〜エピローグ〜「いざ、旅へ」

「いやぁー、我ながら素晴らしい勝利だったな」


 決闘のそれほどなかった緊張から解放されて 、カイザンは早くも自分基準で激闘を振り返っていた。


「あんな卑怯な勝ち方が素晴らしいと言うのなら、一生何をやっても、女神種の方々は付き従ってくれませんよ」

「ぬぐっ。.....仕方ないだろ、あんなに距離あるとか想定外で、余裕で焦りまくったんだから」


 決闘を側から観覧者として観ていたアミネスは、早くもショボかった決闘に公的な意見を述べている。

 対してカイザンは少しだけ引き気味、これには精神的理由が関わっていて。


 二人は決闘後すぐに各々で最終準備を整え、女神領を出た。既に数分が経っていている頃だ。

 あの広場に居たほとんどの女神は、カイザンのお見送りはきっと他がやってくれる。私はミルヴァーニ様の迎えの続きを始めようとか見事に全員考えてくれたおかげですんなりと領を出ることに成功した。

 嬉しいけど、なんか胸に残るものが。

 目指す領地に着くまでにこの傷を癒したいけど、アミネスの話はまだ続きそう。


「それに、ミルヴァーニさんの倒し方が雑過ぎます。あれでは、周囲からの印象が悪くなってしまいます。そうなってしまえば、まともに領主仕事をこなせるかどうか.....」


 そこまで言いかけて、急に何かを思い出して足を止める。不思議に思ってアミネスの方を見ると、こちらを見ていた。


・・・えっ、何?


「いえ、ミルヴァーニさんはきっと仕事こなせるんだろうなと思っただけです」

「お前、あっ印象悪いけど仕事できてたやつ居たわ、的な目で見てたってことだよな、絶対に」


 アミネスとは旅に出てもこの関係のままなのだろうと確信して心からため息を吐いた。

 敬いとか、そういうのがあってもいいと思う。最強種族だし、領主だし、年上だし。


・・・まあ、このままの方が安定してて良いような気もするけどな。


 だったら、今まで通りに接すればいいさ。


「ミルヴァーニに関しては大丈夫だって。幸い、あいつはカッコつけたくせにスゴく無知で、女神のくせに醜態晒して無様にも敗北しただけのこと」

「大丈夫と幸いの使い方、普通に間違ってますよ」


・・・自分でも言ってて思った。


 そう言えば、転移要員となったミルヴァーニは、旅には同行せず、必要な時に呼んでくれさえすれば飛んで来るとのこと。ただし、アミネスの呼び声以外は受け付けないと言っていた。

 女神領の住人は、性格もろもろに難がある奴らばかりだ。


「ホントに、疲れたよ」


 カイザンな率直な気持ち表現にアミネスは嘆息する。

 ため息関連は、すると幸せが逃げるとよく言う。この一ヶ月でアミネスは何度幸せを流していることか。このままいけば、アラフォーまで幸せ流しが続いてしまうぞ。


「疲れたって、まだ数分しか歩いてないはずですけど。そう言えば、カイザンさん、ミルヴァーニさんに腰ゴリゴリになるまで現役をやるって言ってましたよね。もう限界なんじゃないですか?」

「足腰はまだ元気だよ。...数分とか言っても歩いた距離は長いし、精神的な疲れもあるんだよ」


 本当なら座り込んで十分間の休憩を入れたい。部活なら、顧問が居ないのを確認次第、水を飲みに行って少しでも時間を延ばそうとしている。

 今居る場所からでは、もう女神領を目視できない。地図からすると、目的地はこの数倍を要することになるから、まだ弱音は吐いてられない。

 何か楽しい話題で話を盛り上げよう。という考えに至った。


・・・あっそーだ。


 いい話の話題を丁度よく思い出した。まあ、考えたから。

 日本に居た頃はそうそう都合よく思い出すことはなかったけれど。


「アミネス、見てみろよ。...テッテレー」


 効果音は自分で出す。編集の力には頼らないが主義の女神領領主。

 カイザンはそう言って、並走するアミネスから見えない右腰の位置から何かを取り出し、目の前に掲げる。

 鉄部分が特殊な魔力を帯びており、そこで陽光を反射して輝きを増すそれは、


「剣、ですか?」


 回答率百パーセントの問いへの答えに、カイザンは大正解と言わんばかりの顔になると、鞘から抜き出して見せびらかす。


「一応のために、エイメルから貰ってきたんだよ。いいよな、剣ってのは。男のロマンの内の一つ。小さい頃は近くの公園で木の棒を振ったり、たまたま見つけた鉄の棒を振り回したり。しかも、この剣は女神領のデザインっぽいし、見た目が良い」


 やたら自慢気に握って数秒の愛剣を語るカイザン。

 女神領のデザインというのは、カイザンの持つ柄の部分、刀身との間に女神種の紋章らしき絵柄が刻まれている。魔法的な効果でもあるのだろうか。見た目からもそうだが、握った時にそういった印象を受けたから。


・・・エイメルに聞いときゃよかったな、急いでたから試し振りとか全くしなかったし。狭いからさせてもらえなかったんだけど。


 せっかくの旅なのに、早速後悔を引き立づってしまっているカイザンに、アミネスが答えを分かっていながら質問をぶつけた。


「カイザンさんに、どこに出しても恥ずかしくないような剣術が実在しているんですか?」


 刀と違い、剣には両刃が備わっているのが当然。故に、扱い方を間違えれば自傷ともなりゆる。遊びで握っていいものではない。

 もし、我流や無勝手流でもあるならば、多少は杞憂で済む問題だが.....。


「剣術?俺に?ある訳ないじゃん。俺は平成きってのゆとり世代ボーイだぜ。家庭科の調理実習だって包丁を握ったことないからね。とりあえずエプロンを着て、先生の視界から隠れながら突っ立ってたし。...最後には、皿洗いとかされてたよ。で、気付いたら、家庭科室には先生しかいなかった....」

「最初から終わりまで、よく意味が分からないんですけど」


・・・あれ、俺って途中から恥ずかしいこと言ってた?言っちゃった気がする。

 

 アミネスはよく意味が分かってなかった風だし、今ならまだやり直せる。


「そーれーに、俺ってば地域で名のある名家の生まれ。料理の手伝いとかしなくていい訳、分かるかい?」

「えっ」


 アミネスの表情が急に固まった。驚愕に大きく目を見開き、口をぱっくり。今ですよ、スクショ・チャンスっていう感じの珍しさ。

 正直言って、何でこうなってるかは察しが付く。付きたくないのが本音。

 心とか読めないけど、きっとこう考えてる。カイザンさんが、名家生まれなんて。って。

 ....女神領で何回このくだりをやったことか。一回目の時はマジで悪いことしちゃったのかと勘違いしたものさ。とりま謝ってたね、あの時は。無論、土下座。


「まったく、驚かせないでくださいよ。心臓が止まりでもしたら、領主でも犯罪ですよ」


 元に戻ったアミネスは、まずカイザンを訴えることから始める。

 勝手に驚いたのにそんな選択を選ぶなんて、金持ちの貴族がやること。というか、驚いたことを謝ってほしいのはこっちの方だ。失礼な話である。オーラがないとでも言うのか?


「犯罪って、だとしても冤罪だよ。領主に冤罪かけるとか、国家転覆罪ならぬ、領地転覆罪だぞ」

「その場合は、協力者もまた裁かれますから、カイザンさんは自業自得の死罪です」

「何でだよ」


・・・どんな教育受けたらこんな子に育つのかね。あたしには疑問でしょうがない、まったく。


「そういや、アミネスはここに来る前、実家に居たんだろ。どうして女神領に来たんだよ」


 聞いた話によると、四年程前から居たとか。

 今までは聞かないで置いてあげたが、からかいのお返しを含めて聞き詰めてやる。と心の中でゲヘゲヘ笑う随分と古い悪役を演じているカイザンには、


「秘密です。女の子の内情にズケズケと潜ろうとするのは、あまり良い行動とは思えませんね」

「そっそう...」


 アミネスの、年下の女子の内情を深くまで探る......そこまでの勇気はなかった。

 しかも、責められたし。真っ当な返しで。

 カイザンは毎日、アミネスから心に火力級の一撃を放たれて内情を深くまで抉られているのに、それに関して言い返す気力が出なかった。心まで読まれてるのに。


「でも...」


 諦めて、無言のまま歩こうと思ったら、アミネスが本日二度目、急に足を止めた。

 気付いて振り向くカイザンに、真剣で、でもちょっぴりからかっているような眼差しを向けて。


「....いつか、カイザンさんが誰にも負けないくらい強くなったら、教えてあげてもいいんですよ」


 珍しく優しく微笑んだアミネスに、


・・・一体、何が目的だ。


 いつもと違う様子に警戒心が猛烈に火花を散らし始めた。こんなのアミネスじゃない、みたいな。

 そのカイザンの反応に気付いてか、アミネスがきょとんとした顔で見てくる。

 この一ヶ月、アミネスがカイザンを辛辣に事実としてからかった試しは果てしない程あるが、優しくされた試しは多分ない。あったとしても、なかった回数が多過ぎて印象に残らなかった。


・・・これは考えても頭が限界になるだけだな。


 カイザンの警戒を見て、アミネスはすっとため息。諦めとも後悔とも少し違う、そんな感情が含められている気がした。


「まあ、ウィル種にはもう伸びしろとか無さそうですから、絶対に無理でしょうね」

「失礼だって。俺は既に最強だから、伸びしろとか要らないのー。あっちゃったら、相手のウィルスに勝っちゃうだろ」

「つまり、弱いってことじゃないですか」


・・・そんな、事実を言われたらどう返せばいいんだよ。


 こういう時は、とにかく話を逸らすに限る。これは全て、アミネスから学んだこと。


「ていうか、結構なくらいに話しがズレたな。俺が調理実習の話とかしたからか。でも、話さずにはいられなかったっていうか。何かと個性のある家庭科教任だったから。二人とも」


・・・これについては、いつか時間があったら話し尽くしてぇな。


「カイザンさんは暇でしょうけど、私には無駄話に付き合う時間も理由もありませんよ。.....元は剣をどうするかって話でしたよ」

「どうするって言われてもな。別に自分から斬りかかる訳じゃないし、単なる護身用だよ」


 嘘偽りのないカイザンの[護身用]発言に、アミネスは首を傾げた。

 何故そこに疑問を持たれたか理解できない。護身用以外に何があるだろうか、逆に。


「カイザンさんなら、「俺は最強種族のカイザーだっぜぇ。ヒャッハァーーーッ!!」とか言いながら斬りまくりそうですけど」

「世紀末の帝王かよ」


 両手で空気の柄を握り、分かりやすくジェスチャーで表現するアミネス。声は普段と変わらず。

 まったくもって要らぬ気遣いだ。声音を工夫しろよ。

 とはいえ、自分でも何だか想像できてしまった。自己暗示も兼ねて、証明する必要がありそうだ。

 重かったので一度収めた剣をまた抜いて、細部まで見てみる。しかし、注目すべきは一目瞭然の部位にあった。


「これ、刀身がそんなに長くないし、持ち運びやすいってなったら、護身用だろ」


 剣術もなく、さらには短いともなれば、用途は敵が近接にまで近付いた時、つまりは護身用だ。

 客観的に考えて、隙のない点であると思う。アミネスに言い返すことはない........と思っていたのに、アミネスの閃いた顔が横目に映った。


「なるほど、愚衆はそう考える。その長さは、そこまで計算しての」

「だから護身用だって。俺は、帝王でも、カイザーでもないから。お願い、信じて」


 アミネスには言葉で勝てない、この一ヶ月、何度思ったことか。何度悪くないのに謝罪をしたことか。これに関しても、何度言ったことか。

 きっと、二人の関係は変わることがない。

 最強種族的には悲しいことが、いずれ変わらないことが一番だと知る時が来る。

 所詮、それはいずれ、先のこと。

 今はとにかく気分が重い。旅への楽しさは、帝王イジリの一撃で簡単に砕け散る。カイザンの意志が弱いのではなく、アミネスが辛辣過ぎるんだ。たまに邪気なく言ってくるから余計に。

 ホントに気分が重い。


「もしかして、重いんですか?」


・・・えっ。


 また心以外すらも読まれたのかと一瞬焦ったけど、アミネスの視線はカイザンの目の前。握られた剣の方向にある。

 見れば、カイザンの腕はゆっくりと下に下がっていっている。


・・・ぎぐっ。


 アミネスの前では、心の中でも図星は許されない。

 女神が、女性が使っていた剣を男が持てないのは、さすがに恥ずかしい。

 こらは違うとか言い返してやりたいが、どーせ勝てないし、もう認めちゃおう。


「この剣、俺の筋力的に余裕で重くてさ。俺、神じゃないし。俺、女神種じゃないし。まあ、女神なら持てて当たり前なんだろうけどな」


 一応は領主、威厳さや自尊心はある程度残す。.....男らしくない言い訳だ。


「そうだ、鍛えるのって、、暇潰しに入るのかな?」

「本当に暇潰しが好きですね、カイザンさんは」


 いつでもカイザンの根本は暇潰し。覆る時は、世界から暇という概念が潰えるか、全てを制した時だけ。

 制した先には、また暇があり、また潰すことを必要とする。

 要は、彼を待ち受けるのが半永久的な暇潰しということ。

 アミネスはあー言ったが、別に暇潰しが好きな訳ではない。ただ暇が嫌いなだけ。私のこと好きなの?嫌いなの?とかいう理不尽な質問は一切受け付けない。

 でも、一つだけ確実なことがある。

 それがアミネスの言ったことには繋がるかもしれない。


「そうだな。俺は、最強種族は暇潰しを求めてんだからな」

「・・・・・・・・」


・・・あれ、響いてない?


 急遽、それっぽい格言を残す事にした。


「えっと・・・・・・・大事なのは、今をどう生きるかとかじゃなく、暇をどう生き抜くかかなんだよ」

「......そんな自信満々に言われても、中身のない言葉にどう返せばいいのか分からないんですけど。まあ、一つ言うとしたら、深そうで浅い内容でしたね」

「なんで、前半と後半で同じ内容を言うんだよ。二倍に攻められたし」


 今回は胸を抑える痛さではなく、頭脳的な方面を否定されたようで頭を抑える。Q苦悩してる人みたい。....A彼は苦悩しています。

 実際ではカイザンのダメージ量は少ない。この一ヶ月、何度からかわれたことか。このことを何度言ったことか。耐性はとっくに自己防衛本能から作られている。

 だから、アミネスは発言を気が済むまで続けた。


「あと、言っていたあの名.....いや、汚言は、一回目にして聞き飽きたので、もう使わないでくださいね」

「蕁麻疹が出るくらいの拒絶だったら、言うのをやめるぜ」

「出たら嫌なので、女神領に引き返しましょうか」

「ちょっ、ダメダメダメ。俺が拒絶反応起こすから」


 旅の拒否を申し出ると、素早く踵を返して女神領に帰還。しようとしたから、その華奢な腕を浅く握ってアミネスの反対方向へと走り出す。

 思いの外、それへの抵抗はなかった。数秒後に嫌な顔をされていた事に気付いてしまったのは悲しい。

 アミネスの根本もまた変わらないのだ。カイザンを全肯定してくれる日は来るのだろうか。....さすがに、さっきのは全否定である。


「ったく、つれねぇな。まっ、それでこそアミネスなんだけどな」

「まったく、これからの先行きが....。大変そうですね」

「それって、遠回しな俺に対する悪口だよな?」

「...そう言えば、その剣は女神領の聖剣のはずですよ。確か、無加工の魔力を吸収するっていう。武装魔力用の全属性適応の武器らしいです」


・・・話を逸らされたな。まっ、良い情報だ。


 何をしても、結果的にカイザンの有益を生むのがアミネス。....本当に、何をしても。何をしても、許されてしまう。

 それでこそが、


「本当に、アミネスらしいよな」


諦めたような口調に、アミネスが隣でムッとした顔に。


「それこそ、私への悪口じゃないですか?こんな少女に対して」

「自分で言ってりゃ世話ねぇよ。・・・そうか、聖剣か。聖剣だからこんなにも重いのか。別に、俺が筋力不足って訳じゃねぇよな。俺がひょろひょろとかも違うんだよね。エイメルに言われた気がするけど、中肉中背だよな」


・・・そうだよ。俺は最強種族なんだしな。


 肩書きだけが存在価値の女神領新領主。名ばかりの帝王とも言う、現最強種族のウィル種の少年。


「結局、聖剣のせいにするんですね。まったく、カイザンさんは。だからそうなんですよ、もおぉ」


 最後に可愛らしく不満を総じて吐き出す。

 アミネスはいつも通りの微笑みやたまに見せる笑顔でカイザンを辛辣に。S的な意味ではなく、純粋なからかいとして彼女の当たりは強い時が多い。これを繰り返していたから、いつの間にか二人は良い感じに仲良くなっていた。

 生意気で、どこか悪戯で、地位が最上級のカイザンに対しても気安く、それ以上の態度で接する絶滅危惧種に指定された創造種の少女。


「そんなに言うなよ。だって、何をどう解釈しても余裕で重いんだもん」


 最強種族とそのお手伝い。または、仕事に関しての秘書的な役。...この立場に、本人はカイザンに向けて愚痴を吐く。

 主従もはっきりせず、だからお互いに平等で、互いに助け合える関係。...になりかかっている。

 決して息が合っている訳でもなく、コンビネーションが抜群という訳でもない二人。


「「はあ。これから、本当に大変そうだな」です」


 補足する点があるとすれば、二人は意外と相性が良かったりするのだろう。


 そして、デコボコとはまた違ったコンビによる、新しい旅が始まろうとしている。



 ちなみに、カイザンの使った「あそこにUFO作戦」は、この世界においてあまり浸透されていなかったららしく、二人が旅に出て行った後、何故だか一時的大流行となった。

 ある意味、カイザン支持者が増えてくれたのかも。

 次に女神領に来る時の大歓迎が楽しみだ。

 そのためには、旅先で活躍しまくるしかないな。


「何にせよ、始まったんだ」


 ふと漏らした色々な感情の詰まった一言に、密かにアミネスが笑顔を見せていたことを、カイザンは知る由もない。


 こうして、二人の旅は始まった。

 最強種族の求める、最高の暇潰しのために。


 同時に、

 さまざまな思惑が混ざり合う大きな計画の始まりでもある。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



        同じ境遇に在りし者



「待っててね、お母さん。私きっと、見つけられたから」


 ーーーーーアリアに選ばれし、対等な勇者を。



 ウィル種と創造種の出逢いは、絶対零度に覆われ、時を失った氷の城に、炎の意志と神成なる刄を。



     失われた四年間の静寂さを破って。



 ――――――――――――――――――――



       遥か西の領地にて

    光衛団幹部[十字光の武衛団]の本会議室



「ルフォールド様、依頼が届いております。急ぎの用件との事なのですが」

「既に俺の方にも直接連絡があった。実に珍しい客だ。故に、丁重に遊んでやる必要がある。......ラーダを呼べ、今回の件は奴に任せる」


 新たな最強種族の出現は、各地に波紋を呼び、厄災の火種となりつつある。

 そう、それは平穏な、下等とされる種族の領地であっても、決して例外とはならない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



      [煉獄の使徒]と[破戒の愚者]



「やあ、久しぶりだね、エイメル」

「ピーライですか。私はもちろん、よくミルヴァーニの気配感知を抜けましたね」

「この僕を誰だと思ってるんだい?.....それより、意志種は動いてくれたみたいだね」

「これも貴方の計画通り、ですか」

「予想外もあったが、運は良いらしい。こんなに早く出逢ってくれてるなんてさ。.....既に次は動いている。絶対主義者の彼なら、協力してくれると思っていたからね」



 過去からの来訪者による企み、正義か邪悪か。どちらにせ、暗影は彼らを脅かそうとしている事に変わりはない。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


      そして、向かう先は。


      獣種の領地[フェリオル]で、


「彼女には、この領から消えてもらう。他でもない、それが彼女のためになる事を、僕は祈っているよ」





      [獣領の騒乱]編の幕開けとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る