第10話 雪ノ丘高校最狂の剣士 真壁 恭矢
何が起こったのかだろうか?
全く分からない……
それは突然だった。
試合時間は残り5秒……だったよな?
真壁の決定的なミスで川崎が一本取って、ほぼ試合が終わったようなものだった。
だからといって川崎は決して油断していた訳ではない。むしろ試合が終わるまで一切油断はしていなかった。
いや、油断とかそういう話ではなくて……いったい今目の前で何が起こったというのだろうか!?
「やめっ!」
しんとしていた中、審判の声でまるで止まっていた時が再び動き出した。
「秀介っ!!」
川崎の様子を呆然と見ていると真横から声が聞こえてきた。
声を発したのは北川だ。
未だに立ち上がれずに横たわっている川崎の側へ行き反応を確認する。
川崎は首元を抑えたまま微動にしない。
川崎は真壁に目にも見えぬ速さで突きを打たれたのだ。
本当はここから延長戦となるが、川崎の様子を見ているともう戦えそうにない。
そして俺はようやく周りが見えてきた。
真壁が最後に見せたあのスピード。
疲れて動きが鈍くなっていた真壁のどこにそんな体力と力が残っていたのだろうか?
いや、体力が全快の状態でもあのスピードは出せるものなのか……?
川崎をぼんやりと見ていた俺だったが、どうやらその後方でも何やら騒がしいことになっていることに今気づき、そちらの方へ視線を移した。
その先には頭の防具を外し、床に両手を突き大量の汗をかいて苦しそうな真壁がいた。
真壁の側には市ヶ谷さんと雪ノ丘高校の生徒数人寄り添っていて、苦しそうな真壁を支えている。
急な突きを突かれて倒れる川崎は分かる。しかし真壁が苦しそうにしているのはどういうことだ?
真壁の側にいた市ヶ谷さんは、雪ノ丘高校の顧問の先生に向かって、俺らが知っている市ヶ谷さんとは思えない真面目なトーンで声を上げた。
「先生っ! かべっち過呼吸です!」
かべっちとはおそらく真壁のことだろうが、今そんなことよりも真壁が過呼吸ということに驚きだ。
本当にどうしたんだ真壁は!?
さっきまで両者は凄い試合を見せていたのに、その両者共に今は倒れてしまっている。
突然起こった出来事に何がなんだか分からない俺は、言葉を発することも出来ず、ただ呆然と2人を見ていた。
しばらくして、過呼吸が落ち着いた真壁は市ヶ谷さんらに付き添われ保健室へと向かった。
この後予定されていた選手を代えての練習試合2戦目をやるのは当然中止となり、現在両校の顧問が話し合っている。
俺は高梨さんと川崎の元へ行き状態を確認した。
「秀くん大丈夫……?」
「ああ、俺は問題ない。 流石にあの突きはビビったけどな……ハハハ」
笑ってはいるが川崎の顔は真っ青だ。
外から見ていた俺らと違って、目にも見えぬ速さの突きを直接食らったのだから、怖いもの知らずだと思っていた川崎でも腰を抜かすのは無理もない。
「秀くんが強いのは知ってたけど、真壁くんもめっちゃ強かったね。……ちょっと怖いくらいに」
俺は高梨さんが最後小さく呟くように言った怖いという言葉が印象に残る。
川崎も同じように感じたのか、高梨さんの言葉に賛同する。
「やっぱ聖恵も感じたか? 何なんだろうなあいつ……」
「真壁くんって最強の剣士って異名で呼ばれてたけど、最強というより、最狂って感じだよね? 私が思った感想だけど……」
言葉では伝わらない強を狂にかけたことを、高梨さんは手元の手帳に書いた漢字を見せながら話した。
その高梨さんの手帳を見ていた川崎はふいに俺の方へ向き真剣なトーンで聞いてくる。
「
どう思う……か?
どう思うと言われても、気づいたときには川崎が倒れていただけに、もう何がなんだか分からない。
答えに困っていると高梨さんが川崎と同じように真剣なトーンで先に声を発した。
「秀くんはどう思ったの?」
真壁は考え込むような仕草を見せ黙ってしまう。
その様子に俺らは何も言わず、川崎の出す答えを待った。
しばらくして川崎は口を開く。
「何て言えばいいのかな…………」
「言葉にするのが難しいなら、ジェスチャーとかでも良いよ♪ ほら、こんな感じに!」
今まで真面目な話をしていたムードだったが、高梨さんは変わった動きをしてふざけた様子で場を和ませる。
「それは無いぜ聖恵!! 真剣な話してたのによー」
「だって秀くん黙っちゃうんだもん!」
「だな……俺こういうの似合わないや」
先ほど川崎が悩んで黙っていたときには何も言わずにいた高梨さんだったが、今はこのようにふざけて見せる所は高梨さんなりの空気の読み方なのだろう。
そんな高梨さんを見て川崎は、普段見せているような明るさのある笑顔に戻った。
「話がちょっと逸れるんだけどさ、今日この練習試合に
高梨さんと話していた川崎が突然こちらを向き聞いてきた。
え? ……俺を誘った理由!?
俺は予想外の方向からの質問に戸惑う。
今その話関係あるか!?
突然聞かれたとはいえ、その理由はちゃんと覚えている。
なんたって普段わざわざ俺の所に来て話しかけてくることは、ほぼない川崎からの話だったからね。
「確か、大会でめっちゃ強い奴と決勝で当たって、そいつが何か別の何かと戦ってるような違和感を持つ異質な奴だったからだよな?」
「おう! よく覚えてたな」
高梨さんは先の話が気になるのか、腕を組み続きを促す。
「それがどうしたの?」
「ああ。その誘った理由でもある別の何かと戦っているような違和感についてなんだけどさ、俺さっき戦って確信したわ」
「……確信? 何か分かったのか!?」
俺の問いかけに川崎は突拍子もないことをサラッと口にする。
「あいつきっと二重人格だと思う」
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