神領はホントに移動とかもろもろに魔法が使えていいな」

「カイザンさんは魔法が不得意かも、ですもんね」

「愚痴的に言ってるんじゃなくてさ。俺の居た世界では、人間の移動手段とかのおかげで地球温暖化ってのが進んで、平均気温が上がりまくりなの。他にも理由はあるけどさ」

「温暖化、カイザンさんが特に詳しく無さそうな部類ですね」

「うるせぇな。...ちなみに、平均気温は一年にどれくらい上がってると思う?」

「控えめに考えて、1℃くらいですか」

「それが正解だったら今すぐに止めよう」

「....で、正解は何なんですか?」

「いや、俺も知らない」

「........」

「..........ごめん」


「では。次回、最暇の第八話「なろう系になれなかった帝王」.....カイザンさん、そろそろ基礎魔法の一つで覚えましょう」


次回の雑談は、女神領の誰かとです。

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