第8話 お人好し剣士の真壁
男子生徒から話を聞いた後、数人の生徒に真壁のことを聞いた結果、ざっくりとではあるが真壁がどんな人物なのか見えてきた。
一言で表すと俺が初めて真壁を見たときの印象通り優しい奴。
特に男子生徒からは、あんなにお人好しな奴なかなかいないぜって意見が複数あった。
女子生徒からは、物静かで真面目な性格という意見が目立った。
また、真壁の剣道の実力について聞いてみると、特別強いという印象は無く、むしろ控え選手だったはずという意見もあったので驚いた。
控え選手であった真壁が大会で優勝。
ここ最近猛練習でもしたのだろうか?
とはいえ、ちょっと猛練習しただけで中学からずっと剣道をやり続けていた川崎を打ち負かして優勝するほどの実力を得られるとは考えにくい。
このことについて詳しくは同じ剣道部員にでも聞いた方が良さそうだ。
数時間後。
現在の時刻は13時30分。
俺達2人は武道場へ戻ってお昼ご飯を食べ終え、目的であった練習試合を観戦中だ。
武道場に戻ってきたときは、剣道部の練習はちょうど終わったタイミングで、各自お昼休憩で各々お昼ご飯を食べ始めようとしていた。
その輪の中から出てきた川崎に声をかけられ3人でお昼ご飯を食べることになった。
あのときは3人で良かった……。
なんたって高梨さんと2人でお昼ご飯を食べるシチュエーションになっていたかもしれないからね。今まで2人で行動していたとはいえ別の緊張感があっただろうし、周りの目も気になる。
まあ3人で食べていても周りの剣道部員からは「川崎と高梨さんが仲良いのは知ってるけど一緒にいるあいつは何なんだよ?」って声が聞こえてきたので、結局目立ってしまったんだけどね。
そんなことを考えていると、隣から声がかかった。
「
「うぁっ!!っ……何? 高梨さん」
「まただ。驚き過ぎだよ!」
高梨さんに驚かされるのは本日2度目。
だからなんだって話なんだけど3度目はやられないように警戒しておこう。
「その顔どうせ聞いてなかったでしょ? もっかい言うね」
はい聞いてませんでした。お願いします。
「副将の北川くんの試合が終わったから、次はいよいよ秀くんと真壁くんの大将対決だね!」
「あ、ああそうだね」
今観戦している練習試合は、公式戦と同じように5対5の団体戦で行われている。
4人目の副将戦を終えて、現在味美高校が3勝で雪ノ丘高校が1勝だ。
つまり大将戦をやる前から決着はついているのだが、練習試合ということで最後の大将戦までやるらしい。
大将と言えば当然1番強い奴が選ばれることは剣道を知らない俺でも分かることで、必然的に川崎と真壁が対戦する構図が完成した。
「秀くんの話だと真壁くんは試合になると急に雰囲気が変わる選手だって言ってたよね! あの真壁くんがどんな動きをするのか注目だね」
「そうなのか? それは初耳だ。川崎そんな事言ってたかな……?」
どうやら真壁は試合となるとスイッチが入るタイプの選手らしい。
剣道部では無いが似たような奴が俺の知り合いにもいる。普段は温厚な性格だが、プレー中は荒々しく気持ちを全面に出すプレースタイルになる奴がね。
物静かで真面目な性格っぽい真壁だが、試合となると最強の剣士と言われるだけあって、それ相応のものを見せてくれるのかもしれない。
ちなみに取材をして分かったことだが、最強の剣士という二つ名は剣道部マネージャーである、あの市ヶ谷さんが名付けたらしい。
なかなかいいネーミングセンスだと俺は思います。
「秀くんと真壁くん立ち上がったよ!」
高梨さんの声に反応し俺も前へ顔を向き直す。
そこでふと真壁の方を見る。
真壁の様子を見た俺は、どこか不安そうな表情を浮かべているような感じがした。防具を付けているので直接表情が見えるわけではないが、なぜかそう感じたのである。
あんな様子では後ろ姿からでも気迫がひしひしと感じる目の前の川崎には到底勝てるとは思えない。本当にあの真壁は大会で川崎に勝ったのだろうか?
隣の高梨さんは鞄の中からビデオカメラをさっと取り出し起動した。
どうやらこの試合を撮影するようだ。
「秀介っ! 最後決めてくれよな!!」
味美高校側から川崎を応援する声が聞こえてくる。
そして両者は向かい合って礼をした。
それから数歩歩いてしゃがみ竹刀の剣先を交える。さっき川崎から教えてもらったが、
審判の「はじめ!」の合図で両者立ち上がり試合が始まった。
さて、真壁の実力のお手並み拝見だ。
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