第九話「依頼と出会い」
獣領[フェリオル]の四十二代目の若き領主、リュファイス・フェリオル。コアラを基としたビーストで、幼少期の頃の実技試験で才能と実力を発揮し、妹のレーミアともにフェリオルの家名を与えられた存在。
曰く、獣神型[シリウス]にならなかったことが獣領最大の七不思議の一つだとか。
....後の六つに関しての詳細は伏せる。
話を戻すと、カイザンたちは彼、獣領領主リュファイスに連れられ、闘技場を経由して王城への一本道を歩いていた。
女神領領主カイザンの容姿は、獣領では周知のこと。故に、領主二人が歩く姿を、一目見ようと大勢の領民が集まっていることはおかしな話ではないのだ。
・・・にしても、じゃない?
カイザン自身、これがとても珍しい光景なのは理解しているが、予想を遥かに凌駕する大量の注目を浴びている。
まるで、オリンピック選手のパレードのよう。一本道の両端に居る警備的な衛兵を境に、領民たちで溢れかえっている様はまさにそうだ。
その中で、ふと目立つ集団を発見。見れば、リュファイスのファンらしき女性獣人が巨大な旗を振り回して衛兵に取り押さえられている。
これを見て思うのは、
・・・イケメンってのは、罪人なんだろうか。
「ただのヤキモチじゃないですかね」
「そうだよ、全人類はみんな焼いちまえば平等だよ。人々をサウナ的に焼いちゃう種族とか居ないの?」
「神に何の意図があって創るのか不明です」
ヤキモチから話が一方的に変わっていくカイザンと、それを修正する訳でもないアミネス。
そんな二人の会話に聞き耳を立てるリュファイス。爽やかな微笑とともに。
「君たちは、本当に仲良しなんだね」
「提言してくれていいんだぜ」「撤回してくれませんか」
アミネスが領主に対して思いの外高圧的に言い放った。その場のノリというよりは、もともと持ち合わせているものとでも言おうか。
そんな堂々と言われるとさすがのカイザンも胸を痛める。
正反対の二人の返しを受け取ったリュファイスは。
「ほら、息ピッタリじゃないか」
「俺もそう思うよ」「私はそうは思いません」
ずーーーっと、正反対の意見を述べているにも関わらず、リュファイスの発言内容もまた変わらない。
カイザンとして肯定して、アミネスらしく否定される。
・・・まっ、別にいいんだけど。
肯定されるのは、ここまできたら性に合わない。
それに、こういう感じが。
「これが、俺たちだからな」
その時、アミネスは肯定するように微笑みを見せた。
お互い、もはやこういう関係性が当たり前となっている。
パートナー・ぱーとなー、平たく言えば、何でも言い合える対等な関係。....そるこそ、アミネスが真に求めていた存在だから。
「じゃあ、君たちの関係が何となく分かったところで、着いたよ。王城に」
・・・そんなあっさりと着く系なのかでっけぇーーーーな。
意外とあっさりと到着したことへのツッコミを途中に、感じたままのことが脳の裁判を無視して脊髄から漏れ出た。
闘技場からではそこまでハッキリとは見れなかった王城。リュファイスに言われて見上げるように顔を上げれば、間近に感じるディズニー感満載の建築に思わず圧倒された。
正直、心以外では言葉も出ない程に。巨壁を始めて見た時以来の感情だ。
闘技場を軽く超える大きさで、王城というのだから、読んで字のごとく形状は王を守護するための西洋の城に近い。
関門に似た城門前の検問所では、人々の行き交いや往来は激しく、おそらく商人やら何やらの交渉ごとで訪れている者たちも多いのだろう。
その中には当然、他種族は含まれちゃいない。
[五神最将]なんて守衛団があるのだから、警備はかなりのもの。....と言いたいが、領主たるリュファイスの護衛兵たちはただの警備員。
・・・って事は、そいつらがこの先に待ってんだよな。
本来警戒される側のカイザンたちが最も警戒していた守衛団だ。
ちょっと、深呼吸でもしておく。
「さあ、入ろうか」
リュファイスの招きで、未知なる存在たる彼らへの一抹の不安を抱きつつ、王城へと足を踏み入れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
獣領の王城は、フェリオルの家名を与えられた者が滞在を許された場所。つまり、種王と領主、他は、獣種としての才能を公式に現した者。
故に、王城とは、必然的に獣領の豪と華の英知が詰まった集合体なのである。
まず、入り口の大扉を開けた先に待つのは、大広間とその広さに相応しき量のメイドたち。カイザンの視線の方向が一定にならない程に獣耳メイドの大渋滞だった。
続いて、内装は正に宮殿と言えよう。
奥へと伸びる廊下は意味もなく金のような何かで輝き、壁に無数のランプが掛けられている。中にロウソクが灯され、床には延々と続いていくカーペット。どれから説明していいのか分からない。
とりあえず、リュファイスに付いて行っているだけのカイザンたち。
何十メートルも続く廊下に嫌な予感を抱きつつ、案の定、向かっているのが一番奥の部屋だと知ってあっという間に絶望した。朝っぱらから相当歩かされた。
床のカーペットのデザインが途中からテキトーになっていたところから察するに、この職人もまた廊下の長さを知って絶望したのだろうと同情する。
一見して廊下ばかりがあるものだと思ったが、王城の中心部分に中庭があるのを発見。天井は吹き抜け、昼寝をするにはとても都合がいい場所だ。
今日はリュファイスに邪魔されて二度寝をしていない訳だし、気を抜いたら無意識に誘われて行ってしまうかもしれないな。
そう思いながら、早くも誘惑に負けようとしているカイザン。つま先だけは裏庭に向いている。
すると、先導のリュファイスが急に立ち止まり、振り返った。
背後を歩いていたもんだから危うくぶつかりそうになっとのを何とかセーフ、申し訳なさそうな顔で振り返るリュファイスが目に入った。
しかし、申し訳なさを向けられているのは、カイザンではなく、その傍らの少女に対して。
「ここから先は、領内機密も関係している本会議室でね。君は確か、ぱーとなー?らしいけど、カイザンくんだけしか入って欲しくないんだ、ごめんね」
領主から謝罪される少女。字面からしたらの話だが、アミネスは女神領で最強種族から土下座された、経験を持ち合わせている。
一切の緊張なくして平然と答えた。
「いえ、大丈夫です。私は大人しく、近くで暇........時間を潰していますので」
・・・今、何か言いかけた?
それはともかく、相手側の欲求とあらば仕方ない。ここは、パートナーに退いてもらう他ないようだ。もしもとなったら、部屋を出ればいいこと。
リュファイスの謝罪を受け入れて一度は踵を返したアミネスは、去り際に何かを思い付いたのか近付いて来て、小さく耳打ちをしてきた。
「カイザンさんは部屋で実質上の独りな訳ですし、気をつけて下さいね」
「怖いこと言わないでくれる?」
個室内で多勢に無勢とか考えたくもない。
それに、リュファイスにはそういうことをしなさそうな雰囲気がある。本当に何も考えないでも良さそうだ。
イジワルをしてきたパートナーを「しっしっ」と指先で払い、カイザンは部屋に入ってしまった。
「はあ、どうしようかな」
一人残されたアミネスは、自分の言ったことを振り返り、ため息を吐いた。
王城での時間の潰し方、そんなものは一般教養の範囲外だ。教科書にも載っていない。
二人は領主同士、カイザンたちの話し合いらしきものはきっと長く続くと予想される。
仕方なく部屋を離れ、何処かその辺にゆっくりとできる場所はないかと、歩いてきた廊下を戻っていく。
見つけた場所は、中庭へと続く階段。
そこの段の一つに腰をかけ、暇潰しに創造機器に絵を描き始めた。王城は映える、良い風景画が描けそう。
そのまま、ゆっくりと時を過ごす。
廊下を行き交う者たちの物珍しそうな視線にはもう慣れている。四年前、女神領に来た時と、そのもっと前に。
「......嫌なこと、思い出しちゃったな」
女の子には、笑顔が一番似合う。そう教えてくれた誰か、それが誰だったか、もう覚えていない。
脳内の空白、記憶の喪失。どうしても思い出せない。これを考える度、いつも頭が痛くなって、あまり考えないように自分に言い聞かせてた。
無意識に暗くなって、描く手を止めたアミネス。
...あの日、母が教えてくれたーーーを自分は。
「にゃあーーーっ!!スゴイ、創造種だぁーーっ!!」
人の気配こそ多けれど、静かな王城の空気に、少女の好奇心に満ちた声が響き渡った。
「え?」
思考を中断、させられたというのが正しい。
遠くから聞こえた少女の声、声音から同年代のものだと察しが付いた。
アミネスが反応した一番の理由は、発せられた言葉の中に創造種の名があったから。それが自分に向けられた言葉だと明らかにするに十分な材料だ。
声の方向を見れば、とても離れた場所に小さな人影があった。この距離から、超視力で紋章を見たということか。実に獣種らしい。
声が聞こえてから、ずっと驚きっぱなしのアミネス。とりあえずと思って深呼吸を。吸って、吐く前に見たら、少女は目の前に居た。
しばらく、固まざるを得ない。
やっと動き始めて、若干引き気味のアミネスを置いてけぼりに、少女は興味津々に尻尾を振り振りしながら顔をじっと近付ける。
天真爛漫、純真無垢、天衣無縫。 元気いっぱいの顔だ。
「ねぇーねぇー、君って創造種でしょ。その紋章、前に見たことあるもん。ねぇーねぇー、にゃんか描いてよぉー」
「ぇ.....うん、分かった」
馴れ馴れしく続けざま、返答を待たない勢いに押されつつ、アミネスはとりあえず要望に答える。
描きかけていた風景画を消して、新たに絵を描く。
この獣種の少女、猫らしき耳が頭から生え、橙色の髪はこの世界の一般的な猫の色にとても近い。猫が基になっていることは間違いないだろう。
創造種が何かを描くのを頼まれたら、特殊能力で実体化しない訳がない。なら、猫ということも含め、装飾品を造ってあげようと思う。
それ自体、造ることは何も難しいことはではないのだ。
何が難しいって...。
・・・すごく、描きずらい。
ずっと、傍らからじっと創造機器を覗かれている。
アミネスは基本、描いている時に観られたくない派なのだが、小声で「すごい」等の感嘆の声が聞こえるので一応は良しとする。それに、風を払う音も聞こえるから、尻尾をご機嫌に振ってくれている様子。
「うん、できた。ちょっと、手を出してくれる?」
「こお?」
猫にお手を要求、素直に出された手のひらに自分の手のひらをそっと重ねる。
「[クリエイト]」
直後に発光、淡く輝いて、魔力によって描かれた物が形となって現れる。
造り出されたのは、手のひらにおさまる程度の髪飾り。魔力量を考えたらこの大きさが限界だ。
美しさと言うより、 女の子的な可愛さを優先させた実にアミネスらしいオリジナル・デザイン。真ん中には、子猫の刺繍が。リアル過ぎるのも、またアミネスらしい腕前のこと。
まあ、そこら辺を気にするような子ではなさそうだ。
少女は受け取った髪飾りを細部まで見尽くした後、こめかみ辺りに無造作に差し込む。思いの外、綺麗に仕上がった。
「わぁー、ありがとう。...えっと」
お礼の途中で突然口ごもる少女。遅れて思い出した。
・・・そう言えば、自己紹介とかしてなかったっけ。
よく考えてみれば、会話と言える会話すらしていない気がする。
そうたなったら、ここはアミネスこ名乗るのが礼儀。淑女としての振る舞いを。
「私は、アミネス・ネビア。...あなたのお名前は何て言うの?」
「わたしは、ウィバーにゃ・フェリオルって言うの」
ぱあっと明るい顔になって名乗り返す少女ーーーーウィバーナ。見ていて微笑ましいとその歳で思ってしまうアミネス。
さっきから「な」が「にゃ」にゃるのは、猫獣人の宿命にゃのだろうか。
そこはあまり触れにゃいでおこう。
しばらく時間を潰していないといけないアミネス。
この子はまだ興味津々のようだし、一緒に居た方が楽しそうだ。
何より、アミネスにとっては同年代の子とに会えたこと自体、とても久しぶりなのだから。
「ウィバーナちゃん........そうだ、ウィーちゃんって呼んでもいい?」
「ぇ.......うん、いいよ。...にゃら、わたしはアミちゃんって呼ぶね」
「うん、いいよ。よろしくね、ウィーちゃん」
「よろしく、アミちゃん」
その後、二人が本会議室に突入する頃には、仲の良さはただの友達を超える関係に。
一方的でも、誰が決めた訳でもなく、互いに親友という掛け替えのない存在に在った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、その頃。本会議室では。
「協力?...俺らにか」
アミネスと別れ、本会議室に入ったカイザンを待ち受けていたのは、ビーストが三名。予想通り、彼らが[五神最将]の団員。
そんな部屋でカイザンは、リュファイスからとある協力を申し込まれていた。
「西の光衛団の組員と思しき存在の目撃情報があった。これは、獣領にとっての大きな厄災に近い。...故にだ。彼らからの防衛、あるいは、その排除を君に協力してほしいんだよ」
示されたのは、協力という名の依頼。
獣種という下等の種族が、最強種族たるカイザンを迫る脅威への対抗手段として選んだのだ。
格下からの格上への要求。
となれば、その依頼を受けるに当たって、結んだだけの単なる友好の関係だけでは足りな過ぎることがある。
察しの悪いカイザンとて、安易にそれを了承する訳はない。
「じゃあ聞くが、仮に俺がそれに役目を果たしたとする。その時、お前たち獣種は勝利と平和的なのを手に入れる訳だが....」
「あぁ、分かってるよ」
そこまで言いかけて、その先を読まれたようにリュファイスが同意。つまり、既に用意されているということだ。
「もちろん、これは僕、獣領領主リュファイス・フェリオルからの正式な依頼だ。無事に達成できたなら、君の満足する報酬を提供すると約束しよう」
・・・俺の満足する報酬か。
「いいぜ、その依頼は俺が受けた。報酬のことも当然、暇潰しには丁度良さそうだしな」
この獣領に来た時点で、欲しい物は決まっていた。いや、旅を出る前からのこと。
それに、何てたっての暇潰し案件になる。
.....それより、の話だ。
達成後のことばかり先に考えるのがカイザンの悪い癖。
光衛団なんて組織、前にアミネスからちらっと聞いた程度の知識しかない状態で了承してしまった訳だから、せめてクーリング・オフが効く間にいろいろと聞いておきたい。
「それで、光衛団って奴らの脅威ってのは、相当なものなのか?」
確かに、獣種は魔法も使えない種族で、何かの組織が存亡の脅威になり得るのは仕方がないことだ。
でも、それが獣種にとってのみの認識であれば、カイザンにとっては脅威とはならないのかもしれない。
そんな淡い期待を、案の定、リュファイスは軽く否定した。
「そういう認識が一般的だね。四年前のニールクラーロ家の話がいい例さ」
「ニールクラーロ家?」
・・・確か、東の共和制領地に君臨する絶滅危惧種の組織じゃなかったったけか?
女神領を出る準備の際、ミルヴァーニの件を報告するために大図書館に寄ったカイザンは、アミネスから教わっていない知識を時間の許す限り教えてもらっていたのだ。
その中に、特に大きな存在として説明されたのがニールクラーロ家という組織。
話によれば、女神種ですら警戒する程の脅威的な戦力を保有していたとか。
「で、そのニールクラーロの話ってのは?」
「ちょうど四年前のことだよ。光衛団幹部の一人である氷結種、[絶零之魔女]の異名を持つフリーディス=アイシンの襲撃に遭い、滅んだって話だよ。事実はあまり詳細を語られていないが、フリーディスがあそこを支柱としていることでそれを証明している」
・・・言葉が出ねぇ。
これはかなりの死闘になりそうな予感。
リュファイスがそれをもってして脅威と言うのなら、獣領に現れるのも光衛団の幹部。
カイザンが得られる勝率は、相手が一人であり、こちら側に先制を譲ってくれてこそのもの。
となれば、獣種たちに主戦を任せつつ、良いところも報酬も全部かっさらっていくのが最適解となろう。
・・・ヤバイ、今のって帝王の考えじゃん。
「ということで。まず、こちらの戦力を伝えておくよ」
そう言ったリュファイスが、カイザンの考えていた作戦を呼んだかのごとくピッタリの情報を口頭で提示し始めた。
「知っての通り、獣領にはビーストの精鋭五名の所属する[五神最将]って守衛団。そこに居るのは分かってるよね」
「ああ、そりゃな」
ここに来た時から、ずっと部屋の隅にはその団員と思しき者たちが静かに会談を見守っていた。襲ってくる雰囲気もないが、気になる点が一つだけある。
それは、三名しか揃っていないことだ。
狼を基にしたと言う、団長のルギリアス。
他は、蛇のスネイクと、サイのツノーク。
「後の二人はどうしたんだよ」
カイザンの当然ながらの問いに、リュファイスは困った顔をして、苦笑のまま「やっぱり気付いちゃうよね」とこぼした。
「それがなんだよね。一人の方は言ってしまえば守衛団で随一の実力なんだけど、困ったことに今は見聞を広めるために領を出ているんだよ。.....後の一人は、困ったことにただの遅刻なんだよ」
「.......は?」
「たぶん、あの子のことだから、何処かで好奇心をくすぐる出来事にでも遭遇しているんだと思うよ」
・・・良い風に言っても内容は変わらねぇよ。
まあ、カイザンも日本では遅刻をしていたものだ。ここで怒ったら罪悪感が湧きそうなので許すとしよう。
それはそれとして、ある程度の戦力。というよりは、人数で埋めてくれれば実力者の不在なんね何の問題にもならない。
「俺の十代限りの長年の予想だと、たぶん、敵は一人で現れると思うんだ。総勢力、全員でかかれば勝てるかもしれないよ」
「そうなのかい?...さすがカイザンくん、情報に長けたいるんだね」
・・・何だか、遠回しにアニメオタクと罵られた気がする。
アニメだけに限らず、カイザンの知識の源泉は主にライトノベルだ。そうやって、一まとまりにするのはやめてほしいと思う。
リュファイスの言い方には多少なりにイラッと来たが、否定はしない。
この世界には長らく戦争がなかったというのなら、そういう知識はこの場ではカイザンが一番かもしれないから。
それを分かっての、リュファイスの発言だ。
「指揮に関しては、そちらに委ねた方が良いみたいだね」
「まあ、そうするべきだな。指揮ってのは、采配とかの諸々って事だろ。...一つ聞きたいんだが、リュファイスは戦えるのか?」
獣領に来て以来、ビーストの中でも細身の獣種はよく見ることがあった。基となった動物も深く関係しているが、それでも立ち振る舞いには本能的なものが出ることが多い。
それがリュファイスには見られない。
肯定されるのが分かっての質問をカイザンは投げかけた。
「いや、僕は戦わないよ。ここ王城でガイスト様、獣種の種王の護衛に付いていないとだから。...それと、僕の妹も戦力ではあるけども、どうする?」
「それはなりませんよ、リュファイス領主。レーミア様の力を借りずとも、我々だけで十分です」
接し易さが売りのリュファイスの最後にこぼした冗談混じりの一言。
それに対して、本気の声音で返したのは、[五神最将]の中で一番威圧を放っていた男。団長ルギリアスだ。
屈強な肉体に動き易さを重視した装備で身を包み、獰猛さを内に秘めた威嚇的な顔つき。
・・・怖えぇな。......レーミア。レーミアって確か、リュファイスの妹だよな。つまり、王女的な存在か?
ここに来る道中、騒がしいパレードノイズが邪魔をしつつも、アミネスから今更ながらの獣領講座を受けていた。
その中には、妹のレーミア・フェリオルのことも含め、今は年老いた種王ガイスト・フェリオルのことも。
守衛として、当然的な発言をして空気を悪くしたルギリアス。尚も彼は止まらなかった。
「付け加えるのなら...」
狼のごとく鋭い眼光でカイザンを睨み付け、帝王は怖くて目を逸らすことに。
「その最強種族とやらの協力もまた不必要と存じますが」
カイザンに続き、リュファイスにまでその瞳を向ける。
彼は、この領での最高の地位たるリュファイスに対して、一歩も引くことなく物申した。真に領の安念と平和を願うからこそ、それができる。
故に、リュファイスもそれと同等に。
「どうして、そう思うんだい?」
優しい声かけの裏には、確かな意志と才能を物語る威圧が在る。側からでも、そんな気がした。
それにすらも屈しず、
「ただ、信用に値しないからです。先日のこと、光衛団が支配する西領地にて、巨人領が消滅した」
・・・げっ、そうだった。
当の本人。頭の隅に置きすぎて、ちょっとだけ忘れていた。
・・・そう言えば、俺って恐怖の象徴レベル底上げしてたんだったな。
ルギリアスの発言に耳を塞ぎたくてしょうがない。というか、もうしてる。
「消滅を行った者、それが最強種族と疑われているのは、朝刊の届く領地の全て、当然、リュファイス領主も分かっているはずです。その者を安易に信じて背中を見せれば、我々もどうなるか分かったものではなりませ...」
「僕が大丈夫と判断した。それでこの領は動くんだよ」
ルギリアスの発言を止めるように、リュファイスが声音を強くして、自身の権限による事実を言い放った。
それを言われてしまえば、返す一切のことが無意味になる。
それを分かって、彼はそうしたから。
「...それに、最強種族のカイザンくんも協力すると言っている。備えあれば憂いなしって言うだろ」
相手側からの了承があるのだから、交渉と契約は確実に成立。後は、それに見合った報酬さえあれば、二者間には何の問題もない。
リュファイスがカイザンを選んだ要素、その一言がルギリアスの一番引っ掛かる点なのだ。
「それですよ。女神種を支配と服従の領域に収め、最強種族となった上位の種族が。何故、我々に協力をして後の報酬を望むのですか?」
「つまりは、何か理由があるか、いいとこで裏切るかもってことね。まあ、君の疑り深さは相当なものだよね。....って事で、僕からの提案を聞いてくれるかい?」
突然の声音変換、面白そうなことを思い付いた子供のように笑みを浮かべる。
ルギリアスはもちろん、カイザンからも反論がないことを確認すると、リュファイスは本会議室の扉へと歩いた。
ドアノブに手をかけた状態で踵を返し、振り返る。
そして、ゆっくりと開くのと同時、
「カイザンくんが信じられるか信じられないかの件に関しては、ウィバーナに全権を託そうじゃないか」
「.......へぇっ?」
素っ頓狂染みたそれは、一体誰が漏らしたものだったのだろうか。
少なくとも、扉を開けた先。
そこで微かに聞き耳を立てていた二人の少女でないことは明らかだ。
カイザン&リュファイス パターン1
「カイザンくん、これから領主同士として仲良くしようね」
「仲良くって、言ってもだぜ。無事に依頼を達成したとして、俺たちがこの領を出たら仲良くとかどうするんだよ」
「そりゃあ、君の女神領と交流をすればいいじゃないか」
「やめとけよ、あんな奴ら。領民の全てが狂ってるような場所だぞ。悪いことは言わねぇからさ、本当に関わらない方がいい」
「君の治める領だよね、そんな物言いで良いのかい?」
「俺は女神領に君臨こそすれど、女神種を統治した覚えはない」
「それでよく、あのエイメル様の代わりができるね」
「....エイメル様、って。リュファイスも様付けなんだな。今は俺が領主で最強種族だってのに」
「元とは言え、永く全種族の調和と安定を司っていた方だからね。そう呼ばない訳にはいかないんだよ」
「なら、俺にも様付けされる権利があるってことだな」
「女神領すら統治していない君にかい?」
「........それを言われると、どうにも返せなくて困る」
「次回、最暇の第十話「ふたつの意志」---前編---。......次回のカイザンくんも、朝から不機嫌みたいだね」
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