第7話 謎の男子生徒A

 高梨さんの先導で校内を歩き回っていたところ、男性教師であろう声がする教室を見つけた。

 教室の入り口には3ー1と書かれている。

 隙間から除いてみると、数十人の生徒が男性教師から授業を受けていた。


 高梨さんは中の人に聞こえないよう声を潜める。


「ここって3年生の教室だよね?」

「うん。 3ー1って書いてるから」

「休みなのに何やってるんだろ? 多分3年生だし補修かな?」


 GWとはいえ3年生となると補修がある。

 俺の高校でも10連休のうち半分の5日間は補修あるからなー……。


 休みの半分は学校に言って補修を受けなければならないのだから、ゴールデンでも何でもない。


 パッとみた感じ他の3年生の教室では同じように補修はやっていないことから、一部の生徒のみ対象の補修なのだろう。


「補修受けている生徒の中で真壁くんの友人がいる可能性あるよね! 終わるの待って話聞いてみようよ♪」


 俺は「そうだな」と答えて2人で教室の近くにあった階段に座って待つことにした。




「それでは今日の補修を終わります。 各自復習と次回の課題をやっておくように」


 現在時刻は12時ちょうど。

 教室の中から聞こえてきた教師の言葉を境に教室内が少し賑やかになった。どうやら補修は終わったようだ。


 俺が高梨さんの方を向くのと同時に彼女はスッと立ち上がり教室の方へ駆けて行った。


 相変わらず行動が早いですね。


 置いていかれないように後を追いかけると、教室から出てきた1人の男子生徒と高梨さんがぶつかるのを目にした。


「うわっと……!!」

「あっ! ごめんなさい! 大丈夫ですか?」


 教室から出てきた男子生徒は驚いた様子で高梨さんを見下ろす。

 そして手を振り無事であることをアピールする。


「僕は大丈夫だけど……君は?」

「私も平気です! ごめんなさい。前を見てませんでした」

「大丈夫。こっちこそ不注意ですみません」


 男子生徒は高梨さんの無事を確認すると、俺がいた階段とは逆向きに歩き出そうとする。


 そのとき高梨さんが「あのー」と呼びかけると、男子生徒は振り向き首を傾げた。


「えっと? まだ何かあるのかな?」

「突然申し訳ないんですけどちょっと質問良いですか?」

「へ? 質問……!? 何かな?」


 男子生徒は想像していなかったであろう状況に、明らかに動揺している。

 そりゃ突然ぶつかった女の子から質問があるなんて言われたら意味分かんないよな。


 驚いてはいるものの、拒否された訳ではないと分かった高梨さんは、男子生徒に問いかける。


「突然ですが真壁 恭矢くんって知ってますか?」

「え!? 真壁がどうしたの!? 知ってるけど──」


 そこまで言うと男子生徒はハッと何かに気づいたかのような表情を浮かべる。

 かと思うと、何かを警戒するように険しく顔を歪めるのであった。


 どうした? 突然とはいえ、高梨さんはそんなに驚くようなことを聞いただろうか?


 少し間が空いてから男子生徒は口を開く。


「……君達は? 違う制服だから他校の人だよね?」

「はい! ……いきなり知らない他校の人に質問されても困るよねー! 私は味美高校3年新聞部の高梨 聖恵です! こっちは助手の颯くん♪」


 高梨さんもおそらく男子生徒の反応に違和感を感じたのだろう。あえて明るいトーンを意識して質問をしているのが分かる。


 それと俺はどうやら高梨さんの助手だったらしい。

 初耳なんだけど……。


「味美高校か……そうか」


 男子生徒は何かを考えるような仕草を見せ独り言のように小さく呟いた。


「うん? 何か言いました?」


 小さな声であったとはいえ、高梨さんもちゃんと聞こえていたはずなのに。

 それでもあえて聞く高梨さんに、ちょっと意地悪な所を感じた。


「いや、あのー…………こっちの話です。聞き逃してもらって構わない」


 その後男子生徒は、未だにどこか驚いたような面持ちを見せるも、先ほどまでとは幾分落ち着いた表情を見せ高梨さんの質問に答えた。


「えっと、真壁とは友達だけど、あいつに用があるなら武道場に行けばいると思うよ。今剣道部練習してる時間だから」

「はい! 真壁くんが今武道場で練習をしているのは知ってます! 私達新聞部として今日は彼を取材しに来たんです! でも練習中にお話を聞くことは出来ないので、このように真壁くんを知っている人を見つけて話を聞いて回ってるんですよー!」


 高梨さんはそれっぽい理由を付けて現在の俺らの行動を説明する。


「取材……? 悪いけど僕、この後予定があるから時間無いんだよね。取材に協力出来なくて申し訳ない」

「いやいや、私達こそ突然ごめんなさい!」

「そうか。えっと、じゃあ僕は失礼します」


 そう言って男子生徒は話を切り上げこの場を去ろうとしたので、俺は先ほどから気になっていたことを聞いてみた。


「最後に1つ良いですか?」

「え!? ……うん。何かな?」


 今まで黙っていた俺が発言したことに、隣の高梨さんも含めて何を言うのか警戒されているように感じる。


 ここで俺が目の前の男子生徒に質問をしようと思った理由は単純だ。先ほど感じたあの違和感が気になったからである。


「さっき真壁のことを知ってるか聞いたときに不思議そうな顔をしたけど、何かあるのか?」


 俺は回りくどく探ることが得意ではないので、思ったことをそのままぶつけてみた。


「そうかな? 僕は別に何も無いんだけど」


 すると男子生徒は一瞬驚いたような表情を見せたような気がしたが、何事も無いとでも言うように淡々と答えた。

 彼の表情から嘘をついているようにも見えない。

 俺のただの思い違いだったのだろうか?


「そうか。ならすまん。きっと俺の思い違いだったようだ」

「そう。今度こそいいかな? 失礼するよ」


 そう言ってサッと振り返り、男子生徒はさっさと歩いて行くのであった。






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