第十話「ふたつの意志」---前編---

 王城でリュファイスからの依頼を受けてから、三日程が経った頃だ。


 例の一件を協力するにあたり、カイザンたちに獣領での安全のため、[五神最将]の団員が一人、護衛として付けられることになったのだが。

 その護衛というのが、


・・・猫耳っ子だった。...すげー、端的に嬉しい。


 何より良いのが、アミネスと何故だか親友レベルに仲良くなっていたこと。見ていて凄く微笑ましい。


 ウィバーナとの関係性は、建前では護衛というものだが、本来の目的は、純真無垢たるウィバーナが、カイザンを心から信頼できる人物であるかを見極めるため。

 もちろん、彼女には護衛としか伝えていないため、作為的にカイザンの悪評を訴えることはない。


 何はともあれ、この三日間は待ちに望んだwith獣耳ライフを堪能した訳だ。...アミネスばかりと遊んでいたから、基本見ていただけだけど。


 護衛と言えば、暴漢獣種対策として習得した土属性魔法[スィンク]はあれからも練習を続け、狙っていないところに陥没を起こすくらいにはなった。....平たく言って、未制御状態。 


 でも、大した問題はない。

 アミネスからは一応のために闘技場への出場をしないように言われている。

 それは、闘技場では女神領同様に正式な原則が発生して、他者からの介入や手助けが効かなくなるからだ。

 もし、光衛団の幹部なんかが現れたら終わる。


 そう、光衛団、例の一件だ。


 今は魔法がそんなに使えなくても問題ない理由は、三日が経ったというのに、例の光衛団とやらの一件は全く進行した気配がないこと。


 ウィバーナもまるでそれに警戒がなく、むしろ軽快に日々を満喫している。


 そう言えば、ウィバーナが人耳辺りに装着している謎の魔導具は、どうやら女神領産のものらしい。

 何でも、魔法の補助だとか。魔力を変換できない獣種が持ったところで何の意味があるのか。いつか聞いてみようと思う。


 それっぽい説明を入れたところで、


・・・はい、三日後です。


 そして今日は、特にデジャヴな朝だ。

 まだウィバーナは出勤していないけど、朝っぱらから騒がしい。


「それにしても、本当にうるさいですね」

「何で俺の方を見て言うんだよ」


 いつもはウィバーナの「おっはよー」の呼び声で起こされるのが三日間での日常となっているが、今日は違う。

 リュファイス登場の時みたく、外はまるで都会の喧騒に近い。


 さすがに原因を突き止めない訳にはいかないので、またいつの間にか部屋に侵入していたアミネスとともに、あえて窓から外を確認せずに一階へと向かっていく。


「私はてっきり、今度こそカイザンさんが叫んでいるものかと思っていましたよ」

「俺の叫びってのは、数名の声が聞こえるものなのか?」


 朝から簡単な口撃を受け、足取りが今の気分と相まって重くなる。心なしか、廊下を踏みしめる擬音語がいつもより響いているような。


 外から聞こえる叫びに似た騒ぎ、よーく済ましてみると、「おい」とかの誰かを読んだりする挑発的な言葉の数々が飛び交っている。

 言い争いではなく、特定の誰かへの。


 となると、喧騒の原因は一つしかない。


「じゃあ、私はここで待っていますので。...さっさと黙らせてくださいよ」


 いち早く理由を察して、階段を降りた所で立ち止まるアミネス。体勢を傾け、手すりに体重を預ける。

 本来ならば、みっともなくごねてでも無理やり一緒に連れて行かすところだが、


・・・まあ、俺が原因がだろうしな。


 というのも一つ。

 さらに、カイザンが一人で行こうと決めた理由は、アミネスの言葉。さっさと、の一言を何故か自分への信頼として受け取り、今こうしてやる気に満ち溢れている。....損な性格だ。


「任せとけよ、さっさと黙らせてくるから」


 と言いながらも全力で足の震えを隠しているのは、隠せていないからバレバレだ。


 期待されない期待を胸に、相変わらずカイザンに対しておどおど態度の受付に「ごめんね、騒ぎの諸悪です」と言い残して扉を開けた。


「よお、あんたが最強種族か?」


 早々に喧騒の中心人物からお声がかけられた。

 朝の日差しに邪魔されながら見えたのは、宿の周りを数十人のビーストが囲み、宿の正面方向にその男が立っている。


・・・何だこの大盤振る舞い、ガキ大将か?


 トリマキと思われるビーストの他、単なる傍観者の領民が大量に見守っている状況だ。

 女神領での決闘の時のよう。まず真っ先にそれを思い、足の震えは消え去った。


 明らかに戦闘にはなるだろう。いや、絶対になる。

 囲んでしまったら、戦闘以外には何もない。逆に何がある?


 控えめに言って、実に面倒な展開だ。

 とは言え、[最強種族]なんて異名でお褒めに預かれば、答えない訳がない。


「ああ、名乗る程の者だから特別に名乗らないでやるよ」


 格好付けたいのか、誇りたいのかがめちょくちゃな回答。


「何言ってんだ?」


 まさにそれが正解の返しだ。

 こっそりと宿から成り行きを伺っているアミネスが共感の気持ちで小さく頷く。

 当の本人は、言ってから自分でも何を言ったのかよく分からなくなったので、テキトーに話を進めることに。司会進行役を買って出た。


「えっと、あんたらがここに来た理由ってのは何となく分かるとして、どうして騒いでた訳?」

「その宿にあんたが居るって聞いてな。で、思った通り、騒がしさに釣られてあんたはのこのこと出てくれた訳だ」


・・・俺、知らず知らずにはめられたってことか?


 何だか悔しい。正論で言い返してやる。


「宿の人たちに迷惑だろ。客は俺たちだけだけどさー」


 最強種族が泊まっていると巷で話題の高級宿。誰も泊まろうなんて思うはずがない。肝試し気分のユーチューバーすら来ていないし。

 宿主には本当に申し訳ないと思っている。この領を出る時にはきっと、部屋に大金を置いていこうと誓う。


 正論を言い返すつもりが、結果的に自分がダメージを受けた。


 これ以上は本当に、罪悪感過ぎて辛い。

 故に、開始数秒でこの対峙の最終段階、いや、ある意味での本題に入る。


「じゃあ、登場から早々にで申し訳ないんだが、あんたらは俺を倒そうとかってのが目的だろ?....なら、相手になるぜ」


・・・ちょっとした英雄気分にでもなりたいんだろうな。まったく、迷惑な話だ。


 この宣言を受け、中心のリーダー格ーーーー名を、レンディ。彼が不敵に笑みを浮かべ、高々と嘲笑した。

 カイザン的予想外の発言を乗せて。


「あはははははははは、笑止。この人数を相手にたった一人でとは、そんなにも負け恥を晒したいのか」


・・・負ける気ないから言ってんだよ。


「ああ、俺はお前ら全員を.....えっ、全員で来るの?」


・・・それはその、ルール違反じゃない?...雰囲気破りのさ。


 もう一度説明すると、レンディの引き連れたトリマキの数は、二十を超える。

 カイザンが抱く余裕さの根源を思い出してもらいたい。

 ...このまま始まってしまえば、本当にヤバいのだ。


 どうにかして、説得を試みる。


「ちょっと、違うなあ。ねぇ?君から来ないと雰囲気ぶち壊しって言うかさ」


 下手したてに回るしかなく、値引き交渉的に始める。

 急にそんな態度を取っては、相手が何かを勘付かないはずもなく...。


「全員で行かないと、マズイことでもあるのか?」


・・・げっ。


「ひーや、でんぜんダイジョウブなんだけどお」


 あまりの動揺で声が裏返り、一部がちょっとしたカタコト。

 誇る時には一丁前でも、こういうのを隠すのは絶望的に悪い方向の才能を持つ。

 実際、旅に出る際には、交渉や説得の諸々をアミネスに任せようと考えていた。


 それも全て、この動揺が一番の原因菌。


 考えが崩れると放心するハイゼルを女神領では罵っていたカイザンも人の事は言えない。

 今はとてつもなく予定が狂っている。それによっての、この動揺と身の震え。


 カイザンがレンディと対峙した直後から考えていた作戦は、自分の持てる言葉だけで遠回しにレンディを挑発して、まんまと一人で挑んできたところを特殊能力で瞬殺。

 さすればのこと、トリマキはきっと逃げてくれると思っていたのに。


 しかし、トリマキ全員となれば、当然と話は変わる。というか、どうしようもない。

 特殊能力[データ改ざん]の魔力消費量は、今のカイザンの魔力量的に半日分、頑張れば一日に二回放てる程度。....一体、何日をかければ終わるのか。そもそも、ウィルスを読み取るための名前すら知らない。全員に聞く?....その前に、自分が狩られて終わる。

 久しぶりに使うと、余裕でぽっくりいかれる。


 レンディがカイザンの様子変に気付く以上、言葉ではどうにもできない。

 つまりは、二十人以上のトリマキを特殊能力なしで相手にするしか自分が無事に助かり、自尊心を守る方法はないのだ。


・・・選択肢は二つ。...護身用の聖剣を使うか、[スィンク]でどうにかするか。


 聖剣を使った場合、そんなにない剣さばきを誤れば、殺人となってしまう可能性が高い。

 最強種族のカイザーが他種族の領地でそんなこと、マスコミが黙っちゃいないだろうし、一部汚名がさらに悪名度をドス黒く増す。

 殺人罪か動物愛護法違反なのか、そう言った不明な点も大きいことがとても危険だ。


 [スィンク]を使った場合、外した瞬間がめちゃくちゃ恥ずかしいからとても危険だ。

 これもまた、そもそもの話になると、二十人分の陥没は、圧倒的に魔力が足りない。


 二者択一が最悪過ぎて思考回路が大渋滞の中、レンディは。


「よし、てめぇら。くだんの[最強種族]が相手になるんだ。丁重に遊んでやれ」


 レンディの言葉に従い、トリマキが一斉に動き出した。

 口調の方がムカッてくるけど、反抗はできない。

 今、こいつらには強い態度を取らないのが吉。それに、アミネス以外に言い返す方法をカイザンは知らない。


 一歩ずつ宿方向にへ退くカイザンと、それに比例して近付くトリマキたち。膠着状態はいつまでも続くものではない。

 対処行動を探して、とりあえず宿の方に助けを求めてSOSを発信する。


・・・どうします?


 アミネスの読心術はこういう時にこそ使わなくては。

 心から意思は既に伝えた。宿の入り口に目を向けると、


「....................」

「.................あっ」


・・・どう返してもらうか考えてなかった。


 致命的過ぎるミス。カイザンはアミネスの心を読めない。

 いつか旅行に行こうと休みを探してたけど、いざその日に連休を見つけたら全く計画を立てていなかったみたいな。


「くっそぉ」


 こうなってしまえば、仕方ない。

 カイザンの家筋、暇家に伝わる伝説の流派の拳法。

 デタラメなそれっぽい構えだ。ちなみに、この流派はカイザンの祖父が老後生活の暇潰しに思い描いたただの若者用拳法、いや、ただの若者用健康法だ。


 既にトリマキたちとの距離は、あっという間に五メートル近く。獣種なら、軽めの跳躍一つでたどり着ける程の至近距離だ。

 と思っている最中、二方向からトリマキが跳び上がって来た。


・・・いや、本当に跳んで来ちゃったよ。どうすんのぉーーーーっ!?


 この距離での前のめりの跳躍は、時間にして数秒にも満たないのは確実的。

 拳法なんて無理だと脳が即刻判断し、防衛本能で聖剣の鞘と柄に触れるカイザン。

 両方向から蹴りの構えをされては、そうしない訳がない。


 そんな初めての殺人、兼動物愛護法違反は、


「おっはよー♪」

「「があっ」」


 元気の良い挨拶とともに割り込んだ影により阻止された。


 カイザンは生き残るために剣を抜こうとした。

 しかし、寸前でどこかの屋根から誰かが跳んできたのだ。

 最寄りのトリマキから勢いを乗せた跳び蹴りを放ち、もう一人を一度目の蹴りからの回し蹴りで対応。華麗に着地する。


 その華奢な足で高く蹴り上げられ、遅れてきた衝撃がさらにそれを後押し。レンディの真横まで吹き飛んで、落下から顔面を地に擦り付けて徐々に制動していく。


 それを失望の目で見届けたレンディは、隣に立つトリマキに気絶した彼らの処理を任命。...と言っても、無造作に投げられ、邪魔のない場所に運ばれただけ。


 突然の乱入。現れた獣人にトリマキたちが騒めき始め、カイザンがその存在を認識してから心からの安心を得て、レンディが小さな英雄の姿を見つめたまま笑みを浮かべる。


 ....この時、レンディの中に違う色が取り込まれたのだと、後になって思った。


 レンディは用意された椅子から立ち上がり、場面の静寂を破るように拍手を始めた。


「これはこれは、どなたかと思ったら。我が領の最高守衛団たる[五神最将]の二番手、ウィバーナ様ではありませんか」


 意図は不明。単純に助けるという行為に対しての賞賛とは思えない。


 先程、カイザンに向けていた口調とは一変、立場を弁えた礼儀。


・・・いや、それ以外にも何かが変わったみたいな。


 少ないラリーしかしていないカイザンでも、違和感を感じる程のレンディの変化。


 それでも、レンディへの追求は不可能だ。彼の変化は、ただの違和感で収まりきるものでないというのは、対峙するからこそ分かる。


 浮かべた笑みは一向して不敵で、真っ直ぐに向けられた視線は何かを見透かすようなもの。一言で言うのなら、狂気。それ以上に見合う言葉は思い付かない。


 少しずつ足を下げていき、ウィバーナの背後に身を隠すカイザン。

 そんな時、手を叩く音が徐々に静かになり、そこに静寂が訪れた。

 そうなれば、現状の主導権は彼のものになるのは必然的だ。


「ウィバーナ様、あなたにお聞きしたい。...そうまでしても何故、領の守衛団ともあろう方が彼を助けるのですか?」


 この場合・この状況で、当たり前に出てくる彼ら側の疑問。おそらく、周りで傍観する獣者たちの総意に近いかもしれない意見だ。


 レンディの反応の通り。ウィバーナという十四の少女が獣領の守衛であることは領内で広く知れ渡っている。

 レンディの言い分はつまりこう言うことだ。

 彼女が多くの民衆の前で誰もが恐怖を抱く象徴たるカイザンを助けるため、領民を傷付けたともなれば。


 正常に考えてみれば、カイザンを助けたのは外交問題を防ぐ行動そのもの。守衛団としての行為の対象に含まれる。


 彼ら側の身勝手な言い分と考えだ。..

.そう一言で片付けていいものでもない。


 彼らの思考が浅はかなるもの。...そう思える者は、徐々に数を減らしている。


・・・天然なのは分かっているけど、いい風に転がされないでくれよ、ウィバーナ。


 ふと最悪の展開が脳を過ぎる。


 レンディの言葉はウィバーナに向けられた悪意。

 それに対して、


「わたしは、カイザンの護衛だから」


 予想外にも堂々と言い返した。

 聞かれたことだけに返すのは、今一番取るべき選択だ。本当に予想外。分かってて言ってたら一周回って怖いよ。


 まったくもって、ウィバーナらしくもないが、何も悟られないのはとてもいいこと。


 一方で、言葉一つで彼はそれ以上の情報を得ていた。


「あなた方は獣領の最高守衛団。命令したのは、種王ガイスト....いや、彼は領事に関しては不介入。つまりは、領主リュファイス様なのですね」


・・・まんまとやられたな。


 ここで領主リュファイスの名前を出されては、どう利用されるかなんて分かったものではない。

 守衛としての失態だ。


 ウィバーナ自身もそれに気付いて、満天の笑顔の中に不安の色を持ち始める。

 警戒から一歩後退る。獣種は本能に忠実な種族。警告は魂からの死の忠告と言って過言ではない。


 故に、レンディは追い詰める。


「領の全権を託されし領主が、それは大層な理由があってのこと。そうでなくては、そうでなければならない」


 ただの子供を侮った挑発的な物言いを続けた。

 中身のない言葉でも、今のウィバーナには通用する。

 でも、ウィバーナはまだ負けていない。だって、カイザンが同じ立場だったら、完全に逃亡するか、誰かの命令ってことにするから。


「言えにゃいよ。これは、領にゃいの秘密だから」


 カッコいいのに、にゃで完全相殺。

 まあ、レンディはそこに関してを気にしない。


「ちっ、これしきでは折れないか。....では、身を以て教えていただこうか」


 軽く舌打ちし、仕方なく強硬手段とする。

 レンディの一言で直接的な命令を受けたように、一度後ろへと下がったトリマキたちが一斉にウィバーナへと敵意を向けた。

 一見してめちゃくちゃであるも、統率の取れた完璧な陣形。


・・・こんなこと、ただの一方的な...。


「勘違いしてもらいたくないのですが、これは領民全ての総意の下での行動と解釈してもらいたいですね。女神領の新領主。巨人領を消し去り、今や全領地が恐れるその者が、この領に居座り続けている。領民が日々怯えているのはご存知でしょう?皆、いつこの領が支配されるのかと思う中で、リュファイス領主は友好を信じて協力を申し付けた。...そして、あなたの今の行為だ。その最強種族を我々が排除しようとしたところを、あなたは阻止したのです。真に守るべき領民に危害を加えてまで。この決定的で明確な事実、ここに集まる者たちは確とこの目で見届けましたよ。我々は、その理由をお話しいただくまで、こちらは退く訳にはいかないですね。...まさか、権力で抑えようとは思いますまい」


 要は、自分たちは領の害となる者を何もしない守衛団に代わって排除しようとしているだけで、暴挙でも反逆でもない。さらに、それ止めようとするであろうウィバーナを悪とする。

 彼らは領民を味方にして、自分たちの意見を正義だとし、ウィバーナが理由を話すまで戦闘を続けると。


 ここでもしカイザンやウィバーナが正論をぶつけたとて、彼らは敵の邪論と受け取り、さらに結束を増すことすら可能となる。

 何故って、民衆は彼らに対して無条件の信頼を与えてしまっているから。


 その理由も含めて、レンディがおかしなことを言ったことにカイザンは気付いた。


・・・あいつ、協力を申し付けたって言ったよな。....その情報、どっから入手したんだよ。


 王城の本会議室には、リュファイスとカイザン、後は守衛団しか居なかった。

 それに、領民のパニックを防止するために、リュファイスが領内に例の一件を広めていないことから、カイザンの協力もまた知らされていないはずなのだ。


 レンディの変化や、領民の異変。そして、その情報。


 ..........間違いない。これは、何者かの洗脳だ。

 洗脳者からレンディを経由して、領民のほとんどを支配下に置いている。


 今の時期、こんなことを行う者は例の一件に関わる人物以外にはない。


 となれば、あれから三日経ってやっと現れたのだ。


 光衛団幹部の奇襲、ちょっとした搦め手とでも捉えるべきだろう。

 おそらく、洗脳者の狙いはカイザンではなく、[五神最将]そのもの。

 ここでウィバーナを潰し、後は領民の信頼を失った守衛団を獣領ごと消滅させてしまえばいいだけのこと。



 レンディの狙いが何か、彼らが何であるか、自分が何をすべきか。


 それらをウィバーナが理解しているかの検討は付かない。けど、まんまと乗せられているとも思えない。


 それでも、ただ一つだけ、ウィバーナが確実に理解していることがある。

 それは、


「何度も言うけど、わたしはカイザンの護衛」


 戦闘を確信して、笑顔を取り戻すウィバーナには、負ける気なんて一切ない。


 [五神最将]の二番手、そのウィバーナが独壇場を誰かに譲る訳はないのだ。


 それが例え、圧倒的な存在であっても、それが獣領の脅威である限り、ウィバーナには戦う意志が在るのだから。



 強く言い切るのと同時、腰の両端に備え付けられたポーチに両手を交差して突っ込む。

 すぐに勢いよく抜き出せば、両手首から適当な大きさの金属物が装備され、指先部分からは曲線を描きながら伸びた無刃の爪。


 王城で作られたクロー・ネイル、その猫らしい武器こそ、ウィバーナの専売特許たる'とある戦闘スタイル'の要である。



「戦うなら、かかって来にゃよ!!」



後書き



アミネス&ウィバーナ +a パターン1



「ねぇーねぇー、アミちゃん」

「ん?...どうしたの、ウィーちゃん」

「登場してからまだまだ早いけどー、次回からのわたしは大活躍にゃんだよー」

「へぇ、凄いじゃん。ウィーちゃんが活躍するってことは、カイザンさんは何もできないんだね」

「ねぇー、最強種族にゃのにさ」

「そうなんだよ。カイザンさんは基本、私が居ないとできない人だからさなーんにも」

「にゃら、最強種族はアミちゃんにゃんだね」

「そうなるね。でも、ウィーちゃんの方がもっと強いから、獣種が最強種族だも思うよ」

「ホント?やったぁー、わたしが最強だぁー。...じゃあ、カイザンが最下位ってことにゃんだね」

「まったくもってその通りだよ」


「さっきからさあ、反論を入れさせない仲の良いどうしのそう言った話は、俺の居ない所でしてくれないかな?」



「では。次回、最暇の第十一話「ふたつの意志」---中編---。.........私たちが仲良くなるまでは、いずれ番外編でも用意しましょう」

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