第24話 魔導書から得たもの
* * *
何かが聞こえてくる気がする。
それが何なのかは分からない。
ただ、すごく心地がいい。
そしてどこか胸が高まる気持ちでもある。
ずっとこのままでいたいと感じて俺はそのまま身を委ねる。
しかしそうはいかないらしい。
さっきまで心地よく聞こえていた音が、急に荒々しくなってきたのだ。
俺の心地よさを邪魔する奴は誰だ!?
──奪ってやる──
「……ん」
「……くん!」
「……
俺は自分の名前が呼ばれていることに気付き目が覚めた。
目の前には可愛い女の子の顔がすぐそこにあったのだ。
「……高梨さん!?」
ちょっと顔を上げれば彼女の唇に触れてしまいそうな距離にあった高梨さんの顔に驚く。
同じく彼女も「はっ!」と声を出しのけ反ったので、俺はそんな彼女から離れるようにように体を起こした。
「ご……ごめん。颯くん大丈夫!?」
大丈夫って……何が?
俺は状況が読めずに辺りを見渡した。
そこには本がたくさん積んであったり、無造作に散らばっている空間が広がっている。
俺の近くには真っ黒い表紙の本が適当なページで開かれていた。
そうだ!!
俺はこの『願望の書』を開いて、気づいたら気を失っていたのだ!
今の状況がやっと理解してきた俺に向かって高梨さんは、もう1度声をかけてくる。
「黒田くん本当に大丈夫……?」
「あっ……うん。どこか痛いとかそういうこともないし、多分大丈夫」
「多分って……それなら大丈夫そうかな」
高梨と軽く会話をしているうちにだんだんと意識がはっきりしてきた。
体調は全く問題ない。
そして…………。
きっと成功したのだろう。
なんて言葉にすればいいのか分からないのだが、何か得体の知れない力が込み上げてくる感覚が、確かに俺の中で芽生えたのだ。
これはきっとこの『願望の書』に俺は選ばれたのであろう。
自分の身に起こった現象に様々な感情が渦巻き、何故かにやけてしまう。
こんなことが本当に現実で起こるなんて。
未だに信じられない。
でもこうしているわけにはいかない!
橋下がきっと俺達を待っている!
「さあ高梨さん行こっか! 橋下達の所へ」
「う、うん。…………颯くんちょっと」
高梨さんは不安げな表情を浮かべる。
「うん? どうしたの?」
「颯くん……何か雰囲気変わった?」
「へ? 雰囲気!?」
高梨の言う意味が分からず、俺は変な声が出た。
「いや、やっぱり私の思い違いかも。ごめん気にしないで」
「あ、うん。でもそんなこと言われると気になるんだけど──」
そのとき。
隣の建物の方から、真壁が何か叫ぶ声が聞こえてきた。
「今の真壁の声だよな!?」
「うん。何かあったのかな?」
「行こう高梨さん!!」
俺はすぐに立ち上がり隣の建物へ目掛けて走り出した。
高梨さんと共に外へ出た俺は、隣の建物の前に誰か人がいることを確認する。
その人影もこちらに気付き、顔をこちらへ向けた。
え……川崎!??
「川崎!! 何でお前ここにいるんだ!?」
川崎は特に驚いた様子を見せず、俺の問いに答える。
「聖恵からここにいるって教えてもらったんだ」
「え? 高梨さんから?」
不思議に思い彼女の方を向くと、高梨さんはポケットからスマホを取り出す。
「颯くんが急に気絶してちょっとパニックになったときに、ちょうど秀くんから電話が来たの! そのときにこの場所を教えたんだ」
どうやら俺が気絶している間にこの場所を教え、場所が分かった川崎はその情報を便りにここへたどり着いたようだ。
ということは、俺はそこそこ長い時間気絶していたことになる。
気づいていないだけで俺はしばらく眠っていたようだ。
「それより橋下くんの所に行かないと!」
「そうだった!!」
高梨さんに言われて俺は目的を思い出す。
俺は急いで中へ入っていこうとすると、それを見た川崎が俺を止めた。
「待て颯! あいつを止める方法はあるのか?」
止める方法はある。
俺は今隣の建物で……そういえば『願望の書』の話は川崎には言ってなかったな。
「さっきそれを手にいれてきた所なんだが、話をすると少し長く──」
「それは時間かかるのことなのか?」
「いや、まあ……少し」
「分かった! 俺が時間稼ぎしてくる」
川崎は橋下達がいる建物の中に迷わず走って行こうとする。
「ちょっ!! 川崎待てよ! 確かに時間を稼いでくれるのは凄く有難いんだが、俺が何をしようとしてるのか分からないのに良いのか? 中は多分相当危険だぞ!!」
「そんなこと言ってもここで話をしてる時間はねぇーだろ! 颯が何するのか確かに分かんねぇーけど、お前は適当なこと言う奴じゃないことは分かってる。だから俺はそれにかける」
川崎が俺のことをそんなふうに思ってくれているとは思わなかった。
予想もしていなかった発言に、俺はただ「そうか」と頷くことしか出来ない。
「そんなに長いこと時間を稼げるとは思えないから早くしろよな!」
そして川崎はそれだけ言って建物の中へ入っていったのだ。
もし俺が女だったら今頃川崎に惚れていただろう。
川崎がせっかく時間を稼いでくれるのだ。
無駄にするわけにはいかない!
「さっき秀くんに、真壁くんをどうにかする方法を今手に入れたって言ってたけど、やっぱりあの本から何か力を貰ったりしたの?」
高梨が神妙な面持ちで探るように聞いてくる。
彼女にはここに来るまで何も言ってなかったので、当然疑問に思っていただろう。
俺は確かに力を得た。
そして、その力の使い方も無意識に理解しているのだ。
「そうだよ」
俺は彼女の疑問にさらっと答えた。
俺が得た力は、おそらく封印の呪文のような類いのものだと思われる。
詳細は使ってみないと分からないのだが、そのような力であることは、何故か分かるというか伝わってくるのだ。
ただこの力を使うには、対象に触れていないと出来ないらしい。
どうにか真壁の体に触れるチャンスを作らなければならない。
「えっと、その力を使うには何か準備とかが必要なの? 少し時間がかかるって言ってたけど」
「いや、準備とかは必要ない。ただ1回試しておきたくて……」
ぶっつけ本番で使って失敗に終わるわけには絶対にいかない。どうしても1度試しておきたいのだ。
俺は高梨さんを見て考える。
この力は力を封印したりする類いのものだから、きっと何か危害を加えたりすることはない。彼女は何も力とかを得ている状態ではないので、悪影響もないはずだ。
高梨さんは何も言わずじっと自分が見られていることに気付き苦笑する。
「えっと……私で試したいんだよね?」
どうやら俺が考えていることが伝わったようだ。
…………でも。
俺は万が一のことを考え、どうしても高梨さんを実験台にするのに
どうするか決めきれない俺の様子を見て高梨は口を開く。
「大丈夫! 私で試してみてよ♪」
どうやら彼女は腹をくくったようだ。
悩んでいても仕方ない。
きっと大丈夫なはずだ!
俺は彼女に協力してもらうべく、力の発動方法を伝える。
「この力は対象者の体に触れていないといけないらしい。だから……高梨さんの体を……その、ちょっと触れさせて、もらうね」
自分が言っていることの内容を意識すると恥ずかしくなってしまい、最後の方は声が小さくなってしまった。
「うん! どうぞ!」
高梨さんは何も恥ずかしがることもなく姿勢を整える。
何か俺だけ変なことを考えていて、余計に恥ずかしくなった。
何はともあれやるしかない!
決心がついた俺は、高梨さんの肩に手をそっと置いた。
…………柔らかい。
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