第4話 陽キャラ副部長の北川
「武道場に案内するよぉ~♪」
市ヶ谷さんは、「あっそうだ!」と何か思い付いたかのような反応を見せるので、次は何を言うのかと思ったがただ武道場まで案内してくれるということだった。
あーそうですか。 お願いします。
これは突っ込んでいるときりがない。
考えるのを止めよう。
黙って付いていくのが1番だ。
武道場へ行くと、既に雪ノ丘高校の剣道部員は集まって練習試合の準備をしていた。
また、味美高校の部員も数人来ており、その中の1人が川崎を見つけると近づいてきた。
「よぉ秀介! ……え? 高梨さん!? 今日見学する奴がいるって言ってたがよ、それ高梨さんなん?」
「おう北川! 見学するのは
川崎ほどではないがイケてる雰囲気を放つ北川と呼ばれた男は高梨さんの存在に驚く。
後ろで見ていた他の剣道部員達も、あれ高梨さんじゃねぇ? とか、マジかよヤベーじゃん! と軽く盛り上がっているのが見える。
そんな盛り上がっている集団に高梨さんはひょこっと顔を出し手をパタパタと振る。
集団はよりいっそう盛り上がった。
高梨さん人気者なんですね。
「北川! まだ全員来てないけど点呼頼むわ! 俺、顧問に聖恵達のこと伝えてくるからさ」
北川と呼ばれた男は「りょー」と答えて部員達の方へ歩いていった。
俺らは川崎に連れられ小島先生の元へ行き、見学することを伝えた。
事前に川崎が伝えていたので、すぐに了承を得ることが出来た。
それにどうやら相手校の顧問にも俺らが見学することを伝えてあったらしく、自由にその辺に座って見ててよいという許可が出ていた。
「じゃあ俺着替えて来るから!」
そう言うと川崎は
その様子をボーと見ていると、隣にいる高梨さんが俺の方を向いた。
「練習試合始まるまでしばらく待とっか!」
「あっ……うん」
俺は高梨さんに返事をしたところでふと気づく。
川崎は当然これから練習試合だから、この後俺高梨さんと2人っきりで見学するってことだよな!?
さっきまでは川崎もいたから大丈夫だったけど、高梨さんと2人になると急に意識しちゃうし、緊張して冷静でいられる自信がない!
落ち着け俺。 当初の目的を考えるんだ。
俺は真壁 恭矢がどんな奴か気になったから見に来たのだ。
隣に誰がいようと関係ない。
本来の目的をただ遂行すればいい。
俺は雪ノ丘高校の部員の中から真壁らしき人を探そうと辺りを見渡す。
一通り部員の顔を見て俺はあることに気づいた。
そういえば俺、真壁の顔知らねぇー……。
どうする? 今から川崎に聞きに行く訳にはいかないし、見ているうちに名前が呼ばれたりするかもしれないからそこに注目して見学していくか?
そんなことを考えているとふいに左肩に柔らかい感触を感じた。
「うぁっ!!っと。 ……高梨さん!?」
「あっごめん。てか颯くん驚き過ぎでしょ!」
俺の肩に手を置いた高梨さんは隣でクスクス笑っている。
しかも俺の反応を面白がって、指で俺の頬をつついてくる。
そうだった。 隣に高梨さんがいたんだ。
隣に高梨さん……。
駄目だ。 また意識しちゃう!!
考えるな俺。 やることを思い出せ!
俺は今真壁を探しているんだ。
そうだ! ……高梨さんなら真壁を知っているよな。
俺は頬をつつかれている恥ずかしさを誤魔化すように視線を
「えっと高梨さん。 真壁ってどれ?」
「どれって、なんか物みたいな言い方だね」
高梨さんは苦笑いをして俺の頬をつついていた指で、ある部員を指差す。
「今、あの蘭ちゃんと話をしてるのが真壁くんだよ!」
あー……あれかー。
あんな所に市ヶ谷さんいたのか…………。
いや、そうじゃない!
市ヶ谷さんじゃなくて、探していたのはその市ヶ谷さんと話をしてる相手の真壁の方だ!
…………今日の俺駄目かもしれない。
周りに変に気になる女の子が多すぎる。
俺は気を取り直して遠目から真壁を見る。
……うーん。なんて言うんだろうか?
俺が想像していた真壁 恭矢と何か違う。
どこが違うのかと言うと、弱々しいとまでは言わないが、真壁を見て俺はどこか優しそうな雰囲気を感じた。
また、身長や体格は俺とあまり変わらない。
川崎の話からの想像だが、俺はもっと川崎のようながっしりとした体格で、ぶつぶつ独り言を言っていたという情報から近寄りがたい雰囲気を持つ奴なのかと思っていた。
または、寡黙で剣道に黙々と取り組むような生徒を想像していた。
故に想像していた真壁と、今見ている真壁ではイメージがとてもかけ離れているのだ。
恭矢って名前からも強そうな奴を想像してたしね!
とにかく真壁を初めて見て感じた俺の印象は、市ヶ谷さんと楽しそうに話をする優しそうな男子生徒だった。
しばらくして両校の練習が始まる。
最初は準備運動。
まあ何部であろうと運動部なら準備運動は必須だよな。
その後反復横跳びが始まる。
剣道部って反復横跳びするんだな。
反復横跳びを終えると、マネージャーである市ヶ谷さんがスッと立ち上がり、持っていた黒色の袋から何か取り出して部員達に渡す。
何だあれ?
2本のヒモの間に等間隔で区切りの入った、まるで線路のような器具は?
部員達はその線路の上を駆けたり、ステップを刻みながら跳ねたりしている。
見たことのない練習だ。
隣の高梨さんの方に視線を移すと、特に不思議そうな顔はしていなかったので、おそらく何の練習をしているのか知っているのだろう。
「高梨さん。 あれ、何やってるの?」
「ん? 颯くんラダートレーニング知らない?」
「ラダー……? なにそれ?」
「敏捷性とかを鍛える練習だよ! バスケとか卓球部でもやったりするね」
へぇー。 敏捷性ねー……。
細かい下半身の動きを必要とするスポーツではよくやる練習のなのだろうか?
それから約15分後。
剣道部員達はようやく竹刀を持ち始めた。
お! ようやく始まるか……と思ったとき、雪ノ丘高校の部長らしき人物の号令で素振りが始まった。
まあ竹刀を持ってすぐに練習試合とはいかないか。
それにしても練習試合はいつ始まるんだ?
再び高梨さんの方へちらっと視線を向けると、そこに高梨さんはいなかった。
え? どこ行ったの!?
辺りを見回すと高梨さんは小島先生の所に行っており、何やら話をしていた。
しばらくすると俺の隣にまで帰って来た。
「今小島先生に聞いてきたんだけど、練習試合は13時半かららしいよー」
「あっそうなの?」
午後からなのか。
13時半までまだ2時間半以上はある。
途中昼休憩があるらしいが、正直しばらく暇だな。
さて、どうしよう……ん?
ふいに横にいた高梨さんが何故か嬉しそうな顔をして俺の肩をトントンとつついてくる。
え? 何? 可愛いんだけど。
「暇だしさ、この学校を一緒に探索してみない?」
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