第21話 挫折した僕を救ったのは……


 勝てなくなった僕は次第に剣道をやるのが辛くなってきた。


 辛くなった僕は、練習方法を1から変えたりいくつか試行錯誤をするも、何をやっても上手くいかなくなったのだ。



 そんな様子を見ていた部員と顧問は、少し部活を休んだ方がいいと勧めてきた。

 またやりたくなったときにいつでも帰ってくればいいからと僕をことを思って待っていてくれたんだ。



 部活を休むことにした僕は迷った。

 中学生の頃からずっと剣道をやっていた僕は、空いた時間に何をすればいいのか分からないのだ。


 あまり事情を知らず部活を辞めたと勘違いした友人達からは、遊びに誘われることがあったので何度か遊んでみた。

 だけど、部活を休んでいるのに僕は遊んでいていいのかという罪悪感がいっぱいで、遊びに集中出来ず全然楽しくなかった。



 ただ何もしない時間ほど退屈な時間はない。

 そんな退屈な時間を潰すために僕はジョギングを始めた。無心で体を動かしているときだけ気持ちが和らいぐのだ。


 そして、最初は時間を潰すためくらいで始めたジョギングがちょっとした趣味になった。

ジョギングで今まで行ったことのなかった場所を回ることで、自分の世界が広がるような感じがした。そしてそれが僕の中にある罪悪感を薄めてくれるのだった。




 それからしばらくしてのこと。

 ジョギングの途中で僕はを見つける。


 普通ならパッと見ただけでスルーしてしまうであろう建物だったのだが、誰も人がいなさそうな建物なのに物音がしたので気になったのだ。


 中の様子を見て僕は驚愕した。


 それは、姿を見つけたからだ。


 どうして真壁がここにいるんだ!?

 どうして竹刀を振っているんだ!?

 どうして……


 僕は意味が分からなかった。

 何故かそのまま真壁の様子を見ているのが怖くなり、走ってその場を去った。



 気がつくと僕は家の前にいた。


 真壁はあの場所で何をしていたんだ?

 竹刀を振っていたのだから何をしていたのかは明確なのだが、僕はその事実に理解出来ずその日は寝ることにした。




 次の日になり少し頭の中が整理された。


 真壁は部活を辞めたが、辞めた後も剣道は続けていたのであろうか?

 あんな場所で、しかも1人だと出来る練習は限られてくるだろう。

 もしかしたら、部に戻ってくる可能性もあるのだろうか?


 様々な疑問が頭の中いっぱいに渦巻いた。


 そしてあることを思いつく。

……昨日のことを直接本人に聞いてみるか?


 一瞬そんなことが頭をよぎったのだが、高校に入学してから真壁とは違うクラスということもあり、真壁が剣道を辞めて以来まともに会話をしていない。

その期間は約1年。

1年近くも話をしていない相手に対して、どんな顔をして現れればいいのか分からないのだ。


 その日1日僕は学校での記憶がほとんどない。ほとんどの時間真壁のことについて考えていた。


 そんな学校での1日が終わり放課後。

 いつも通り家に帰ろうと帰りの支度をしていると、急に僕の目の前に真壁が現れた。


 僕と真壁のことを知っている人達は「あの2人どうしたんだ!?」と注目して僕達を見ている。


 困惑した表情で声を出せずにいた僕に向かって真壁はこう切り出した。


「……昨日俺が竹刀降ってたの見たよな?」

「え!? ……いや、まあその……」

「……話がある。で待ってる」


 それだけ言って真壁は立ち去った。



 ……話って何だよ?

昨日の場所ってあの廃墟のことだよな……。


 僕は戸惑いながらも、昨日真壁を見つけた廃墟に向かうことにした。




 廃墟に行くと既に真壁が中で待っており、少し驚いた表情を見せる。


「橋下……本当に来てくれたんだな」


 その言葉から僕は、久しぶりに真壁らしさを感じた。

 自分で誘っておいていざ行くと驚くって、どんだけ自分の言葉に自信が無いんだよ。


「こうやって話すの1年ぶりくらいだよな」

「……ああ。そうだな」


 それからしばらくお互い沈黙する。

 言葉のチョイスを間違えたのかもしれない。


 僕は何とか話を続けるために、気づいたことを口にする。


「この廃墟って……何なの?」

「近所のおじさんに教えてもらったんだけど、ここは昔ある本好きなおじさんが住んでいた家なんだって。そのおじさんは突然行方不明になって、手付かずの建物が朽ちてこうなったらしい」


 本好きか……この部屋には本は無いけど、隣の建物にはあったりするのだろうか?


「で、本題何だけど……」


 真壁は本題について語ろうとする。


 相変わらず話の展開が下手だ。

 だけどそういう不器用な所が彼らしさでもある。


「橋下……剣道辞めるのか?」



 やはりその話か。

 1年も話をしていない相手をわざわざ訪ねて、しかも学校ではない場所へ誘ったことから重要な話をすることは分かっていた。


 僕と真壁で重要な話と言ったら、剣道しかないもんな。



 僕は剣道を辞めるつもりはない。

 少し気持ちが落ち着くまで休むということで、今活動を休止しているのだ。


 しかし、僕はその質問にこう答える。


「…………分からない」


 辞めるつもりはない!

 でも、なぜか僕は分からないと言ってしまったのだ。


 真壁は「そうか」とだけ言ってまた沈黙する。



 このままでは話は進まない。

 しかし、何も言葉が出てこない。


 言葉が出て来ないまま立ち尽くしていると、真壁の方から沈黙を破った。


「辞めて何するのか考えているのか?」

「いや……まだ辞めると決めた訳じゃ──」

「俺みたいになるぞ……」


 俺……みたい……?

 真壁は一体何を言っているんだ?

 意味が分からない。


「それって……どういう?」

「橋下。俺が部活を辞めてどうなったか知ってるか?」


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