第25話 封印の呪文

 高梨さんの肩に触れて瞬間、俺は今までに経験したことのない未知の感覚に支配された。



 これ……なんだ……?

 まるで高梨さんから何かような感じがしたのだ。


 高梨さんの肩から手を離すと、その感覚は幻であったかのようにすっと消えた。



 改めて感じたが、やはり俺は未知の力を本当に手に入れてしまったようだ。


 身体中がゾクゾクとしてくる。

 この感覚…………たまらない!!



「颯くん! 今の……」

「高梨さんも不思議な感覚感じた?」


 高梨は両手で自分の肩を抱えるように組み、少し怯えるような表情を見せる。


「何かさ、もわってしたの。もわっと」

「え? 何それ……」


 よく分からない擬音語で返された。

 まあ高梨さんも何かしら感じたのは間違いないのだろう。


「えっと大丈夫? 何か変な感じがしたり、どっか痛いとか……」


 俺が得た力はを封印する類いのものなので、何も力を持っていない彼女に悪影響はないはずだ。

 しかし力を持たない者に使用した場合、全く無害であると100%言えるわけではないので聞いてみた。


「うーん。そういうのはないから大丈夫だよ!」


 そうか。それは良かった。

 彼女に何か異変があったら申し訳ないでは済まないからな。



 とにかくこれならいける気がする……。

 問題はどうやって真壁の体に触れる隙を作るかだな。


「ちょっと聞きたいんだけど、真壁くんにも同じようにするんだよね?」


 どうするか考えていると、横から声がかかった。


「まあそのつもりだけど」

「どうやって体に触れるの?」


 どうやら高梨さんも同じ問題に気づいたようだ。


 さっき高梨さんに試したとき、力の発動は確認できた。

 しかし、真壁を相手に同じようにはいかない。体に触れさせてくれとストレートに頼んでも、何かよく分からないことをしてくる奴の言う通りにしてくれるとは到底思えないからだ。


「そこが問題なんだよね……」

「じゃあさ、私が気を引いて見ようか?」


 高梨さんはどこか恥ずかしげにそっと呟いた。


「それならお願いしたいんだけど、どうやって真壁の気を引くつもりなの?」


 高梨の提案は嬉しいのだが、どこか恥ずかしそうにしているのが気になる。


「そ、それは見てからのお楽しみかな♪」


 腕を後ろに回しハニカミながら答えた。


 何その笑顔!?

高梨さんはいったい何を考えているんだ?


「じゃあ私が裏から先に入っていくから、黒田くんはその後中に入ってくるように! 失敗しないでよ。……それと


 高梨さんはそう言って俺が反応する前に、建物の裏の方へと走っていった。

 高梨が最後に言ったが強く印象に残る。


 気を付けないといけないのは俺じゃなくて彼女の方だろ。

 気を引くという言い方をしたが、囮になるってことだぞ……。



 これは失敗が許されない。



 俺は入り口の扉に近づいた。

 さっき川崎が中に入って行ってからは、特に大きな物音はしていなかった。

 故に中で何が起こっているのかさっぱり分からない。


 中の様子を見ると、左側にいる川崎と橋下の2人が真壁に向かって何か呟いているところであった。


 どうやら2人共無事のようで一安心だ。



 しばらくして裏から高梨さんが突然そっと出てきた。中の3人はまだ彼女に気づいていない。



 さて、高梨さんはこれからはどう真壁の気を引くのだろうか?

 どうやって真壁の気を引くのかは分からないが、高梨さんのことだしきっと上手くやってくれるだろう。


 高梨は数歩進んでから立ち止まり、俺にも聞こえる大きさで声を上げた。


「あっあのー!!」


 3人共高梨さんの声に反応し彼女がいる後ろを向く。


 よし! 今なら行けそうだ!!

 俺は音を立てないようゆっくりと中へ足を踏み入れた。



「さ……さっき、秀くんと真壁くん試合してたじゃん! 雪ノ丘高校の武道場で!」


 適当に話をして気を引く作戦なのだろう。


 いいぞ高梨さん!

 そのまま注意を引き続けてくれ。


「私さ……! そのとき思ったんだけど」


 俺は気づかれないように1歩ずつ真壁との距離を詰めていく。


 あと10mくらい!!



「私……あのときの真壁くんかっこいいなと思ってさ……あ、あのー」


 そして高梨は、何故か俺の方をちらっと見た。


 いや、何やってんの高梨さん!?

 俺の方キョロキョロ見てると、3人共今完璧に高梨さんの方に注目しているのに、バレるでしょーが!!



 案の定、川崎が何かに気付きこちらの方を向いた。


 川崎は察しが良く、俺らが何をしているのかすぐに勘づいてくれたのか、再び高梨さんの方へ何事もなかったように振り返る。

 しかし川崎のその動きが視界に入っていたのであろう真壁が不自然さに気付き、俺の方へ振り返ってしまった。


 真壁と俺は目が合う。

 あと5、6mといった所だろうか。

 俺の存在がバレてしまった。


「あ……い、いや……その」

「不意討ちでも考えてたのか!? 失敗だな! バーカ!!」


 真壁は笑いながらこっちに向かって走り出そうとした。


 クソッ! ……やられる!!


「死ねぇ──」


 そのとき。 ……次の瞬間。

 真壁は突然その場で転んだのだ!?


「すまねえな。剣道だったら反則だな」


 真壁の足元を見ると、どうやら川崎が足を出して真壁を転ばせたようだ。


 ナイスだ川崎!! 今がチャンス!!!


 俺は川崎が作ってくれた隙を逃さないよう、全力で真壁に触れるべく走った。


 真壁は直ぐに立ち上がろうとする。

 しかし川崎が真壁の両足を胸で抱えるように掴んでおり、上手く立ち上がることができない。


「クソッがぁーー!!!」

「よし!! 終わりだーー!!」


 俺は咄嗟とっさに掴んだ真壁の頭をおもいっきり両手で鷲掴みにし、先ほどと同じように力を使った。




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