A heart full of love ー愛を注ぐ人たちー
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プロローグ
2029年 3月
机から、大量に重ねてあった会社の資料が落ちてしまった。
「ごめんなさい・・・!」
私は近くにいた見知らぬ人たちに謝ると、慌てて散らばった資料をかき集める。会社近くの静かなカフェにいた人たちは、私の騒がしさに少し迷惑そうな表情さえしていた。私はそんな人たちの目になるべく止まらないように、身を小さくして、キラキラ光り続ける都会の夜道へと飛び出した。
私が中学生だった頃から日本中が湧いていた東京オリンピックも今は過ぎ去り、私は社会人として相変わらず忙しい日々を送っている。
今日もそんな1日のうちの1つで、会社での壮絶な業務をこなしたと思いきや、今になって見つかった書類のミスを慌てて訂正。相手の会社に何度も謝り、後日訂正版を送る、と電話を切ってフラフラの足取りへさっきのお店へ・・・。
今日も過酷だった・・・、と思っていたら、自然とため息が漏れた。
そしてようやく終電間際の電車に揺られてひとり暮らし中の家にたどり着いた。
足が痛いし、ずっと持っていたトートバックが心なしか、いつも以上に重たく肩にのしかかっているような気がする。
最近、ずっとこんな感じだ。
そう思いながらポストを覗くと、1通の手紙とチラシが視界に入り込んできた。
私はいつもと同じようなチラシに少しうんざりする。だが、手紙の差出人を見た瞬間、それまでの疲れもだるさも一気にすべて忘れて、慌ててヒールを脱ぐとリビングに向かって歩きながら手紙の封を切った。
小さなスカイツリーが見える我が家の窓のカーテンを閉めて、電気をつける。
そして私は待ちきれずにその場に突っ立ったまま手紙を読み始めた。
日菜ちゃんへ
お元気ですか。久しぶりだね。
ついこないだ茉莉ちゃんに偶然会って、日菜ちゃんが外国関係の会社に勤めていると聞いて驚きました。出逢ったときは高校生だったのに、キャリアウーマンになっているなんて、なんだかちょっと不思議な気持ち。でもすごく嬉しいです。
恋人は出来ましたか?日菜ちゃんのことだから、いい彼氏さんがいるんだと思います。
さて、急なお手紙でごめんなさい。実は久しぶりに皆で集まろうという話を私達や茉莉ちゃんの間でここ何年もしていたのだけれど、ようやくそれが実現できそうなので、連絡したかったんです。
そこまで読んで、私はなぜか溢れてくる涙を止められずに濡れた自分の頬に手をやった。
涙と一緒に10年前の記憶が私の頭の中に、走馬灯のように流れる。その映像のどれもがキラキラしていて懐かしくて、ちょっと切なくて、でも確かに・・・。
その映像は瞬く間にして、私の心をいっぱいにさせた。
シャボン玉みたいに一瞬しかない。花びらみたいにいつかは落ちていく。
今日だってそんな命の一部だと思ったら、死ぬほど忙しい今日だって愛おしい。
そう思いながら、私はゆっくりと椅子に腰かけて、手紙の続きを読むことにした。
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